第153話 お兄ちゃんたちと手合わせ その3
ラストは 次兄のルンガと ヴィオの手合わせです
「さて、じゃあ最後は ルンガ と ヴィオじゃな」
「ルンガ 頑張れよ~」
「あー、ヴィオは何の武器を使う? 短剣が基本だったか?」
「ん-、メインは魔法なんだけど、手合わせするときは 短剣が多いかな。
タディさん達の時は 全部使ってる」
それでも余裕でいなされるんですけどね。
ルンガお兄ちゃんは どれを使っていいですか?
「タディの息子のガルスは 実剣を使って相手しておるからな、ルンガも木の棒じゃない方が良いかもしれんな。ヴィオの結界にどれくらい強度があるのかも 自分で体験してみればええ」
衝撃はくらうけど、斬れることはないだろうから安心してほしい。私もどれくらいいけるか確認してみたいしね。
ルンガお兄ちゃん的には 私に実剣を使うのは嫌らしいけど、強度確認という言葉に納得したらしく、訓練場にある鉄剣を使うことにしたらしい。得意武器は槍なのに、剣で良いのかな?
「無理だと思ったら 降参しろよ」
「うん 分かった。ルンガお兄ちゃん よろしくお願いします。行くね!」
強化魔法と結界鎧は お兄ちゃんが鉄剣を選んでいる間に実装したから準備万端です。
お父さんと サブマスさんの言葉を全部信じている訳ではないんだろうけど、スチーラーズの三人のように隙だらけという訳ではない。
まずは短剣でいってみよう!
グッと踏み込んで お兄ちゃんの背後を目掛けてダッシュ。
私の小柄さを活かして 低いまま移動するから 攻撃がしにくいと 大人たちには大不評を頂いている。
「うおっ、はえぇ」
背後に回り込む寸前、すれ違いざまに 太ももへ 左手の短剣を滑らせるけど、これは鉄剣で防がれた。流石だね。
そのまま背後でターンをして 両膝を狙って短剣を振りかぶるけど、お兄ちゃんも振り返って剣で防がれる。オークもハイゴブリンも これで一撃だけど、銀ランクには効果が無いんだね。
また向かい合わせになるけど、今度はお兄ちゃんから メラメラした魔力が噴出しているのが分かる。トンガお兄ちゃんの威圧と同じやつかな。
「今度はこっちからも行くからな、ちゃんと避けろよ」
はじめて使ってみせた短剣も 冗談じゃなく武器として使用していることが分かったらしく、剣の握り方が変わった。
上段からの振り下ろし、からの 切り上げ、右からの薙ぎ払いと 連続で剣が振られる。ブゥン、ブゥンと剣と共に風の音がするくらいの速さで、当たったら痛そうだと思う。
槍だったら これに突きとかもあるんだろうな。
振り下ろしはバックステップで除け、切り上げる剣も剣筋を読んで 避ける。右からの薙ぎ払いが来た時は そのまま飛び上がって 顎に蹴りを入れた。
強化魔法をしたままの蹴りは、こないだの誘拐犯を気絶させた掌底と同じくらいの威力のはずだけど、お兄ちゃんは少したたらを踏んだくらいで、剣を取り落とす事もない。凄いね。
「マジかよ、6歳の蹴りじゃねえぞ」
「ルンガ、おされてんぞ~」
「父さん、ヴィオにどんな訓練させてるの? まだ6歳でしょ?」
「森の的当ては 初級ダンジョンの旅の前にやったなぁ」
然程効いてないと思ったけど、ちょっとは効いてたらしい。顎を抑えながら 首をコキコキさせている。
クルトさんからの野次が飛んでくるけど、全くおせてませんから。
「ヴィオ、次は鞭を使ってやってみろ」
お父さんから 声がかかったので 短剣は腰ベルトに戻して ベルトの鞭に持ち変える。
「魔力無しで行くね」
「ん?お、おお」
土の魔力を流したサンドウィップは 本気で危険だから 魔力は流さないで鞭の部分だけでやります。タディさん達の時は まだ編み出してなかったけど、サンドウィップでも対応されそうだよね。
お兄ちゃんも 準備を待っててくれたので、もう一度仕切り直して 足元に飛び込んでいく。
これはお兄ちゃんも 勿論読んでいたから 足元から掬い上げるように剣が襲ってくる。
それは私も分かってたよ。
向かってくる剣に鞭を振り、鉄剣を絡めとる。
「なっ!」
剣の握りが弱かったのだろう、鞭が巻き付いた剣はお兄ちゃんの手をスルリと抜け、絡めとった剣をそのまま背後に放り投げる。
呆気にとられ一瞬固まってしまった ルンガお兄ちゃんの右腕を鞭で絡めとる。
腕を絡めとったまま 背後に回り込めば 利き腕を使えなくされたお兄ちゃんが「参った」と宣言してくれた。
ホント? 私の勝ち? やった~!
