第140話 報告会
タキさんの動揺は置いておいて、報告は続く。
「あのね、サブマスさんと ギルマスさんにお土産なの。こっちの果物は 受付の皆にお土産ね」
籠に山盛りにしたダンジョン産の果物を渡せば、ウミさんが嬉しそうに受け取り 小躍りしながら喜んでくれる。
経木のような葉に包まれた肉の塊は サブマスとギルマスで分けて欲しいと思って 二人の間に押し出したんだけど、ギルマスはイマイチだった?
「これはヴィオさんが倒したボスドロップでしょう?良いのですか?」
「うん、何がいいか迷ったんだけど、クラベツィアで売った時は すごく喜ばれたから美味しいのかなって思って、もっといい物が出て欲しかったんだけど、ギルマスさんはお肉嫌いだった?」
まあ、謎肉だもんね。あげておいて私は食べてないっていう肉だし、嫌なら別のものが良いかな。
「いや、お土産で肉ってのも、ボスドロップってのも初めてで驚いただけだ。ありがたく頂く」
嫌がってたわけじゃないなら良かったです。
ついでに変異種の鎌と魔石、盾も見せたら驚いてたよ。
サブマスが やっぱりついて行きたいと言い出したのも仕方ない。
「お話し中に失礼します。査定が終わりましたが、アルクさん あれ全部買取でよろしいですか?」
「ああ、必要なもんはこっちで取り置いておるから大丈夫じゃ」
タキさんが査定内容を記載した紙を持ってきてくれて、お父さんがそれを確認、サインをしたらお金を受け取って終了だ。
銀板4枚以上の売り上げになったけど、全部私のカードに振り込みで良いって!
「お父さん 半分こしないの?」
「あれはヴィオが狩ったもんばっかりじゃからな」
え~、まじか。一気に金持ちになっちゃったよ?
タキさんに言われてギルドカードとタグを渡して手続きしてもらう。
「うちじゃない方が買取価格も高いのに、態々持って帰ってこなくてよかったんじゃねえのか?」
確かに、他の町で買取をしてもらえば 3倍~5倍の価格になったと思う。だけど、それに付随してくる面倒がいらないしね。
「ルエメイではダンジョンのものを沢山売っちゃったし、メリテントはそうじゃなくても面倒な人が多かったもん。
あの誘拐犯だけじゃなくて、もっと別の悪い人もつきまとわれる可能性があるのは嫌だなぁ」
ルエメイでは お父さんと半分こしたことで 誤魔化したけど、外の魔獣では 私の残存魔力でバレちゃうからね。
メリテントは外に出るたびに人の付きまといがあったから、ギルドにも入らなかったんだよね。
「誘拐……?」
「おい、アルク?」
ポロっと零した言葉に 二人が食いついてしまった。
ああ、何ともなかったから心配しないように内緒にするつもりだったのに、うっかり言っちゃったよ。
お父さんは苦笑しながら メリテントに到着してから、誘拐犯を捕まえるまでを余すことなく伝えてしまった。
もう村から出ちゃダメって言われるかと思ったけど、そんな事はなかった。
「私たちがお伝えした注意事項も覚えてくれていたんですね。危険な事ではありましたが、無事でよかったです。
やはり風の季節に村を出てもらったのは正解でした。この村にも人攫いが出ましたからね」
サブマスの言葉に驚いたけど、直ぐに村の人たちにボコボコにされて、プレーサマ辺境伯の騎士団に連行されたって言うから安心した。
大きな街での誘拐事件は後を絶たないみたいだけど、それは気を付けるしかないもんね。
ダンジョンの旅で起きたことは一通り報告も終わり、お借りしていたマジックバッグもギルマスに返却することが出来た。
【索敵】の検証に関しては 空箱に蓋をした状態で分かるかなどの確認は直ぐにでも出来るけど、ダンジョンの宝箱が 普通の空箱と同じかどうかが分からない事、パニックルームに関してはダンジョンに行かないと検証が出来ないという事で、夏の王都行きの前後でダンジョンに行ってみることにしたみたい。
「ああ、そうじゃ。もうじき息子らが一旦帰ってくることになったんじゃ。
で、帰ってきたらヴィオを連れて 中級ダンジョンの経験を積ませてやりたくてな」
「ええっ!? またすぐに居なくなるのですか? 私との魔法の実験は? 火の季節には王都にも行こうって約束したじゃないですか」
お兄ちゃんたちが帰ってきたら お父さんと二人では入れなさそうな中級にチャレンジしてみようって言ってたんだよね。
それを告げたら サブマスが泣きそうになっちゃった。
「んとね、火の季節にはドゥーア先生の所に行くよ。お兄ちゃんたちは上級ダンジョンに入るのが目的だって言ってるみたいだから、先生の所に行ってる間は 上級ダンジョンに行ってもらうの。
先生のところでお勉強できるのは3週間くらいあるって言ってたでしょう?」
それだけあれば 上級ダンジョンでも一度上がってくるはずだから丁度いいだろうってお父さんが提案してくれたんだよね。
お兄ちゃんたちが居る間に、それなりに人が多いダンジョンも経験しておくのが良いだろうって。
