第141話 魔法の訓練
村に戻ってからは、以前と同じような生活を行っている。
ダンジョン旅の間は生活リズムが違ったし、もう6歳のお姉さんになったから お昼寝はいらないと思ったんだけど、村の生活に戻ったら 強制お昼寝タイムも復活した。
「また ダンジョン旅に出たら昼寝の時間は無くなるんじゃ。ヴィオは早く大きくなりたいんじゃろう?
眠ることは身体の成長に大事なんじゃぞ」
そんな風にお父さんから言われてしまえば断ることもできない。
4か月の間でも成長はしていた筈だけど、昨日ギルドで再会したレン君とハチ君に 頭半分くらい抜かされてたんだよね。
前は殆ど同じだったのに、耳の差だって二人には言い張ったけど そうじゃなかったと言われて泣きたくなった。
まあ、そんな事もあったけど、昼寝を復活させたことで 驚きの成長率を見せてやるからね!
野営の訓練は ダンジョン旅でしっかりしてきたし、魔獣討伐も沢山してきたので、しばらくはゆっくりすることになったんだ。
午前中はギルドの2階で 座学のお勉強会。
前回は リズモーニ王国の地理や歴史、ダンジョンの事、初級ダンジョンに出る魔獣について、冒険者ギルドでの注意事項なんかを教えてもらっていた。
今回は地理ももう少し詳しく(メリテントで知らない貴族の名前がでたからね)、他の国の事も、後は教会と宗教についても教えてもらうことになったよ。
関わる気はないけど、知らないままでいるのは危険かもしれないからね。
午前に座学をしたら いったん帰宅。昼食とお昼寝をしたら ギルドの地階で訓練を行う。ケーテさん達が居た時と同じで、平日の午後に使う人はいないから、ほぼ貸切状態だと思ったんだけど、2日もすれば トニー君、レン君、ルン君、ロン君も参加し、ナチ君、ハチ君まで来るようになった。
「まじか! ダンジョンの旅って、そんな強くなんのかよ」
「びお、早いよ~」
お父さんや エデル先生と対戦するときには 鞭も短剣も使うけど、流石に子供達と対戦するときには武器を使用しない。
かといって訓練場にある木剣は大きくて扱えない、だから私は無手で組手をしている。勿論全身に結界鎧を纏っているし、身体強化もしているけどね。
実践に勝る経験はない、何かで読んだ覚えがあるけど 本当にそうだと思う。
ケピマルでのシカーマンティスは 風を扱う魔獣だった。
彼らは両手の鎌を振り回すだけじゃなく、その鎌から風魔法も投げてきたから俊敏力は大分上がった。
クラベツィアで初対面したオーク、彼らの表皮は厚く、短剣だけでは難しかった。魔法を使えない場所だったらどんな風に戦うか、それも今後は考えた方が良いかもしれない。
ルエメイ遺跡には森があった。森の中では魔獣が協力するような場面もあった。
全方向に集中していないと 危険な事もあったから、【索敵】を自然に広範囲に拡げることが出来るようになった。
子供同士での組手、先生やお父さんが相手になってくれる組手、体力切れで終了となるけど、これも随分長い時間出来るようになったのが分かる。
週末は、ギルマスかサブマスが 魔法の訓練をしてくれる。
レッドウッドラースを殲滅するときにやった 青色ファイアバレットを見せたら、ギルマスに呆れられたけど、今回は魔力も2/3くらいで調整したから倒れることはなかったよ。
ただ、それ以上他の魔法の練習が出来なくなっちゃって、ギルマスの闇魔法を見学するだけの時間になったけどね。
闇魔法って暗闇を作ったり、闇を操るってイメージだったんだけど、それだけでもなかった。
「我が身にできる影よ 届ける音に騒音を混ぜよ【ノイズ】」
「うひゃあ!!!」
最初にしてくれたのは騒音というか 幻聴を聞かせる魔法で、唱えた後に「どうだ?」って確認してきたギルマスの声が 私の耳元で囁かれたみたいに聞こえて 飛び上がるほどびっくりした。
実際には離れてるのに、ほんとに耳元にいるみたいだったんだよ。
「日の影となる闇よ、我が力となりその視界を明瞭にせよ【ナイトビジョン】」
二つ目のは暗視が出来る魔法らしく、視力強化を一緒にするとより鮮明に見ることができるんだって。
