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〈閑話〉メネクセス王国 16

~メネクセス国王ファイルヒェン視点~





アイリスが死んだ。

ヴィオの事は捜索させているが 宰相がアイリスの行方を調べさせていた冒険者が アイリスの死亡を確認したというのが 昨年の水の季節だという。

既に半年以上が経過している。

親が居ない子供は 孤児院に救済してもらえることが多いが、あの皇国はどうだろうか。

冒険者ギルドが無い国だから立ち寄ることはなかった。

だが 教会は全ての村に 大小の違いはあっても 建築されているというから 併設される孤児院もあるだろう。


そう思えば ヴィオが孤児院で生きてくれている可能性は高いだろう。

しかし 孤児院は 決して良い環境とは言えないだろう。そんな苦労を まだ たった5歳の娘にさせることになるなんて。

アイリスを失って どれだけ悲しい思いをしているだろうか。

俺のことなんて 覚えてないかもしれないな。

だけど、だけど 生きていてほしい。

今すぐ俺が迎えに行きたいが、国王というしがらみは 早々他国に行くこともできない。


王都の冒険者ギルドには 知り合いもいないため、信用できる冒険者パーティーに手紙を書いた。

彼らは 銀ランクパーティーだから 本来は 指名依頼をすることは出来ない。

ヘイジョーの冒険者ギルド宛に 無理を承知で手紙を出した。


〔オウサマのご依頼とあれば つつしんでお受けいたします。


ってバーカ、もっと早く俺たちを頼れよ。皇国は ネリアの出身だからな、多少の地の利はある。

ヴィオの足取りが分かったらすぐに連絡する。

まずはプラネルト辺境伯領 ネンシー経由で 皇国へ入る、皇国はギルドがないから 辺境伯領地に戻っての連絡となるだろう。何か連絡があれば ネンシーのギルドに手紙を送ってくれ〕


テリューからの返信に泣きそうになった。

ヘイジョーの町で再会した〔土竜の盾〕のパーティーは、リズモーニ王国のダンジョンで 出会ったのが始まりだった。

当初は男女二人ずつの4人パーティーで、俺とアイリスが臨時パーティーを組んで何度か ダンジョンに潜った。

回復役と斥候役の重要性を認識した彼らは、その後 オトマンとネリアをメンバーに加え、多くのダンジョンを攻略していった。


数回の臨時パーティーを組んだ中では 非常に付き合いやすい奴らだったが、その後 俺たちは共和国へ、彼らはメネクセス王国のダンジョンを目指して別れたきりだった。

冒険者は 様々な街や国に移動していくから 別れは当たり前だ。勿論死別という事も珍しくない。


だからこそ、再会した時にはお互いに驚いたものだ。

友人同士だったパーティーは 結婚を考えるようになり、拠点をヘイジョーに決めたというのも同じで笑い合った。

回復役のネリアが 皇国の男爵家から逃げ出した過去があり、貴族との付き合いをしたくないからと 銀ランクの上級から上げない彼らは 金ランク中級程の実力がある。

そんな彼らが 貴族になってしまった俺からの依頼を受けてくれた。

確認のための連絡で、報酬などは その後に話し合うつもりだったのに、テリューの手紙には 〔出来高払い、かかった必要経費を実費請求するからよろしく〕とだけ書かれていた。

同封されていたギルマスからの手紙には 既にヘイジョーの町を出たという一言があったので 本気で出来高払いで良いという事なんだろう。


彼らが捜してくれるなら、ヴィオの行方は 必ず分かるはずだ。

俺は俺で やることをやっておこう。



◆◇◆◇◆◇



「国王陛下、グリツィーニの長男 シュクラーン・アイン・メネクセスと申します。

ご拝謁が叶い恐悦至極でございます。こちらは 弟の ロデドロンでございます」


「国王陛下にご挨拶いたします。 グリツィーニの次男 ロデドロンと申します。ご拝謁が叶いこ、きょ、光栄でございます」


謁見の間ではなく、広い応接室で対面しているのは 故王太子だった 兄上の子供達だ。

アイリスが亡くなった傷心であれば 付け入る隙があると思ったという王妃に媚薬を盛られた。初めの契約の時に 閨を共にすることはないと言ったが どうにかなると思ったのだろう。


