第139話 ただいま
4か月以上ぶりのサマニア村、皆ただいま!
ダンジョン巡りの最後に訪れたメリテントの街で、偶然 トニー君たちに再会した私とお父さん。
トニー君たちは 洗礼式の為にメリテントに来ていたらしく、帰りの馬車に同乗させてもらって 4か月ぶりのサマニア村に帰ってきた。
「久しぶりにお家のベッドで寝たけど、やっぱりお家が一番安心するね!」
帰宅して直ぐは 【クリーン】を家中にかけてお掃除をした。
水玉に包まれるんだけど水浸しになる訳じゃないから、布団が濡れているなんてこともない。とっても便利な魔法である。
裏の庭は4か月も放置していたけど、村長さんがお手入れをしてくれていたようで 然程荒れてはいなかった。
薬草たちが元気に育ちすぎていたけれど、これはさっさと回収してギルドに販売すれば問題ない。
テントなどの野営道具のお手入れは、メリテントに到着して 時間が沢山あったからやってしまっているし、人が多くなりすぎて出かけられなかった最終日で スパイスの処理も終わってしまった。
マジックバッグからキッチンに並べていくけど、多すぎる分は 劣化をしないように私のバッグに入れたままだ。
メリテントから半日ほどで村に到着したけれど、時間も時間だったので そのまま帰宅した私たち。
ギルマスに借りてたマジックバッグも返却しないとだし、両方のバッグに大量に入っている素材も販売したい。
ということで、朝食を食べた後は早速ギルドに出かけることにした。
「おや? ヴィオとアルクさんじゃないか、帰って来たんだね。おかえり」
「お?おお!帰って来たか。遅かったな」
「あら、ヴィオちゃん 少し大きくなったんじゃない?おかえりなさい」
大樹の広場に着いたところで お店のおじさんや、買い物に来ていたおばさん達から おかえりを言ってもらえる。
「ただいま~、沢山ダンジョン巡りしてたから ゆっくりになったの」
「大きくなった?うれしい!ただいま!」
こんな風に迎え入れてもらえるのは、本当にこの村の子供になった気がしてとても嬉しい。
学び舎はもう始まっている時間だから、お店の忙しさもひと段落しているってところかな。ギルドも今なら大丈夫だろうと思って選んだんだけどね。
「こんにちは~」
「はーい……、あっ、ヴィオちゃん アルクさん、おかえり~」
ギルドに入れば中は静かなもので、やっぱり受付も人はいない。中で書類仕事をしているので 声をかければ出てきてくれたのはタキさんだった。
その声に 他の受付さんたちも バタバタと出てきてくれて 同じようにお帰りと迎えてくれる。
「ダンジョン巡りは楽しかったかい? おや?少し出かける前より大きくなったみたいだね」
「とっても楽しかったよ。さっきもね、大きくなったって言ってもらえたの。
お父さん、私おっきくなってるって」
冒険者装備は サイズ調整が自動で行われるから きついと感じることもなく、お父さんは大きすぎるし、成長を実感することはなかったんだけど、こんなに立て続けに言われるという事は相当大きくなったのだろう、いいことだ。
「ははっ、そうじゃな 成長していると思うぞ。
タキ、巡ってきたダンジョンだけじゃなく、途中の森でも討伐をしてきたから素材が沢山あるんじゃ。
ポイント加算はなし、素材の買取だけ頼みたい。
それからギルマスの手が空いてたら話をしたいと伝えてくれるか?」
「わかりました。では2階の第三会議室を使ってください。
えっと、手が空いている人……」
「「「私が!」」」
「いや、俺も行くから一人で良いし……」
お父さんが素材買取のお願いをしたら、タキさんから会議室を指定された。まあ量が多いから会議室を案内してくれるのは有難いね。
手伝いに名乗り上げてくれる人が多いけど、書類仕事から逃げたいとかじゃないですよね?