村から王都までサブマスと一緒に行くつもりだったけど、現地集合になりそうなんだよね。
「じゃあ、ギリギリまで仕事をしてから移動で大丈夫だな、ギルド会議終わってからヴィオに付き合うんだろ? それまでは働いてもらうぞ」
ギルマスが嬉しそうです。
そっか、移動を私たちに合わせてたら、前後で結構ギルドを空けることになったもんね。
それはサブマスにも頑張ってもらわないとね。
お兄ちゃんたちが戻る日程は未定だから、それまでは週末に魔法の練習をしたいと告げて 二人と別れた。
「お土産喜んでもらえて良かったね」
「ヴィオからのプレゼントじゃ、二人なら何を渡しても喜んでくれたじゃろ」
「あーーーーー!ヴィオ!」
「ほんとだ!びおだぁ」
会議室を出て階段を下りている途中で、懐かしい声が聞こえた。
「あ~、レン君にハチ君!久しぶりだね」
丁度地下から上がってきたばかりだったのか、尻尾ブンブンで手を振ってくれる二人に 忘れられてなかったのだと嬉しくなる。
「あれ?ヴィオちゃん、こんにちは アルクさん。ダンジョン終わったんですか?」
ゾロゾロと久しぶりの顔が地階から上がってくる。ナチ君は ダンジョンの旅に行ってたことを知ってたんだね。
更に後ろから 馬車で一緒になった3人と、きっとその妹弟とみられるちびっ子も上がってきて、1階の人口密度が一気に上がった。
小さい子供達とは 直接交流があった訳じゃないけど、薬草採収で会ったことがあるので 知らない訳じゃない。
レン君たちからダンジョンの話を聞かれて答えていたら、初顔のメンバーも一緒になって話を聞きたがるくらいには 顔見知りである。
「あら~、こんなにちびっ子が多いなんて 珍しいわぁ♪」
ワチャワチャしてたら 全く知らない声が聞こえてびっくりした。
ギルドの入り口に目をやれば、見た事のない大人が三人……。誰だろう?
「ヴィオは初めて会うだろ? 今年初めてトラウト漁に参加して 全然獲れなかったから、今年一年この村で鍛えて、来年ガッツリ稼ぎたいっていう冒険者だぞ」
え、何その紹介……。
トニー君のあまりに正直すぎる紹介に どんな顔していいのか悩む。
「ひっでぇなぁ トニー坊。まあ間違ってねぇから文句も言えねぇ」
「ほんとだよな。俺たち地元じゃ結構できるほうだと思ってたのに、全然歯が立たねえんだもん、だけど来年はガッポガッポだぜ~」
「うふふ、まあそういう訳で 風の季節から 村に仲間入りした冒険者なの♪え~っと……」
怒ることもなく笑い飛ばしているお兄さん達と 美人のお姉さん、3人組なのかな?ドリカムパーティーだね。
「はじめまして、人族のヴィオ6歳です。銅ランク冒険者です」
一応はじめましての挨拶は大事だもんね。
さっき預けたギルドカード、戻ってきたらカードの年齢が6歳に変わっててびっくりしたんだよね。
ダンジョンの旅をしている最中に5歳から6歳になっていました、成長してます!
「あら、人族だったのね、ってええっ?まだ6歳なのに もう銅ランクなの?」
「昨日までヴィオはアルクさんとダンジョン巡りしてたんだぜ~、姉ちゃんより先に銀ランクの上級になるかもな」
トニー君の台詞に この人たちのランクが銀ランクの中級以下だという事が分かるけど、そんな人たちが倒せない魚ってどんな???
「そうなのね、驚いたけど この村だもの、そういう事もあるのかもしれないわね。
はじめましてぇ、人族のインランよ♪ 銀ランクの中級なの よろしくね♡」
バチコンとウインクが良く似合っていますね。でもその名前……まあ日本じゃないからね。うん、呼び辛いな。せめて “ラン” じゃなくて “リン” だったら……。
「おお、俺はスチーラーズの遠距離担当、ゲスだ。人族だぜ」
チャラそうなお兄さんは弓を背負っているので、遠距離って事なんだね。でも魔法も遠距離だからどっちもなのかな?
しかしこの人の名前も呼び辛いんですけど……。
しかもスチーラーズってパーティー名でしょうか?なんでそんな名前を付けた?
「こんなちびっこでも銅ランクとは 恐れ入ったぜ。俺はスチーラーズのリーダー、銀ランクの上級 のディスってんだ。よろしくな!」
頭をワシワシしてきた人がリーダーですか。ディスられても笑顔でしたよね。
うん なんだろうね、トニー君の軽口に笑って対応できる度量の大きな大人なんだろうけど、名前のイメージが悪すぎる。
まあ、然程私が付き合うことはないだろうから名前を呼ぶ機会はないでしょう。お姉さんの名前はマジで呼べないから。
そんなわけで、4か月ぶりに帰ってきた村では 新しい冒険者が定住するようになり、学び舎も羊のお姉さんたちが卒業、かわりに新しいメンバーが一気に6人も入学してました。
村に人が増えるのは非常に稀だということで、お父さんもちょっと驚いていたけどね。まあ、来年ガッポガッポ儲けることが出来たら旅にでるかもだ。
冒険者はどこにでも行ける自由な人たちだからね。
旅に出ている間に、村に新しい冒険者が定住するようになってました