ここが暗闇じゃないからあんまりわからなかった。
あとは影を作る【シャドー】に、闇の玉を作る【ダークボール】を見せてもらったよ。
ノイズは敵の攪乱をする時なんかに使えるし、暗視は夜や、ダンジョンの特殊な階層なんかで活躍するらしい。でも、ノイズの呪文に影が入るのは不思議だよね。暗視と一緒で闇でいいんじゃない?っておもったけど、ギルマスも先輩冒険者に教えてもらった呪文を使ってるから分からないんだってさ。
「まあ、他にもあるみたいだけど、闇属性は習える場所自体が少ないし、俺はこれくらいしか使えねえ」
毒とか、麻痺とか、恐慌状態にするとかってのも闇属性魔法にあるらしいけど、禁忌魔法と呼ばれてるものも多いらしいし、大々的に使う人はいないんだって。
でも、存在するって事は 使う人が居るのは確実だよね。
悪いことする人には使い勝手が良さそうだもの。だとしたら、それに対抗できる手段は持っておきたいね。
そうお願いしたことで、サブマスからは聖魔法をいくつか教えてもらうことになったんだけど……。
「以前ヴィオさんに使用した回復魔法は覚えていますか?」
「はい、ヒールです。たしか呪文は〈聖なる力で彼の者の回復を願う【ヒール】〉 だったと思います!」
聖魔法を教える=私に聖魔法の才能があるって事になるから、自宅に来て教えてもらっています。贅沢です、ありがとうございます。
サブマスに質問されたので 筋肉痛を直してもらった時のことを思い出しながら答える。
「よく覚えてましたね。その通り、その呪文が短縮されたものだというのもお伝えしましたね?」
「はい、『こんな短いのはありえねえぞ』ってギルマスさんが驚いていました」
お父さんが後ろで笑っていますが、違った?
「今のはザックスの声真似でしょうか? ヴィオさんが使うとちょっとダメな言葉ですね。気を付けるように言っておきましょう。
さて、それは置いておいて 短縮については正解です。
本来の呪文は〈癒しの女神ミゼリコルディアよ 我が魔力に宿りし聖なる力で 彼の者の回復を願います。女神の尊きお力によるご高配を賜りたくお願い申し上げます【ヒール】〉です」
は?
なんか聞き覚えのない名前が出て来たし、めっちゃ長くない?
「黒板が無いので……。ああ、ノートに書きましょうかねこれが【ヒール】の正式な呪文です」
〈癒しの女神ミゼリコルディアよ 我が魔力に宿りし聖なる力で 彼の者の〔部位や状態〕の回復を願います。女神の尊きお力によるご高配を賜りたくお願い申し上げます【ヒール】〉
聞き間違いじゃなかったね。
神様の名前か。今までの呪文に神様が出てきたことはなかったのに、一気に神殿の力が強くなった感じだね。
「ふふっ、ちなみに解毒の呪文はこうです。」
〈浄化の神 プルガッティオよ 我が魔力に宿りし聖なる力で 彼の者を毒する全てを洗い流すことを願います。女神の尊きお力によるご高配を賜りたくお願い申し上げます【デトキシフィケーション】〉
ノートに書かれたのは また新しい神様の名前だ。
そんでもって また神様に長々とお願いしてる。
ジッと書かれた文字を見ていると、お父さんに眉間をグイグイ押される。
「ん? なぁに?」
「ん? ヴィオが珍しく難しい顔をしておったからな」
ああ、眉間にしわが寄ってた?
「なんか、聖属性だけ神様アピールが凄いなって思っただけ。
サブマスさんのかけてくれた【ヒール】には神様の名前が無かったでしょう?
って事はお名前が無くても、その神様を知らなくても、神様にいちいちお願いしなくても使えるって事でしょう?
なのにあるって事は、この呪文を作ったのは神殿なのかなって。正式な呪文を使ったらお金とられそうだなって思ったの」
「ぶふぉっ‼」
「んっっっ‼」
正直な気持ちを告げたら、大人二人がお腹を抱えて笑い出した。
え? そんな変な事言った?
だって属性ごとに神様がいるんだし、神様のお名前ありきで魔法を使うのが正式なんだったら火の魔法だって神様の名前言わないと駄目じゃない?