自分の子供が欲しいという気持ちは分からなくもないが、俺は アイリス以外の相手と作りたいとは思わないし、今となっては ヴィオ以外の子供が欲しいとも思わない。

だからこそ 兄上の子供たちの帝王教育を始めるために 王都に呼び戻したのだ。

俺自身が 帝王教育を受けていないから教えることは出来ないが、離宮には 前王の父が存命だ。

流行病の後遺症で 国王という激務を続けることが出来ないという理由で 表舞台からは去ったが 頭は健在なのだ。

アーゴナスの父である リオネルも父の側近のままだからな、甥たちの帝王教育をしてもらうには十分だろう。


「シュクラーン、ロデドロン、私は君たちの叔父だ。

今は国王という役職ではあるが シュクラーンが 成人した時点で 王位を譲り渡すつもりだしな、そのように堅苦しい話し方はせずともよい。

まずは ソファに座ってくれないか? 喋りにくくて敵わん。

ミュゼット妃も、それからトルマーレ前辺境伯もどうぞ おかけください」


ソファに座ることなく 扉口を入ったところで跪く子供達と その後ろで 頭を下げたままの二人。

女性は兄上の妻だったミュゼット元王太子妃で、男性は 子供達を匿っていたトルマーレ前辺境伯だ。俺が12になる時まで世話になった人でもあるが、随分年を取ったものだ。

いや、俺が居た時点でも50歳くらいだった事を思えば 当り前だな。


俺が声をかけたことで 子供達は立ち上がり ソファに座った。長男は既に10歳という事で 緊張をしたままだが、次男は まだ7歳だ。緊張よりも 興味の方が勝っているらしく キョロキョロと周りを見渡している。


「これから 其方たちは この城に住むこととなるのだ。このあと ゆっくりと城内を案内させよう」


「国王陛下の御前で失礼いたしました」


「ミュゼット妃、俺は気にしない。初めて来た場所に興味津々になるのは 子供であれば当然だからな。

其方たちとは これから良好な関係を築けるようになれば嬉しい。

聞いていると思うが 俺は元々冒険者として 活動していた。未だに貴族のやり取りは苦手でな、帝王教育も学んでいない。

だから その帝王教育に関しては前王である父、其方たちにとっては祖父が教えてくれることになっている。

俺が其方たちに教えることは 冒険者として 各国を巡った事で培った外交に関する事や、平民たちとの付き合い方だな。

ああ、後は 自分の身を自分で護れるだけの武力に関しても鍛えたければ付き合おう。

アーゴナス、彼らに城内の案内を、前王への挨拶の時は俺も付き合おう。彼らの離宮へ案内してやってくれ」


アイリスの件があってから アーゴナスとは一定の距離を取ったままだ。貴族との緩衝役は 宰相であるアーゴナスに頼ることが一番効率的だし、こいつが抜けることで 仕事が回らなくなるのは 目に見えている。

