第150話 お兄ちゃんたちと冒険者
訓練場には ストレッチ中のエデル先生だけが居た。
今日は魔術の授業日だから 身体を動かしに来たんだと思う。
「おう、お前たちが此処に来るのは珍しいな。ヴィオに連れてこられたか?」
「ははっ、正解です。あと、こいつらとの手合わせをしたくて。場所お借りしていいですか?」
トンガお兄ちゃんが “こいつ” 呼びしてるし。
ルンガお兄ちゃんとクルトさんが言うなら違和感ないけど……。
「他所のパーティーメンバーと組むときとか、兄貴あんな感じだぞ?
冒険者は舐められたら終わりなとこあるからな、外では俺って言うし きつい言葉も使うぞ」
私とお父さん、ルンガお兄ちゃんの3人は 階段状になっている見学スペースに移動中。
クルトさんは トンガお兄ちゃんに首根っこ引っ張られて 強制的に手合わせに参加させられるようです。
「ルンガお兄ちゃんは 手合わせしないで良いの?」
「俺の得意武器 槍だし、あいつらどうでもいいって思ってるからな」
あ~、相手にならないって分かってるからって事なのかな?
そうこうしているうちに リーダーVSトンガお兄ちゃん、 チャラ男VSクルトさん となったようだ。
お姉さんはどちらの対戦中でも好きに攻撃魔法を打ちこんでいいと言われているけど、仲間がやられた時点でそっち側への攻撃は終了ということらしい。
「お父さん、チャラ……じゃなくて ゲスさんって弓だよね? クルトさんって剣でしょう? 戦いになるのかな」
クルトさんは最初の立ち位置も オカシイ。弓と魔法の攻撃だから 結構離れたところからスタートっぽいんだよね。まあ、ダッシュで近接戦まで持っていくんだろうけど……。
「あ~、あれは トンガの嫌がらせじゃろうな」
単に嫌がらせだったようです。意外とトンガお兄ちゃん 大人げない。
リーダーと トンガお兄ちゃんの武器は 木剣を使うみたいだね。
エデル先生が 審判にもなってくれるようで、両者の立ち位置などを確認して ゴーサインを出した。
……うん、分かってた。そうなるだろうなって、やる前から分かってた。
ゴーで手が下ろされた瞬間に トンガお兄ちゃんから気合の圧というか、多分魔力が噴出したことで リーダーと お姉さんが硬直状態になった。
リーダーは上段に剣を構えた状態で 目を見開いて 腕と足がプルプルしてたから、威圧をかけられた状態になったんだろうね。
ゆっくり近づいたトンガお兄ちゃんがそのまま木剣を掴んで足元に放り投げて終了。
家の森で お父さんの武術をはじめて見せてもらった日に感じた あのピリピリする感じ、あれは私に対して何かを向けてきたわけじゃなかったけど、それでも空気が違うと分かった。
今回は相手に対して攻撃的な気持ちをもってやってるんだから、相当な恐怖体験だと思う。肉食獣に睨まれた草食動物って感じじゃないかな?
お姉さんは プルプルしたまま腰抜かしちゃって 水溜りが出来始めています。 お兄ちゃん容赦なさすぎです。
そんな仲間の状態は背中合わせで気付いていないチャラ男は、連射するように矢を射ってたけど 右へ左へ、ほんの少しだけ避けるようにすり抜けてくるクルトさんに全く当たらず、気が付けば 首筋に木剣を突き付けられて終了。
「はい、終わり~。トンガ 木剣片付けておけよ。
それから3人組、ダンジョンだけじゃなく 咆哮で威圧攻撃なんて ある程度の魔獣じゃ当り前だぞ?
無警戒でボーっと立ってたらすぐ殺られて終わりだ。
お前ら最近森にも行くようになったんだろ? 木の上からの攻撃もある、もっと全方向に警戒することを覚えろ。ここらじゃ早々ないが、スタンピードで招集された時は ランク別で討伐箇所に振り分けられる。お前らそのままじゃ何もできずに死ぬぞ?」
エデル先生が長文喋ってる……。
じゃなくて、たしかに リーダーも チャラ男も、対戦相手のことしか見てなかったよね。まあ手合わせだからそれでいいのかもしれないけど、身体強化もしてないし、自分より強者相手なのに 盾を作るような素振りもなかった。実戦経験が凄く少ないのかな。
「ヴィオ、見てた? どうだった?」
クルトさんに剣を押し付けて サッサと私たちの方に戻ってきたトンガお兄ちゃん、ニコニコしながら 見慣れた優しい顔で聞いてくるけど、さっきまでと雰囲気違い過ぎません?
まあそんな二面性を使い分けるところ嫌いじゃないけどね。
「うん、お父さんが 武闘訓練の時に見せてくれた圧と似てて 凄いなって思った。お兄ちゃんは リーダーのいる前方だけに圧をかけてたでしょう? あれは魔力をその方向に押し出すように調整しているの? お父さんが見せてくれた時のは、お父さんを中心に 全方向だったよね?」
「ん?」
「あ~、最初に見せた時のやつじゃな? 多分意識せんとやっておったから全方向じゃったんじゃろうな。今は意識して 自分から腕1本分くらいで調整しとるがな」
「え?」
「お父さんが離れたところの的に 掌底打った時は 空気弾みたいな感じで的が割れたけど、あれも純粋な魔力だけだったもんね。あれに魔法を乗せたらもっと強力になるのかな」
「そういえば やったことはなかったが そうかもしれんな」
「ちょっ」
「お父さん火魔法使えるから、炎の弾が飛んじゃう?
でもそれならファイアボールで良いかな。威力と消費魔力も気になるね」
「確かにな、やってみるか?」
「ちょっ、ちょっと待って、父さん待って、ヴィオもちょっと待って」
あ、ヤバイ。気になり始めたらとことん追求するいつもの癖が出てしまった。
そう言えば今は トンガお兄ちゃんの気合の威圧についての話だった気がする。
途中からハテナが浮かんでいたお兄ちゃんを置いてけぼりにしてしまったよ、ごめんね。
「僕の威圧攻撃、あれって魔力なの?」
ズコーって転けそうになったよ。まずそこから?
どうやらトンガお兄ちゃんも 身体強化や武闘の時の魔力操作に関しては、完全に感覚だけでやっていたらしく、さっきのあれも気合でやってると言っている。見た目にそぐわぬ脳筋でした。
「魔獣の咆哮みたいに吠えるのは恥ずかしいから」だそうで、吠えなくてもできるようになったと喜んでいたらしい。
魔法云々に関しては、週末にサブマス達との魔法訓練があるので、その時に聞いてみることにした。お父さんのアレもね。
うまく炎が組み合わされば、『か〇はめ波』っぽく見えるのではないかと ちょっと期待している。
スチーラーズの男二人は 訓練場を走り込みさせられており、何故かクルトさんも一緒に走っているという謎過ぎる状態。
ルンガお兄ちゃんは ずっと一緒にいたんだけど、お兄ちゃんも期待を裏切らない脳筋らしく、魔法談義の途中から「何言ってんのか わかんねー」とランニングに加わってしまった。
トンガお兄ちゃんは 自分が使っている魔法なのか よく分からない現象を理解したいという事で、サブマスとの訓練に参加すると約束してくれた。
じゃあ、その辺りも決まったし、遅くなったけどお兄ちゃんたちと手合わせしよっか。




