第146話 お兄ちゃんたちと一緒
お兄ちゃんたちが帰ってきた翌日の朝、いつも通りの時間に目覚め、冒険者装備にお着替えをする。
今日は座学と訓練が予定されてたんだけど、昨日お兄ちゃんたちが帰ってきたことで予定の変更は告げている。
ギルドには お兄ちゃんたちが戻ってきたら 中級ダンジョン巡りに行くことは言ってるから、予定変更も直ぐに受け入れてもらったんだ。
訓練場に関しては予約が必要な訳じゃないから連絡は不要なんだけど、最近はスチーラーズの三人を含め 結構な人数が集まってたから 一応ね。
ミミーさん達ギルドの受付さんたちの勉強会は あと二回お願いしているので来週かな。
今日は森に行くから冒険者装備にお着替えし クリーン洗顔をすればキッチンへ。相変わらず早起きなお父さんは もう朝食準備中。
「ヴィオ、トンガたちを起こしてきてくれるか?」
「は~い」
お兄ちゃんたちはまだ起きてきていなかったので、リビング横のお部屋へ。扉がないからベーコンと卵を焼いている匂いがお部屋にも届いているけど、お兄ちゃんたちはぐっすり眠っている。
〈スー スー スー〉
お父さんもそうだけど、お兄ちゃんたちも静かなもんだね。いびきで煩いとか無い。
まあ冒険者でいびきが凄いとか、野営が出来なそうだけど……。
「お兄ちゃん起きて~、ご飯だよ」
お父さんは私が動いただけで起きる人だけど、お兄ちゃんたちはトントンしながら声をかけても起きない。ルンガお兄ちゃんは掛布に包まって壁際に行ってしまったから手が届かない。むむむ。
「ヴィオ、起きんかったら 乗っかって起こしてやってええぞ~。中々起きんからな」
キッチンの方から お父さんの声が聞こえたので きっといつもの事なんだね。
お兄ちゃんたちのベッドはお父さんのと同じで背が高い。下から普通に起こそうと思っても手の先が届くくらいだから難しいと思ったんだけど、乗っても良いならこの高さに飛び乗るのは問題ない。
トンガお兄ちゃんのベッドに飛び乗って、肩をユサユサしたら 薄っすら目が開いた。
「お兄ちゃん 朝だよ、起きて?」
「ん~、何この幸せな朝の目覚め。僕まだ寝惚けてる?」
お兄ちゃんの胸の上に座ってるんだけど、目が合ったはずのお兄ちゃんに そのまま抱きしめられたままゴロゴロされる。うん、寝惚けてると思いますよ。
「トンガお兄ちゃん、もう朝だよ。ごはん食べよう? 森に行くんでしょ?」
「ん? ん? あ、ヴィオかぁ。おはよ~」
ゴロゴロしたまま また目を閉じそうなお兄ちゃんに慌てて朝食の事を告げれば、やっと目覚めたらしい。もぞもぞしながらも起き上がってくれたので 腕の中からスルリと抜け出し ベッドから飛び降りる。意外と寝起きが良くないんだね。
冒険者は即寝・即起きだと思ってたからびっくりだよ。
ということで、更に寝起きが悪そうなルンガお兄ちゃんのベッドに飛び乗り、腕に強化魔法をかけて 掛布を引っぺがす。
「ルンガお兄ちゃん 朝だよ~、起きて~」
「うえっ、なに? え? びっくりした。
あ~、ヴィオかぁ。おはよ~、なに もう朝?」
お兄ちゃんは掛布を抱締めてたらしく、引っぺがす時に一緒に持ちあがってしまった。強制的に起き上がらされたからか、トンガ兄ちゃんよりも直ぐに目覚めてくれた。うん、結果オーライ。
お兄ちゃんたちが起きたので キッチンに戻れば、テーブルの上には 大きなお皿に山盛りのベーコンと卵とパン。大人の冒険者が3人も揃えばこうなってもおかしくはないね。
私の分はワンプレートに一食分、フルーツも一緒に乗せてくれているので、争奪戦に入らなくても大丈夫だ。
「父さんおはよ」
「おお、もう起きたか? これからはヴィオに起こしてもらえば早くて済みそうじゃな」
「今何時だ~? 久しぶりにゆっくり昼まで寝ようと思ってたのに」
私が椅子に座る頃、お兄ちゃんたち二人も部屋から出てきた。ルンガお兄ちゃんは昼まで寝るつもりだったの?森に行けなくなっちゃうよ?
