第154話 お兄ちゃんたちと魔法の練習
手合わせをギルドでした後、お兄ちゃんたち三人は 水生成魔法の理論を学ぶべく サブマスに連れられて 2階に上がって行った。
私とお父さんだけでお家に帰ったんだけど、今夜の魔力操作の練習は一緒にできるのかな?
「まあ あいつらは成人しとるしな、遅くなるようじゃったら 屋台で食って帰ってくるじゃろ。ヴィオの寝る時間が遅くなる方が困る」
ということで、私たちはいつも通りの時間に夕食を食べ、お風呂に入って寝る準備だ。
「ただいま~」
お風呂上り、いつも通り お父さんに髪を乾かしてもらっている時間になって お兄ちゃんたちが帰ってきた。
「お帰りなさ~い」
「遅かったな。晩飯は食べて来たんじゃろ?」
「…………え?」
「おい、兄貴 何で入らないんだよ」
キッチンというか リビングは 玄関入って直ぐの部屋で、髪を乾かす時は いつもリビングの子供椅子に座ってやってもらっている。
だから 帰ってきた二人を直ぐに迎え入れることが出来たんだけど、トンガお兄ちゃんが玄関で固まってるから 後ろにいるルンガお兄ちゃんが入れなくて困ってる。
「ちょっ、兄貴邪魔だっつーの。って、え? ヴィオか? その頭どうした?」
固まったままのトンガお兄ちゃんを押し退けて ルンガお兄ちゃんが入ってきた途端 その聞き方、頭がおかしくなったヒトみたいに聞こえるからやめてください。
って、髪色か!
そう言えば お兄ちゃんたちが村に帰ってきた日から、夜はお友達と会うのに 私が寝るまで家に居なかったもんね。
朝は準備の時点で色変えの魔術具を付けるのが癖になってるから、この色は初めて見せるかも。
「ああ、ヴィオが この村に来た理由を聞いたじゃろう?
母親を殺された理由が不明じゃからな。母親はヴィオと同じピンクの髪じゃったらしい。目の色も珍しいからな、両方色変えしとるんじゃ。
この村の大人は来た当初のヴィオの姿を知っとるが、あの新人冒険者は知らんし、言う予定もない。
今後も 家の外では基本的に色変えをしておるからな、そのつもりでおってくれ」
お父さんが お兄ちゃんたちに しっかり説明をしてくれる。お兄ちゃんたちはこの村に流れ着いた事とかは聞かされたって言ってたもんね。
聖属性を狙ってなのか、髪色なのか、元々お母さんだけが狙われてたのか、その辺りが分からなかったからね。それじゃなくても珍しい髪色ってことで人攫いに会う可能性はあるって事で隠していることを説明してくれた。
「ん?ああ、確かに目の色も 茶色じゃねーんだな。お~、綺麗な紫色だな」
ルンガお兄ちゃんが しゃがみ込んで私の目を覗き込んでくる。瞬きしてもいいですか?
ちょっとだけ目が乾くと思ってたら 椅子からひょいと抱き上げられた。
「ヴィオ、茶色でも僕たちとお揃いで可愛かったのに、これはこれで人形の様じゃないか。
確かに こんなに可愛かったら人攫いに会う可能性はあるね。うん、可愛いから隠すのは勿体ないけど、仕方ない。しっかり隠そう」
トンガお兄ちゃんは 可愛いもの好きだもんね、お人形と言われて悪い気はしないですよ。どうぞ どんどん可愛がってください。
◆◇◆◇◆◇
まあそんな家族団欒は置いておいて。
「お兄ちゃんたち 魔力操作の練習する? 今日は止めとく?」
「やるやる!水を作るのも 操作に慣れておいた方が 消費魔力が少なくて済むって言われたからね。そんな直ぐに上達するものじゃないだろうけど、今までやった事もないからね。
父さんも毎日やってるんでしょ?」
「おう、最初はヴィオに教えてもらってな。おかげであんまり使わんかった火魔法も 威力が上がるようになったぞ」
「マジか、そんなに違うもんなのか。俺もやるぞ、ヴィオよろしくな」
お兄ちゃんたちもヤル気になってるから 私も頑張って教えるよ~。でもクルトさんはいいのかな?そう思って聞けば、クルトさんには お兄ちゃんたちから 教える約束をしたらしい。
うちに泊まる部屋が無いし、後はダンジョン旅の途中で慣らすってさ。
