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〈閑話〉メネクセス王国 2

大陸歴578年 水の季節

3年前の春に豪雨被害に見舞われた東部地区の被害を見て、大きな川を持つ領地の領主たちは対策に乗り出した。

その中でも革新的な対策を行ったのは、隣国 リズモーニ王国と鉱山を挟んだ地に領地を構えているソシュール辺境伯だ。

3年前当時 娘と息子が魔導学園に入学していた事もあり、あちらの国で 流行り始めたという治水工事の話を聞き、その事業を取り入れたと報告を受けていたが、この度完成したとの連絡があり 視察に向かうことにした。


「治水工事とは橋を架けるとか、土手を作るという以外にあるのでしょうか?」

「うむ、ダムなるものを作っているというのでな、見て来ようと思っておる。これをわが国の他の地域でも再現可能なものであれば、川の多い領地では氾濫が防げるし、川がない場所では水不足に悩むこともなくなるだろう。」

「そのような工事があるのですか!?

私も見てみたいですが、流石に城を長く空けることは出来ませんね。」


王太子のグリツィーニも28となり、様々な実績を積み重ね 来年には王位継承式を行うこととなっている。息子が産まれるまでの数年は国内領地を巡り、様々な課題解決に尽力してきた事で 領地を預かる貴族は勿論のこと、その地に住まう平民たちからの信も厚い。

此度の視察はグリツィーニを向かわせることも考えたが、ミュゼットに妊娠の兆候が見られたという事なので 大事をとって残らせることにした。

視察の予定は2か月ほどとしているが、行き来だけでも片道1月はかかる事を思えば 身重になる可能性の妻を置いてはいけまい。


「視察に時間はかかるが 手紙はギルドを通じて送る故、わが国の他の地域でも再現可能と見られたら 東部の領主たちに連絡をしてやってくれ。

南部では 最近流行病も発生したと耳にした。ブリーマ伯爵も、孫の顔を見に行っていたというラフターラ公爵も 既に終息したと申しておった故 心配はしておらぬが、発生源などは調べるように伝えておるからな。もしかしたらその件での連絡があるやもしれぬ。」


「わかりました。流行病は特効薬などがあったのでしょうかね。感染力が弱くて 普通の回復薬で治癒したのであれば良いのですが、その辺りも確認いたします。

丁度 南西部には オルヒーデ(第二王子)が騎士団と共に魔獣討伐へ行っておりますから、その辺りも確認してくるように手紙を送っておきましょう。

そうだ 父上、今回行かれるのは西の辺境ですよね。少し北のプラネルトの国境門でファイルヒェン(第三王子)らしい冒険者が入国の手続きをしたようですよ。

少し足を延ばして顔を見に行かれてはいかがですか?

私も 幼児の時以来 会っていない弟と 再会したいですし、是非王城に顔を見せるように言ってください。」


む?ファイルヒェンが帰国したのか?

年に数回生存確認と 現在の様子が書かれた手紙が 育ての親である辺境伯経由でアンジュ(側妃)に届くだけであったが、そうか 国内にいるのであれば顔を見ることが叶うであろうか。


「そうだな、冒険者をしているのであれば 一所に留まることはないかもしれぬが、国内でしばらく過ごす可能性はあるな。うむ、視察が終われば プラネルトの街にも足を延ばしてみるとしよう。流石に城に来いとは言えぬだろうが、リオネル、よいだろうか?」

「勿論でございます。第三王子殿下は王位継承の争いに巻き込まれぬように辺境でお育ちになられたとはいえ、王家の証である菫色の瞳をお持ちの方。

我が王が心を痛めながらも 愚兄による奸計の目から逃す為に行動されたことは存じております。

お会いできるように手配させていただきます。」


我が父とラフターラ公爵ほどではないが、それなりに年齢差があり産まれたアンジュの子は、灰白色の髪に菫色の瞳を持っていた。

濃い紫の瞳を持つ第二王子と、菫色の瞳を持つ第一王子が既におり、第一王子に王太子としての教育が始まっていた事もあり、アンジュは息子の目が菫色だった事に恐怖を抱いたようだ。

王位継承の争いは国を二分することもある。

先に産まれていた二人の王子とも仲が良かったアンジュは、自分の子がラフターラ公爵に担ぎ出されることを殊更怖がっていた。


それもあって、3歳の頃に アンジュの実家であるトルマーレ辺境伯に預けた。

魔導学園に入学するときには瞳の色を変える魔道具を使っていたため、王家の関係者と思われることはなかった。

トルマーレ辺境伯夫妻は 第三王子である事を伝えたことがあると言っていたが、本人からは〖両親ともに会いに来ることもないから、捨てられた自分を慰める為に あり得ない人たちのことを 両親に設定することで慰めてくれていたのだろう〗と学園入学前に言われたと報告を受けた。



此度の視察でも親として会えるとは思っておらぬ。

偶々視察中に 息子がいる街に立ち寄った、そういう形でも成長した姿を見たいと思うのだ。

もし何らかの素晴らしい功績があれば、それを理由に城に呼んでも良いだろうか。









※もう一話、メネクセス王国の閑話が続きます※

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