第143話 冒険者と訓練
≪リュックが一人で歩いている事件≫以降、森に行くときには必ず私のマジックバッグを持っていき、素材はそれに入れて持って帰るようにしている。
解体作業の帰り道、あまりに沢山の人に笑われて、途中から私が喋らなくなっちゃったから、お父さんに謝られたんだよね。
自分で任せて!って言ったくせに 笑われて拗ねるとか、めっちゃ子供じゃん!って翌朝大反省ですよ。
お肉はお父さんが背負うから、私のリュックがそんなにパンパンじゃなくてもおかしくはないからね。
2回目の解体日に マコールさんから謝罪をされたんだけど、どうやら お孫さんに叱られたらしい。
「いや~、別に悪気があった訳じゃねえんだぞ? ちっこいヴィオが でっけえリュック背負ってんのが頑張ってんだなって思ったけどよぉ。
けど、後ろから見たら……ブフッ」
「おじたま また びお いじめてゆの!」
「ココア! 違う!違うぞ~、じいちゃんはヴィオの事を頑張ってるな~って褒めてるんだぞ~」
謝罪というか、言いながらまた思い出し笑いしてますけど?
まあ 私としては ひと晩寝たら自分でも ”そりゃ笑うわな” くらいになってたから気にしないけどね。
でも、そんな会話をしていたら、店舗の自宅と繋がるほうの扉から可愛い声が聞こえてきた。
強面マッチョのマコールさんだけど、孫には超デレデレで 赤ちゃん言葉は使ってないけど、しゃがみ込んで視線を合わせて めっちゃ言い訳しています。
3歳の小虎、ココアちゃんは 薬草採取で仲良くなった子供の一人。
とても人懐っこくて、肉食獣の子供らしく体力も有り余っている。嬉しくて飛び掛かってきても 結界鎧&身体強化をしているから 一緒にゴロゴロ転がっても全く平気なことが分かってから、超絶懐かれた。
まだ舌っ足らずで “おじいちゃま” が言えないんだけど、それもまた良き。
シマシマ尻尾をベチンベチンと床に叩きつけながら、仁王立ちになってマコールさんを叱ってます。ラブリー。
「ココアちゃん、いじめられてないから大丈夫だよ、心配してくれてありがとうね」
「ほんと?びお いじめられてない? おじたま メっしたげるからね、また遊んでくれる?」
ヤバイ可愛い、語彙力が無くなるくらい可愛すぎる。
マコールさんも叱られてるはずなのに メロメロになるのも仕方がないと思う。
ココアちゃんが両手を上げて 抱っこを強請ってくるから、両脇の下に手を入れてひょいと持ち上げる。
といっても私もそんなに大きくないから、抱っこちゃん人形を抱えてる感じですけどね。
でも ココアちゃんは 視線が合うのが嬉しいらしく、ホッペをスリスリ擦り付けながら「きゃ~」と喜んでくれるので良いのだろう。
「ココア、じいちゃんともスリスリせんか?」
「やっ、おじたま びおのこといじめたから メっなの」
片手を伸ばしたまま ガーンという顔で崩れ落ちるマコールさん。不憫ですが 一昨日笑われたのは それなりにショックだったので 助けませんよ。
お父さんのキリトさんが店に戻ってきたところで ココアちゃんをお渡しし お店を後にした。
「は~、可愛かったね。あれだけ可愛いと 獣人の子供を攫う人がいるのも分かる気はする。
でも 親元から離すなんて絶対に許せないね。そんな奴ら 見つけたら速攻で縛り上げて 騎士団連行処分だね」
「ふっ、そうじゃな。まあ ココアもそうじゃが 肉食系の獣人は 子供でも力が強いもんが多いから、狙われやすいんは草食系の子供らじゃな。
肉食系でも猫や犬は、虎やライオンよりは弱いから狙われることもある」
ああ、エリア先生は兎獣人だったもんね。そうか、ハチ君のところは 妹のクッキーちゃんが2歳だったはず、守ってあげないと駄目だね。
この村は かなり特殊な経歴の持ち主が多いから 子供の誘拐が成功することはないだろうけど、メリテントの街みたいに 人が多すぎて、人と人との関わりが希薄だと危険だよね。
「うん、こないだみたいなことがあっても 返り討ちできるように、もっともっと鍛えるね!」
「お……おぉそうか、まあ自衛は大切じゃからな。
じゃが、こないだのような危険なことは、あまりして欲しくないんじゃがなぁ」
お父さんが心配しないくらいまで強くなるね!