確かに 魔力操作訓練は毎日することだし、効果も直ぐに出る訳じゃない。だからこそ 子供達も学びたがらず、先に攻撃魔法から教えてたもんね。
お父さんが効果を実感し始めたのは 3か月超えた頃って言ってたよね。
だけど レン君や ハチ君たち 学び舎で木札を作ってたメンバーは、意識せずに魔力操作の練習をしてたからか、もっと早く細かい操作が出来るようになってたよね。
「ああ、あれは あの魔法に関しての魔力操作が上手くなったんじゃろうな。
勿論 全く魔力操作を考えずに練習するよりは、レンたちも 今後攻撃魔法の練習が始まった時は上手く使えると思うがな。
ヴィオも 同じ魔法は何度も練習しているうちに 早くなったり 強力になったりしていると言うておったじゃろう?」
ああ、そういうことか。若さで習得が早いのかと思ったよ。
そうだよね、だとしたら誰より早い3歳から魔力操作の練習を続けてる私が 完全習得できてないはずがないもんね。うん、筋トレやストレッチと同じで やり続けないと駄目って事だね、頑張ろう。
早速お兄ちゃんたちに 得意属性を聞いてみる。得意属性で練習できた方が 辛くないと思うしね。
「僕は 木魔法が一番で、土と水が同じくらいかな」
「おれは 木、火、風だな。どれもあんまり使わねえから同じくらいだ」
お父さん遺伝子としては木魔法がマストだったのかな。それとも熊獣人さんに多いのかな。
土魔法だったら土人形が一番 操作の練習にはなるけど、家の中ではやりにくい。野営中の練習には良いかもだけどね。火魔法は操作練習に向いているのが無いんだよね。考え付いてないだけだと思うけど。
風魔法は 私がやっている 葉っぱを動かすのが一番だけど、トンガお兄ちゃんは風が得意属性じゃないもんね。
「やっぱり木魔法かな。お父さん、カルタの磨きだったらいいかな」
「そうじゃな。目に見えるし、あれは 子供らでも上達がようわかったからな。
家じゃなければ トンガは土で、ルンガは風で操作の練習もできるじゃろう」
おお、お父さんも同じこと考えてたっぽいね。うんうん、それでいこう。
お兄ちゃんたちは 私たちの会話の意味が分かってないけど、大丈夫、学び舎でも皆がやってることだからね。
という事で、カルタ板の常設依頼は相変わらずギルドにあったので、沢山出来たら 納品もしてしまいましょう。
「今 学び舎では 文字を覚えるのに カルタっていうのを作ってるの。
これは メリテントの商業ギルドに登録してて、冒険者ギルドの学び舎だけじゃなくて、一般の知育玩具としても使われるようになってるのね。
で、その板を作るのに この木を加工するのが とっても魔力操作の訓練にいいの」
キッチンの隅にあった籠には 加工前の切り落としただけの枝が沢山入っている。
お兄ちゃんたちは 薪にする木材だと思ってたらしいけど、薪は ちゃんと表の薪置き場に置いてますよ。
「へぇ~、今はそんなものを使ってるんだ。学び舎も変わったんだね」
「常設依頼に書いてた よく分かんねえやつが それか。サマニア村は木が多いし、森も近いから その仕事が多いのか?」
お兄ちゃんたちに 切り落としただけの枝を2本ずつ配れば 素直に受け取ってくれる。
「まあそれもあるが、カルタの発祥の地がサマニア村じゃからな。というか、カルタを考え付いたのはヴィオじゃ。子供らが文字を覚えやすいように作りたいと言うてな。
村長も これは登録すべきじゃっちゅうことで、直ぐにギルドに登録したんじゃ。仮名で儂の名前で登録しとる。
今は メリテントだけじゃなく 他でも加工が始まっとるじゃろうが、メリテントからは定期的にカルタの買取に商人が来るようになっとるぞ。
学び舎では魔術の授業で この木の加工をやっとるお陰で、木魔法が得意属性に増えたものもおるし、魔力操作が軒並み上達しとるな。
ほれ、最初はこうして 角材にしていくぞ【ウインドカッター】」
お父さんが 角材にする見本を見せながら お兄ちゃんたちに説明をしているんだけど、旅先では情報が無かったのかな?
