第160話 プレーサマ辺境伯領都 その1
「お~、見えて来たぞ。
ヴィオ あれがプレーサマ辺境伯の領都だ、デカいだろう?」
ルンガお兄ちゃんの言葉に 前を向けば、確かに街らしい壁が見えてきた。
ってか 壁しか見えないけど この位置からあの壁の長さって どれだけ大きな街なの?
近づけば近づくほど 街の大きさが分かるけど、門にできた行列に並ぶ頃には 壁しか見えなくなった。
「中見えないね……」
「ぷはっ、そりゃそうだよ。辺境伯が治める領都だからね、サマニア村程の危険性はないけど、ココもまた辺境だから スタンピードが起きた時は 街ごと籠城できるように壁を丈夫にしているんだよ」
サマニア村の外壁は 木で作られているし 大体2メートルくらいだ。
お父さんが手を伸ばせば 余裕で届くくらいの高さしかない。
それに比べてこの壁は 上が見えないし、多分 此処から見えている雰囲気でも 馬車が丸ごと入っても 通り抜けれないくらいの厚さがある。どんだけ~!である。
「お父さん3人分くらいの高さがある?」
「「「ぶっっっ‼‼‼」」」
親指と人差し指で遠近法を使いながら 壁の高さを考えていたら、あちこちから吹き出す音が聞こえた。
不思議に思って お父さんの肩越しに 見渡したら、列に並んでいた 人たちが 肩を震わせて笑いをこらえている。
「そうじゃな、この壁は10メートルくらいじゃから 儂が5人分を越えるなぁ」
「「「ぶはっっっ」」」
10メートルと言えば マンションの4階くらい? そんなにあるんだね。
ヨーロッパのお城では4メートルくらいが多いって見た事があるけど、完全人力で石積みをしてたんだったら それが限界だよね。
ここでは きっと 建築にも魔法が使われてるんだろうから そんな高層で作れたんだろうね。
後ろに並ぶ おじさんは 完全に私に背中を向けてしまったし、前に並んでた 女性の冒険者3人組は ちょっと涙目になっている。
「ふふっ、この街ははじめて来たの?」
「うんっ、お姉さんたちはこの街の人? すっごく大きな壁でビックリしちゃった。領主様の街はおっきいんだね!」
「「か、かわいい……」」
「ええ、私たちは この街を拠点にしている冒険者なの。お父さんたちが冒険者だから 私たちを見ても怖がらないのね、嬉しいわ。
中もとっても広くて大きいのよ。是非ゆっくり楽しんで見て回ってね」
女性冒険者と言えば ビキニアーマーを勝手に想像していたけど、そんな事はありませんでした。
うちの町にいる 銀ランクのお姉さんは 胸元パッカーンな上衣だったけど、こちらのお姉さんたちは ハイネックインナーでしっかり隠れています。
長剣を背中に抱えているお姉さんが お話してくれているけど、後の二人は 涎を垂らしそうなお顔で 手がワキワキしています。
ルンガお兄ちゃんが怪訝な顔をしているけれど、インランお姉さんの時とは違う感じなので 不快感を抱いている訳ではなさそうです。
大きな街だけあって 街に入る為の列は長く、馬車は 左側に並び、人は右側に並んでいる。
お兄ちゃん曰く 馬車は荷物の確認なんかもあるから 別なんだって。
少しずつ 進むこの列は 人気アトラクションの行列に並んでいる気分である。
お姉さんたちと会話をした事で 後ろにいたおじさんたちからも話しかけられた。
「嬢ちゃんは 父さんや 兄さん達との旅かい? こんな小さいのに 馬車旅じゃないってのは 凄いなぁ」
クルトさんが家族枠から外れるのは 目立つシマシマの尻尾で分かるけど、私の種族が違うことをぱっと見で分からないようにと リリウムさんが帽子を作ってくれたのだ。
色変えの魔術具で ハーフアップにし、下ろした髪を 二つ結びをしてから 耳まで隠れるニット帽をかぶる。
冬用の モコモコニット帽と、夏用の フォレストスパイダーの糸で編まれたニット帽の二種類だ。
私の耳まで隠れるニット帽に 茶色い熊耳を付けてくれているので 帽子を脱がなければ人族だとは分からない仕様になっている。
熊尻尾は短いから見えなくてもおかしくないし、マントをつけているから余計に分からないだろう。
おかげで おじさんも お姉さんも 私たちが親子であると疑ってない。
「うん、お父さんたち強いから 楽しかったよ、ねっ♪」
「「きゃぁぁ~」」
お兄ちゃんたちに同意を求めれば ワキワキしてたお姉さんたちが黄色い声を上げる。
きっとこの人たちは可愛いもの好きなんだろうね。
うんうん、私もちびっ子たちを見た時は ワキワキしちゃうからよく分かるよ。
「嬢ちゃん アメちゃん食べるか?」
おじさんの一人が包み紙を出してくるけど、この世界にも飴があるんですね?ってか 〈あめちゃん〉って西日本の方言だと思ってたけど こっちでも言うんですね。
「おじさんありがと、でもね、知らない人から 食べ物は 貰わないことにしてるの、だからごめんね」
「ほら、知らないオッサンからの食いとかもらわねーよ」
「ええっ、小さい子は甘い物が好きだと思ったのに……、ていうか 俺 おじさんなの? 」
「偉いな~、お父さんたちから教えられてんだな。うんうん、知らない人からもらわないのは正解だぞ」
後ろのおじさんたちも 多分冒険者パーティーだと思う。仲良しっぽいし 悪い人じゃなさそうだけど、ここで知らない人からものを貰ったら 今後断りにくくなるからね。
普通におじさん呼びしたけど、すごくショックを受けていらっしゃる……。
え?でも 見た目30代くらいだし、6歳からしたらおじさんで良いよね?
チラリとお兄ちゃんたちを見れば とてもいい笑顔で返される。
うん、カッコいいね。
じゃなくて、お兄ちゃんたちは 髭もないし、清潔感があるから 年よりも若く見える。ルンガお兄ちゃんが19歳で トンガお兄ちゃんたちが21歳だ。
日本人としての記憶からすればもっと上に見えるけど、この世界での平均を知った今だと若く見える。
そして後ろのお兄さん達は 無精ひげも生えてるし、何となく全体的に煤けてるから 若く見積もっても20代後半だ。
お姉さんたちは 多分お兄ちゃんたちと 同じくらいだと思う。