それでも流石冒険者、朝食は凄い勢いで食べてるし、食べている間に完全に目も覚めたみたい。
「お兄ちゃんたち 野営とか起きれないの大変じゃない?」
「めえいむぐ んなんぐ ないにょんぐな」
うん、何言ってんのか分かんないです。
「野営中に本気で寝ることはないから大丈夫ってさ。
宿でも 余程の場所じゃないと気を張ってるから ここまで熟睡するって事はないかな。
久しぶりの実家だから安心しすぎて 完全に気を抜いてたよ」
「町や村によっては 宿だからと言って安全とは限らんからな。女性だけのパーティーじゃ 宿に泊まる時も結界を窓と扉に設置する必要があることもある。
儂らもメリテントの宿では 食堂に下りる時気を付けたじゃろう?」
トンガお兄ちゃんの言葉に驚いたけど、お父さんの説明に納得した。他の村では客自体が私たちだけだったけど、メリテントはそうじゃなかったから宿の鍵をかけた後に【ロック】もしてたもんね。
「だったら今日はゆっくり寝かせてあげたらよかったね。
お兄ちゃんたちと森に行けるのが楽しみ過ぎて いつも通りの時間に起こしちゃった。ごめんね」
しょぼんぬ、自分の欲望のままに動きすぎたと反省する。
これだけ長期間村を離れていたんだったら、ずっと気を張り続けていたんだろう。1週間くらいはダラダラと過ごしたかったに違いない。
「プレーサマ辺境伯領地に戻ってきてからは ゆっくりしてたから大丈夫だよ、なんなら今日はルンガを置いていけばいい。ヴィオ 僕と二人で森に行こっか」
「兄貴ずりぃぞ。もう起きたし 俺も行ける」
男兄弟って勝手に漫才みたいになるんだね。テンポの良いやり取りは 見ているだけでも面白い。
お父さんも そんな二人を眺めながら楽しそう。
朝食を終えれば お兄ちゃんたちも森に行く準備を始めた。お兄ちゃんたちにとって川向こうの森は 遊び場と変わらないのだろう。
普段のお父さんと同じくらいの軽装で、武器すら身に着けてない。
「お兄ちゃんたち武器は?」
「俺は槍が基本武器だからな、あの森だったら武闘で行けるから武器は持ってかねぇ」
流石お父さんの息子だね。お父さんも ビッグピッグを無手でやっちゃうもん、やっぱりあの森は遊び場なんだね。
納得しかないと思いつつ、お父さんと朝のルーチーンであるストレッチを始める。
お兄ちゃんたちは驚いてたけど、お父さんに勧められて一緒にストレッチをやってくれるようだ。
お兄ちゃんたちは成人しているし、銀ランクだからどこのギルドでも素材販売をできるから、マジックバッグに素材がパンパンという事はない(私も売れない訳じゃないけど、面倒そうだからサマニア村まで持って帰ってきたものが多い)
だけど、色々貯め込んでいるものもあるらしく、今日の森にマジックバッグを持っていくことはしないらしい。
「共和国で入った上級では 良いマジックバッグが見つけられなかったんだよね。リズモーニの上級に期待だね」
「良くないのはあったの?」
「おう、良くないっつーか、時間遅延はあったけど量がちょっとしか入らないやつとか、量もソコソコってやつだな。
今持ってるのより性能が良いか、同じくらいだったら良かったけど、それより下だと販売だな」
時間遅延のバッグは お弁当2食分くらいしか入らないと言うから、確かに冒険者にはあまり意味がないと思った。ダンジョンの宝箱は 本当に運だというから、沢山入ってみるしかないってことだね。
だからこそ、お兄ちゃんたちはリズモーニ王国の上級ダンジョンを目指しているんだろう。私も上級ダンジョン入ってみたいけど、まずは中級だね。
いやいや、その前に一緒に行けるかのチェックだったね。
まだ 森まで到達できませんでした……
家族そろってのホノボノ回です