いや、学び舎を卒業した冒険者が 再度学び舎に行くことはないもんね、気付かないか。
お兄ちゃんたちは驚きながらも、お父さんの手元を見て 自分たちの角材に印をつけていく。
「父さん、僕 風魔法そんな得意じゃないんだけど?」
「ん?ああ そうじゃったな。 じゃが得意属性に無かったレンも使えるようになったぞ?
まずは呪文付きでやってみるか? ええっと、たしか……
〈我が手に集まりし風よ 強く回転する風の刃ですべてを切り裂け〉じゃったと思う」
無詠唱に慣れると 呪文を思い出せないよね。
あれ、でも トンガお兄ちゃんって 他の魔法はどうやって使ってるんだろう。
「ええっと、我が手に集まりし風よ……なんだっけ」
「ねえねえ、トンガお兄ちゃん、お兄ちゃんが普段使う魔法は何を使うの? 呪文も使ってる?」
ルンガお兄ちゃんは 使い慣れているのか、トリガーだけで角材にしていってるけど、トンガお兄ちゃんは呪文をメモしながら読んでいる。
「ん?そうだね、木魔法で【アイビー】を使うことは多いかな。あとはテントの時に 地均しするのと、【アースポール】で支柱を立てるくらいかな」
おお、お父さんの とんでもテントは 冒険者共通だったのか。いや、まだお兄ちゃんはお父さんの家族だから説があるぞ。
他の冒険者と お外で出会うことが無かったから分からないけど、今度の旅では会う可能性があるからね、ちゃんと確認しておこう。
それはそうと、やっぱり慣れているのは 呪文無しなんだね。
「じゃあ 面倒な呪文じゃなくて、私が普段使ってる風魔法でやってみよ?」
「ん? ヴィオが使ってる風魔法? 何か違うの?」
エアとウインドの違いだけだけど、私の中では便利な風魔法と、首チョンパ魔法という違いになってます。
「やってみるね。【エアカッター】」
とりあえず見せた方が早いので、1本取り出した枝に魔法を使う。一応 方向指定として指先でなぞるようにしているけど、これが一番安定して切りたいように切れるから良いのだ。
指先が木についている訳じゃないけど、その指先の延長線上にある枝が 真っすぐに線を引いたように削れていく。
「え? どういうこと? 父さんの ウインドカッター とは随分違わない?」
「くくっ、ヴィオは ウインドカッター じゃと 威力が強すぎて 細かい作業には向かんのじゃ。
ほれ、昨日の森で ボアの首を落としておったじゃろう? ああして首を狩る時には丁度ええらしいんじゃが、細かい時は ああして指先で調整しながらやっとるんじゃ。
ちなみに儂も ヴィオの エアカッター は使えん」
【ウインドカッター】は私の中で首チョンパ魔法ですからね。
結局トンガお兄ちゃんは ウインドカッターで やることに決めたそうです。ちえっ。
だけど、ルンガお兄ちゃんが やってみたいと言うので、角材から薄切りの板状態に加工するときに 何度かやって見せれば、枝を1本消費する頃には 出来るようになっていたよ。
「ルンガお兄ちゃん 凄い! エアカッター は サブマスさんしか使ってくれなかったのに、嬉しい!」
サブマスは 同じ原理の魔法でこんなに違うことに興味を持ち、自分でも何度も練習して 出来るようになってたよ。ちなみに魔法担当のアリアナ先生は再現できなかった人です。
だって、説明なんて難しすぎるよ。
【ウインドカッター】は首チョンパできるように、ビュ~ンって丸い風が行く感じ。
【エアカッター】は 細い風が ピューって、ビャーってなる感じ。って言ったんだけどね。「意味が分からないわ」と一蹴されてしまいました。
「へへっ、得意属性だからな。けど これは結構便利かもしれねーな。魔獣討伐の時も ウインドカッターを使ってたけど、早い奴だと避けられる。
だけど これだったら指先で追えるだろ? こっちの方が使いやすいかもしれねー」
……考えたことはなかったね。
追いかける為に エアショット を考え付いたけど、エアカッターは あくまでも便利な加工魔法になってたよ。
薄い板に出来たら 研磨の魔法。これこそが一番魔力操作の練習になるけど、トンガお兄ちゃんにとっては あまり使ってなかった風魔法を使うことが訓練になったみたい。
何枚か見本を見せた頃には 私も眠たくなってきてしまったので、後はお兄ちゃんたちだけでも練習をするっていうので 先に休ませてもらうことにしたよ。
「「ヴィオ お休み」」
うん、おやすみなさい、頑張ってね。