そう言ったら サブマスが涙を拭きながら教えてくれた。
「あ~、こんなに笑ったのは久しぶりです。だからヴィオさんに魔法を教えるのは楽しいんですよね。
そうですよね、まさにその通りです。
まだ神様のお話は習い始めたばかりだと思いますが、実は神々の事は分かっていない事も多いのですよ。
創造神が三つ子の神であること、属性の神がいること、それ以外の神もいること、それは分かっていますが、それ以外の神様が何人いるのか、その神様が何を司っているのかも不明なことが多いのです。
ルシダニア皇国と神国では 創造神と 6属性の神を祀っていますが、属性の神という割に闇属性の神は祀っていません。
彼等にとって闇は悪であるという考えであるからです。
聖以外の属性の魔法に神様の名前が無いのは、彼らが最も崇めているのが聖の神であるピュアンクス様だからです。
浄化の神 プルガッティオ様、医療の女神 ミゼリコルディア様は 聖の神の眷属とされていますが、それも神殿が言っているだけかもしれません。
そして 神国と皇国では 聖女の結界のお陰で魔獣が出ません。
その為冒険者も活動をしていませんし、冒険者ギルドもありません。もちろんダンジョンも存在しません。ですので、攻撃魔法を市民が使用する機会が無いのです。となれば?」
「神様の名前で魔法を作る必要もない?
いや、そんな状態なら 攻撃魔法を使う人を野蛮人扱いしそうだから 聖魔法以外を認めてなさそうだね」
パチパチパチパチ
「素晴らしいです!その通りです。
ダンジョンが出来たとしても 即座にコアを破壊しているので存在しないと言っているだけの国です。
ですが、魔獣から出た魔石は魔道具を扱うのに便利ですからね、他国から輸入をしているという矛盾。
その代わりに聖女を 各国の教会に派遣し、回復魔法にお布施をもらい、洗礼式などで資金を集めているのですよ」
あー、サブマスは教会が嫌いな人なんだね。うんうん、わかるよ。
私も神様の存在は信じるし、無宗教という訳でもない。なんなら異世界転生なんてイレギュラーな事をしているから 神様の存在はバッチリ信じてる。
ただ、神様の名前を使って金儲けをしようとする奴らの事は信用していない。
だから教会にも行く気はない。道端にお地蔵さん的に 神像が立ってたらお祈りはするだろうけど、教会でそれしたら お祈り代とか請求されそうだもん。
メリテントの教会は人が多かったけど、後ろの席で教会の見学だけしてサッサと帰ったしね。
「ですので ヴィオさんが言う通り、神々のお名前を使った正式な呪文でなくても 回復魔法は使えます。ただ、そのためには直す対象をしっかり意識する、理解する必要があります」
そりゃそうだね。
だけど 名前付きのなら 身体全体 何となく治しましょうって感じなのかな?それは対象がぼやけている分治りが悪いのか、魔力を相当使うのか、どっちだろうね。
「どちらもですよ。ですので 回復魔法を教会に依頼すれば 恐ろしい値段を取られます。1人の聖女もしくは聖人が1人から2人の回復をする事しか出来ませんからね」
「うわぁ~、効率悪っ!」
思わず本音が漏れれば、お父さんたちが再び大爆笑。
思ってても言えない人が多いんだって。だけどサブマスは回復魔法が使えるんだから言っても良いんじゃないの?
「人に回復してあげれても、自分の回復は下手したら教会にお願いする立場ですからね」
あー、痛みが酷い時には集中して回復魔法を使うとか無理だもんね。
「だったらパーティーには回復が使える人が二人いたら最強だね」
「一人でも回復が得意なのがおったら最強じゃ。聖魔法を得意にしている冒険者はそんなに居らんし、居ったとしても回復専門じゃと安全なところで仕事をしとる」
「そうですね、私のようにギルド職員になっているというのは多いですよ」
まあ確かに、回復だけで食べれるなら 危ない場所に行く必要はないし、行かれて死なれたら周りの人も困っちゃうもんね。
だからこそ、そろそろ冒険者に復帰して私たちについて行きたいんだとサブマスが言い始めたところで 今日の授業は終了となった。
私もサブマスが一緒に冒険してくれたら 新しい発見が楽しそうだけどね。
でもギルマスが大変そうだなって思うと、来てほしいとは言いづらい。
もう少し大人になったら 一緒に行こうね。
教会の事が少しずつ出てきますが、ヴィオが関わろうとしないので、詳細はあまり深堀しないかも……。