とりあえず お兄ちゃんの腕に巻き付けたままの鞭は解いて 腕が痛くないか確認する。
「びっくりしただけで 怪我はしてないから大丈夫だ。いや、舐めてなかった筈なんだけど ここまでだとは思ってなかった。すげえな、ヴィオ」
回復魔法の練習はする機会がなさそうだね。でもお兄ちゃんが怪我してなかったのは良かったです。
ルンガお兄ちゃんは ワシワシと頭を撫でてくれて、そのままヒョイと抱き上げてくれた。
おぉ!お父さん程ではないけど、結構背が高いお兄ちゃんの抱っこも 視界が高くていいですね。
「ははっ、ルンガどうじゃった?」
「いや、父さんが どんだけ鍛えたんだって思った。
動きが早いのは森で分かってたけど、目も良いからこっちの動きも対応されるし、やばいね。
あの蹴りも 来るって分かった時に気合入れたから大丈夫だったけど、気を抜いてたら飛んでたと思う。結構重かったし、大分やばかった。
しかも あれに魔法もあるし、鞭も魔力使うとか言ってたもんな。中級ダンジョンだったら 余裕だと思うわ」
放り投げた剣は トンガお兄ちゃんが拾ってくれてました。ありがとうございます。
皆のところに戻ったら お父さんが ルンガお兄ちゃんに感想を聞いてきて、思った以上の高評価をもらえてびっくりした。
「なんでヴィオがびっくりしてんだ?」
「だって、そんなに褒めてもらえると思ってなかったもん。短剣の攻撃は全然効かなかったし、お兄ちゃんは 得意武器が槍でしょう? 剣でハンデ貰ってたし……」
クルトさんに突っ込まれるけど、鞭だって武器を取り上げただけだったし、決定打はなかったからね。でもダンジョンに一緒に行けそうなら嬉しい。
「ヴィオさんの強化魔法と 結界鎧は益々上達されましたね。全くブレなく、無駄なく使えていました。その上 ダンジョンでは 索敵を展開したまま行動しているのでしょう?
きっとダンジョンでの行動においては 君たち以上に 凄いと思いますよ」
サブマスまで褒めてくれるから 喜びの舞でも踊りたくなっちゃうじゃない。踊らんけど。
でも 結界鎧と 強化魔法の安定、索敵の常時展開は ダンジョンの旅で一番鍛えた事だったから、それを評価されたのは嬉しいね。
「【索敵】って ヴィオ、そんな事できんのか?」
「ん?昨日森でもやってたでしょう?」
索敵でボアを見つけて討伐しに行ったんだもの。
「あれか、森に入って直ぐくらいに『西にどれくらい 池の近くにいる』って言ってたやつ」
「ああ、あれ? 視力強化って訳じゃなくて 索敵?え?そんな事できるの?」
お兄ちゃんたちは【索敵】をした事が無いらしく、基本は 〈音〉〈気配〉〈周囲の環境変化〉などで敵の位置を察知するらしい。
その方が大変じゃない?
「君たちが今後も上級ダンジョンに行くのであれば、【索敵】と【水生成魔法】この二つは覚えることを勧めますよ」
「そうじゃな、儂も最初は結構魔力を使ったが、慣れたら随分使用魔力も減った。【索敵】があればダンジョンは便利じゃぞ。
水生成魔法があれば 荷物の水を持ち歩く必要がなくなる。これは覚えておくべきじゃ」
「は? え? 水をつくる? どういうこと???」
3人ともがハテナを頭上に並べているけど、大丈夫かな。
とりあえず今日からお兄ちゃんたちは 夜の魔力操作の練習を一緒にすることになったよ。
明日はお休みにする日だったんだけど、お兄ちゃんたちはギルドで水生成魔法の練習をするんだって。理論から説明するよりは 感覚で見て覚えた方が良さそうだって事だったよ。
明後日は サブマスの魔法練習の日だからね、お兄ちゃんたちも一緒に 森で【索敵】の練習をすることになったよ。
お兄ちゃんたちは 身体強化くらいしか魔法を使うことはないらしい。ダンジョンで物理攻撃が効かない相手もいるから、そういう時には得意属性の魔法も使うけど、そんなに普段から頻回に使う訳じゃないんだって。
まあ あれだけ格闘技術があるなら 魔法に頼る必要がなさそうだもんね。
だけど、上級ダンジョン攻略のためには、荷物整理は絶対必要だからって事で 水生成魔法は必ず覚えたいとやる気になっている。
魔力操作が上手になれば 消費魔力も減るし、今夜から頑張ろうね!