◆◇◆◇◆◇
森での討伐訓練と、ギルドでの座学と 地階での訓練を続けて数週間。
訓練の時間は 時々レン君たちも参加するのは 今まで通りなんだけど、最近新しい人たちが増えました。
「私たち共和国出身だから ギルドで 大人も訓練が出来るって知らなかったの~。
ちびっ子たちに聞いたら、午後は学び舎の生徒以外でも 訓練が出来るって聞いてね、折角だから私たちも一緒にして良いかしら?」
あまり関わることが無いと思っていた 呼び辛い名前の3人組冒険者たち。その中のお色気担当(担当かどうかは知らんけど)のお姉さんが 一緒に訓練をしたいと名乗り出てきたのだ。
「この施設はギルドのものじゃからな、別に儂らが貸切にしておるわけじゃないし、好きに訓練をすればええんじゃないか?」
あまり他の冒険者と関わった事が無いので お父さんに確認してみれば そんな答えが返された。
まぁ 確かにそうだよね。
レン君たちは 私やお父さんとの組手を希望してるから一緒にやってるけど、訓練場は広いんだし、自主練習は自由だもの。
「私たちはあっちでやってるから 邪魔になる様だったらごめんね」
お姉さんたちは3人組だし、1人は弓を使うみたいだから 的がある場所を使いたいだろう。
ということで 反対側の アスレチックコースを作ってた方に移動しようとすれば止められた。
「ああ 待って、待って、ヴィオちゃんとも一緒にやりたいのよ。子供達とは組手とか一緒にしているのでしょう?」
何故あまり知らない大人と組手を?
っていうかこの人たち銀ランクじゃなかったっけ?私銅ランクなんだけど?
私が怪訝な顔をしたからか、リーダーだった男の人が間に入ってきた。
「いや、急にこんな事言われたら 困るよな。すまん!
俺たちが銀ランクだし、そんなランクなのに何言ってんだって思うよな?」
両手を顔の前で合わせてそんな事を言ってくるけど、まさにそう思ってます。
「俺たち トラウトに勝てなかったって言っただろ?
銀ランクっつったって、共和国の 小さな町を中心に活動しててな、そこで銀ランクの中級まで上がったから調子乗ってたんだ。
色々旅して 上級にもなったし、高級魚も楽勝だろってな。
それが全く手も足も出ねえし、どころか この辺りの魔獣にも集団で来られたら結構ヤベエ。
森のそんな奥じゃねえのにヒュージボアまで出てくるし、ビッグボアも地元より凶悪だ。
なのに、そんな魔獣を 親子二人で簡単に狩ってくる奴らがいるじゃねえか。で、聞いたら ここで二日おきに訓練してるって言うから、一緒に鍛えさせてもらいてえって思ったんだ」
リーダーの後ろで 弓のチャライお兄さんも 一緒になってウンウンと頷いているんだけど……。
「お父さん、ヒュージボアってどんな魔獣? ボアの上位種?そんなのいたっけ」
「あ~、あれじゃ、森におるボアの親と思っとる方じゃな、普段狩っとる子供と思っとるのが 所謂ビッグボアじゃ」
リーダーの言う魔獣に心当たりが無くて お父さんにコッソリ聞けば、驚きの返答が。これもあれだね、サマニア村周辺の魔獣ヤバイ説。まさかの 親子ボアと思ってた魔獣は 上位種でした。
うん、でも、だからと言って私が相手になる理由も良く分からんのだけど?
「既に子供達とは 何度か組手をしてもらってるのよ。それで、あの子達が ヴィオちゃんと お父さんのアルクさんも凄いって聞いたの。
教え方も上手だって言うから、私たちも一緒にやらせてもらえたら 少しは強くなれるかなって……。
やっぱりダメかしら? 報酬は支払うわ!」
大人の女の人がションボリするとか、ちょっと申し訳ない感じになるんですけど……。
チラリとお父さんを見れば 私の好きにしたらいいって顔だね。
う~ん、まあ この村の住人になれるくらいの人だし、いいのかな?
「時々でよければ……。私はそんなに力になれないと思うけど よろしくね?」
「うん、ありがとう! 嬉しいっ♡」
「おお、助かるぜ!」
「ちびっ子たちから先生って呼ばれてるんだよね? 俺たちもよろしくね ヴィオちゃん先生」
お姉さんがピョンピョン跳ねながら喜んでくれるんですが、やっぱり弓のお兄さんはチャライ感じが凄いです……。
この感じに 『キャっ♡』ではなく『うわぁ(汗』という感想を持ってしまうのは、私の前世が喪女だったという事なのかもしれない。
超絶かわいい小虎の後には 、あざと可愛い系のお姉さんたちとの交流です