受付の喧騒を後に、お父さんと久しぶりの2階へ上がる。
他所の町でも図書室を使うのに入ったけど、ここのギルドの図書室の広さと会議室の大きさは段違いだったことに今更気付く。
きっとこれも辺境であることと、魔獣の危険性なんかが関係するんだろうね。
よく考えれば、自宅の裏庭に 大量の薬草が鈴なりになってるっておかしいもんね。
会議室のテーブルに種類別に素材を並べていれば、受付嬢のウミさんが来てくれた。
壮絶な戦いをしてきたのだろうか、少し息が上がっているし 顔が赤い。何があったか気になるけど、聞かない事にしておきます。
「ヴィオちゃん達は初級ダンジョンに行ったんじゃなかった? ほとんどドロップアイテムはなかったでしょう?」
「うん、でも 村の周りの森には 結構沢山いたし、ルエメイ遺跡ダンジョンは 採集できるものも沢山あったし、ドロップアイテムもいっぱいだったよ」
山羊獣人のウミさんは 尻尾も短いし、ショートカットでフワフワしている髪だから 耳も見えなくて、最初は何の獣人さんか分からなかったんだよね。
旦那さんのオルさんもピルピルした小さな耳だけで 聞いたら山羊だって言われて驚いたんだよね。
オルさんには立派な角が生えるらしいんだけど、凄く邪魔だから定期的にカットしているらしくって、一昔前のヤンキーみたいに剃り込みを入れているんじゃなくて、角を削っているからだって知ったんだよね。何かごめんね。
森で採集した魔獣の肉は 既に食べたり 加工肉にしてマジックバッグに入っているので、ここに出しているのは毛皮とか、肉以外の素材だけだ。
お喋りしながらも テキパキ確認してくれるウミさんはシゴデキ妻なのだ。
「お~、帰ったか……「ヴィオさん!おかえりなさい」」
バーンと扉が開いたと思えば、ギルマス……を遮ってサブマスが飛び込んできましたよ。
ヒョイと持ち上げられて スリスリされて、びっくりして固まっていたら お父さんに掬いあげられました。
「あぁぁぁ~」
「いや、アスラン、それは駄目だろ」
「サブマス、5歳とは言え 自分の娘じゃない子にそれは駄目ですよ」
救い出されたまま お父さんの肩の上に乗せられた事で、サブマスが切なげな声を上げていますが、ギルマスとタキさんから冷ややかに攻められています。
まあ、言ってくれてからなら大丈夫だけど、いきなりは驚くのでやめて頂きたい。
まだ素材を出している途中だからね、そう告げれば 並んだ素材の多さにタキさんは驚き、ギルマスは呆れ、サブマスは喜色満面になった。
「ギルマスさんに借りてたマジックバッグも返さないとだから、早く出しちゃうね」
「手伝います!」
ということで、サブマスも張り切って手伝ってくれたので、素材を出すのは直ぐに終わり、タキさんがあと2名の増員を受付から呼んできてくれたので、手分けして素材確認もしてもらいました。
「お前らダンジョンだけなじゃくて どんだけ狩りしてきたんだよ。無茶苦茶だな……」
「ヴィオさん 魔力操作が更に上達したのではありませんか?
ほらこれ、この素材は出発直後でしょう?
で、これは ここ最近のものでしょう?
傷の大きさが明らかに違っています。極小ボールではなく、カッター系でもこれだけ傷が美しければ、毛皮であっても 縫い合わせても分からないようになるでしょう。高値で売れるようになりますよ」
果物系などの 時間経過が問題になる素材は 即座に別の部屋に持っていかれた。
時間経過がゆっくりになる魔術具に移され、販売されるんだろう。
サブマスが素材を見ながら魔力操作が上手くなっていると褒めてくれる。流石魔法のプロ、こんな素材になってても分かるんだね。
タキさんを含む 受付4人で素材の確認をしてくれている間に サブマスとギルマスに ダンジョンでの色々を報告する。
【索敵】魔法のところでは、サブマスだけじゃなくって ギルマスも大興奮だったけどね。
宝箱の中が見えるというのが驚きだったらしくって、空箱で確認したいってなったのも仕方がないかもしれない。
「しかし パニックルームの入り口をその様に安全に開けることができるなんて、考えたこともありませんでしたね。開けないか、万全の討伐準備をしてから開けるという選択しかありませんでしたから。
やはり、次のダンジョン巡りは私も……」
「いや、だから その間ギルドをどうすんだって言ってんだろ?」
「そんなこと、タキをサブマスにすればいいでしょう? マーレたち羊三姉妹も 来週からギルドに入るのです。人数は随分増えたでしょう?」
「え、ちょっ、いやいや、待って!」
サブマスが一緒に旅をするの?
面白そうだけど ギルドが大変じゃない?
急に名前を上げられたタキさんは メモ帳を落っことすほどに驚いてますけど?




