第162話 プレーサマ辺境伯領都 その3
クルトさんが選んでくれたお宿は 街の広場からは少しだけ外れたところにある こじんまりとしたところだった。
「ギルドに近い場所は 冒険者が大半だ、あいつらは酒も飲むし 声がでかい奴らが多い。
北は 綺麗な宿が多いが高い、大概 大店の商人や 貴族なんかが泊まるからな。
中央広場に近い場所は 人目もあるし 安全な宿が多い。ヴィオが そのうちソロで泊るようなことがある時は そういう宿を選んだ方がいい。ただし 値段はそこそこ幅があるから よく見てから選べよ」
「この宿は 中央広場から離れてるから 少し他より安いんだよね、だけど 広場からの距離がある分 静かだから 早寝をするなら 此処はお勧めだよ」
お宿を眺めていたら 入る前に クルトさんが色々説明してくれた。
メリテントは 洗礼式シーズンで 混み合ってたから 宿をゆっくり選ぶことは出来なかったよね。
でも トンガお兄ちゃんの言葉を聞いた上で あの場所を考えれば、お父さんが しっかり選んでくれていたのが分かる。
「大概の町は 他所からの旅人を迎える門と反対側に 貴族の住むエリアがあって、東西には 街に住む農民や 商人の専用入口があることが多いんだよ」
「貴族の人たちは どこから出入りするの?」
「大概は 貴族のエリアがある方に門があるはずだ。この領都だったら 南が通常門、北が貴族門、西が農民用の門、東が商人用の門になってたはずだぞ」
トンガお兄ちゃんに質問すれば、ルンガお兄ちゃんが答えてくれた。
遠くから見ても壁が広すぎてわからなかったけど、西側には 畑が広がっていたのかもね。
通用門で 貴族とのトラブルとか ラノベあるあるだと思ってたけど、どうやらそういう心配はないらしい。
「あれ? でも 通常門に 商人さんの馬車が並んでたよね?」
「あれは この街に取引をしに来る馬車だと思うよ。この街に店を構えている人たちは東側の門から入るはずだからね」
へぇ~、結構細かく色々分かれているんだね。
確かに街道ですれ違った馬車の数を思えば 門に並んでいる馬車の数が少なすぎたもんね。
まあ、全部の商人馬車があの通用門を使ってたら 混み合って仕方なさそうだし、うんうん、納得です。
お宿の1階に食堂があるのは どこも同じなのだろう、宿帳に記帳して お父さんと私、お兄ちゃんたち3人の2部屋をお願いする。
「2泊3日で、食事は無しで」
「はいよ、3人部屋が 1日6ナイルで18ナイル、2人部屋が1日5ナイルで15ナイル、一緒に支払するのかい?」
「父さん 別払いでいいよね? 僕たちが3人部屋だから 銀貨2枚ね」
「はいよ、銅貨2枚のお返しね」
「じゃあ こっちは15ナイルじゃな」
「はいよ、いち、に、さん……、ちょうど15枚だね、まいどあり。じゃあ鍵これね。
3階の角部屋が3人部屋で、その隣が2人部屋だから」
お宿の鍵を受け取って 皆で階段を上る。
旅装を解いたら 広場の屋台で昼食予定だから 直ぐに準備しないとね。
街中では 村娘の衣装を着ることが多いんだけど、着替えをゆっくりしてたら お兄ちゃんたちを待たせることになるので、今日は短パンスタイルの冒険者装備のままだ。
「そのまま買い物にも行くからな、リュックはそのままで ええじゃろう。マントだけ外しておけばええと思うぞ」
そっか、そうだよね。全部置いていこうと思ってたけど、短剣は リュックにしまって、鞭ベルトだけにしておく。マントは壁掛けに引っ掛けておこう。
お父さんの大きなリュックは お部屋に置いておく。大切なものは私のマジックバッグに入っているし、このリュックには 野営道具くらいしか入ってないからね。
コンコンコン
「父さん、ヴィオ、準備できたかい?」
ノックの音がすれば トンガお兄ちゃんが 顔を覗かせてくれた。