ただ、ヴィオの捜索に関しては手を出すことを禁止している。

冒険者ギルドへの手紙を持っていくなどは 俺の護衛騎士に任せた。

コイツには アイリスを殺害した者達に関しての洗い出しをするように命令している。王妃の発言内容に関しても調べさせている。


子供達二人が退室したところで ミュゼット妃と トルマーレ前辺境伯だけとなる。


「国王陛下、先ほどのシュクラーンが成人したら王位を譲るという話ですが……」


おずおずと 話し始めた元王太子妃は 視線をさまよわせながら 静かに聞いてくる。


「ああ、そのつもりで この王位に就くという約束だったからな」


「しかし メネクセス王国の国王は 代々 菫色の瞳を持つ者が王位を継いでおります。次男のロデドロンは幸い 王太子の瞳を継ぎました。

ロデドロンを王太子にされた方がよろしいのではないでしょうか」


俺の返答に待ったをかけたのは ここまで沈黙していた前辺境伯だ。

確かに、次男のロデドロンは金髪に菫色の瞳で、兄上にそっくりなのだそうだ。


「はっ、菫色の瞳ね……。

目の色だけで王座に就けるから 俺みたいな帝王学を学んでなくても、野蛮だと思われる冒険者上がりでも 王様になれたんでしょうね。

子供の頃は ラフターラの落し胤と言われ、からかいの対象だっただけなのに」


大陸を冒険しているうちに 様々な人種に出会った。姿かたちや色も本当に千差万別で、色だけにこんなに拘っているのはこの国だけだと知った。

紫の瞳も何人も見た。俺の目と同じ色には会ったことが無いけど、似た色なら居なくはなかった。

俺の言葉に 思うところがあったのだろう、前辺境伯は グッと噛みしめたように「そうですか」とだけ呟いた。


「別に ロデドロンの方が 王として才能があれば 彼が王位を継いでも良いとは思うぞ?ただ、俺をこの国に留め置くのは シュクラーンが成人する6年後までだ」


「それは 何故でしょうか、年数をお決めになられた理由をお伺いしてもよろしいでしょうか?」


王位が空白の期間があっても良いのであれば ロデドロンでも良いのだ。

ただ、二人は3歳も年齢差があり、流石に更に3年待つことなどできそうもないだけだ。今すぐにでも 俺自身で 娘を探しに行きたいのに だ。


「俺の妻は 貴族の謀略に巻き込まれないようにと 宰相が手を回し 俺が知らぬ間に国を出ていたらしい。そして他国で殺された。

この国に 俺が戻ってこなければ 妻が死ぬことはなかったし、娘の行方が分からなくなることもなかったが、それは今更言っても仕方がないのは理解している。

今は 俺が信頼を置いている冒険者に 娘の行方を捜してもらっている。本当なら俺自身が探しに行きたいが まだ国内での情勢が完全に落ち着いたわけではないからな。

貴女ならどうだ?

子供が1歳になる前に離され 生死も分からぬまま会えぬ事を許容できるか?

ああ、俺の両親は 平気だったから 平気な者もいるのだろうな。

だが 俺は無理だ、今すぐにでも会いに行きたいし、母を失った娘を抱締めてやりたいんだ」


「陛下!娘は あなたと離れることを平気だと思っていた訳ではありません!」


「一度も会いに来ることも 手紙をくれることもなかった人が どう思ってたかなど知るはずが無かろう!

俺は 両親の愛も、家族の愛も知らずに育った!

俺にその感情を与えてくれたのは アイリスとヴィオだけだ。家族という形を作ってくれたのは 妻で、俺に幸せをくれたのは娘だ」


俺の母は 前国王の側妃であり、前トルマーレ辺境伯の娘でもある。

俺の目の色がこの色だったせいで 安全に過ごせるように トルマーレ辺境伯に預けられたというが、やはりこの目の色こそが元凶ではないか。


「俺は、この目の色でなければと何度思ったか分からん。

だが、アイリスが綺麗だと言ってくれた。メネクセス王国の王族の色なんて関係なく ただ その菫色が綺麗だと言ってくれた、だからこの色を認めることがやっとできたんだ」


アイリスの珍しい髪色と、俺の珍しい瞳の色を持って産まれた娘のヴィオ。

あの色が周囲に見つかれば それこそ人攫いにあっているかもしれない。いや、他国迄移動していたアイリスが その色をそのままにしておくはずはないか。

左手首に巻かれた アイリスの遺髪で作ったミサンガを撫でる。

俺の気持ちを理解してくれたのかは分からないが、ミュゼット妃は シュクラーンが成人した時の王位継承について了承してくれた。


前辺境伯からは 幼い頃に手を伸ばすことが出来ず申し訳なかったと謝られたが、あの頃傷ついていたファイルヒェンは もういない。

アイリスと出会って フィルという別の人になったと思っているから。

魔導学園に入学するときに伝えたのと同じ、親無しの自分をあそこまで育ててくれたこと、そして 魔導学園に入学する機会をくれたことを感謝していると伝えた。

あれが無ければ 辺境伯領地から出ることはなかっただろうし、冒険者になることもなく、アイリスに会うこともなかったはずだから。


王妃とは 隔絶状態、さっさと王位継承の準備をすべく 兄達の遺児を王都に呼び寄せ お勉強を始めました

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