こちらも準備万端だったので お部屋を出よう。
お部屋の鍵を掛けたら 上から【ロック】で二重鍵にしておくことも忘れない。
「あれ? お兄ちゃんたちは荷物全部置いてきたわけじゃないんだ」
大きなリュックと ウエストポーチを持っていたのが ルンガお兄ちゃんで、トンガお兄ちゃん と クルトさんは 肩掛け鞄だけだった。
長剣を背中に背負っているから リュックじゃないんだと思ってたけど、二人は旅装を解いても肩掛け鞄はそのままだ。
ルンガお兄ちゃんは リュックを下ろし、今はウエストポーチしか付けてないから 非常に身軽な人に見える。
「マジックバッグは 宿に置いておくには危険すぎるからね、基本的に盗まれても良い物しか宿には置いておかないことが鉄則だよ。
盗難者が 宿の客である可能性以外に、宿の職員がって事もあるからね」
まあ 合鍵を持っている訳だし、金目の物を置いて行ったと分かっていたら 魔が差すかもしれないもんね。二重ロックをしていても 宿から離れてしまえば 戻るまで多少時間もかかるしね。
うん、気を付けるようにしよう。
そんな事を考えながら歩いていると、だんだん良い匂いが辺りに漂い始める。
馬車移動が多いという事で 歩道に人が溢れているという事はなかったんだけど、中央広場に近付くにつれ 匂いと共に 人々の騒めきも大きくなってきた。
「ヴィオ、人が かなり多くなるから」
そう言われて トンガお兄ちゃんが 両手を広げてくれるから 素直にその腕の中に飛び込めば、非常に嬉しそうに抱き上げられる。
「さて、何を食べようか」
「いっぱいあるから 迷っちゃうね」
「お前ら ふつーに抱き上げんのな」
「ヴィオは軽いし 抱き上げられるのも上手いから いいもんだぞ」
トンガお兄ちゃんと キョロキョロしながら 屋台を見回していたら、クルトさんが少々呆れたように 呟いている。
そういえば クルトさんには 抱っこされたことはないね。
ルンガお兄ちゃんも 抱っこは上手いんだよね。
基本的には 片手抱っこなので、曲げた腕に座っているみたいな感じだ。皆 鍛えているから がっしりしてるし、安定しているので 座ってても安心する。
「ふふっ、僕らの事を怖がらない子供ってだけでも珍しいのに、こんなに懐いてくれるなんて 可愛くて仕方がないだろ?」
「ふ~ん、そんなもんなのかね」
クルトさんは実家で 可愛い盛りのココアちゃんを見ている筈だけど、メロメロにならなかったのだろうか。
「あっ そっか、クルトさんは ボインボインのお姉さんが好きだもんね。抱っこするならお姉さんの方がいいよね?」
そうだよ、ハニトラに何度でも引っかかるレベルのクルトさんだもん、ツルペタ幼女じゃなくて あは~ん♡な感じのお姉さんじゃないと トキメキはないだろう。それは仕方ないね。
「んぐっ」
「ぶっっっ」
「ヴィオ……」
「お前……ボインボインって、まあ好きだけど そういうんじゃねえだろ。
ってかお前みたいな幼女が そんな事言ってんじゃねえぞ、ったく」
叱られました。
トンガお兄ちゃんは「自業自得だね」とか言ってるけど お父さんたちは笑ってるし、クルトさんもブツブツ言いながらも 怒っている訳ではなさそうなので 良しとしよう。
皆で屋台を冷やかしながら 美味しそうなものを選んで購入しては 食べ歩きを楽しむ。
私はそんなに沢山食べられるわけではないけど、健啖家がこれだけ揃っているからね 一口ずつもらって 色んな種類を楽しませてもらっている。
お宿では食事を頼まなかったから、この街にいる間は この広場での屋台飯になるのだろう。だけど メリテントよりも 更に屋台の数が多いから、十分楽しめそうだ。
クルトさんは ボインボインの バインバインな ゴージャス美女が大好きです