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ヒロインは始まる前に退場していました  作者: サクラ マチコ
第一章 幼少期編 

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第137話  メリテント大街 その4


兵舎では 例の3名とは別の部屋に案内され、綺麗なお姉さんと、偉そうな男の人(エラそうなわけじゃないよ、多分偉い人ってことね)の二人に 色々質問されてそれに答えるだけでよかった。

しかも屋台飯を食べながら……。


「あのね、コレ……」


取り調べの最中、例のおじさんがくれた果物を取り出す。


「あのおじさんが待ってる間食べていいよって渡してきたの。

お父さんから知らない人に貰ったものは食べちゃダメって言われてたから 要らないって言ったら、怒って 袋に詰められそうになったの」


「なっ!」


「まあ、お父さんの言うことをちゃんと守れたのね。偉いわ、怖かったでしょう?

ちょっとこの果物は調べても良いかしら?」


私の訴えに、男の人(自警団の副団長さんでエリフさん)が 驚きの声を上げ、ガタリと椅子を倒しながら立ちあがる。

エリフさんに鋭い視線を投げて、私を褒めてくれるのは綺麗なお姉さん(自警団の団長さんで サシャさん)が果物を受け取ってくれた。


サシャさんは 胸元のポケットから見覚えのある片眼鏡を取り出し、果物を確認し始める。


「お父さん、あれって ギルドでも使ってる鑑定が出来る眼鏡?」


「ああ、多分そうじゃろうな」


エリフさんも 椅子に座り直し、サシャさんを見つめている。私はお父さんとコソコソ話しながらその様子を見つめている。

果物を見つめた後、綿棒のようなもので果物を拭き、更にその綿棒を鑑定眼鏡で調べているみたいだ。


「ヴィオちゃん、これは食べなくて正解だったわ。眠り薬がたっぷり振りかけられているわ。これを食べて 眠った子供を袋詰めにして誘拐してたのでしょうね」


器には私のものと おじさんの魔力痕が残っているから、バッチリ証拠品となると喜んでもらえた。

今までは証拠がなく 犯人に行きつけなかったらしい。

子供が居なくなったけど、どこでどのように居なくなったのかが判明しなかったのだ。

今回は既に犯人が捕まっているし、その上 物的証拠まで残っている。

これにより私たちへの取り調べは直ぐに終了し、帰ることができた。





あの後、更なる取り調べが行われた結果、あの男たちは子供たちを誘拐し、皇国などに奴隷として売り払っている常習犯だった事が判明。

即座にメリテント大街を治めている貴族に連絡がされ、貴族の騎士団によって連行されていったそうだ。

プレーサマ辺境伯領地であるこの場所だけど、かなり広いから、プレーサマ辺境伯領地の中を更に分割し、いくつかの貴族が自治を行っているんだって。


全然聞いたことのない名前が出てきて誰?ってなっちゃったんだよね。

学び舎を卒業してから ギルドの二階でお勉強会をしていたけど、領地を治める貴族の名前しか聞いてなかったからね。

その中に更にって、流石にそこまでは勉強してませんでした。


「いやいや、それでもこんな小さな時から リズモーニ王国の主要領地の名前を知っているだけ大したものですよ。お貴族様だったらまだしも、冒険者は そこまで勉強しませんからね。

僕だって この町の事は勉強していますが、他の町の事なんて知りませんよ」



翌日の朝、態々結果をお宿まで連絡しに来てくれたのは、噴水広場に警笛を吹きながら駆けつけてくれたトムさん。

彼らはこの街を守る自警団で、門を出入りする人たちの確認の他、街中での揉め事の鎮静、夜間の見回り、火災時の初期消火などを行っているらしい。

まさに警察官と消防隊の両方を担っているという感じだね。


「思ってたより悪い人だったね」


「そうじゃな、ヴィオが無事で良かった」


不快な視線を感じた時から お父さんと相談しながらの今日だった。

最初はとても反対していたお父さんだけど、街の散策中にお父さんの存在を知って姿を消すような怪しげな人は少なくなく、いい加減鬱陶しかったのだ。

まさか、よく見かけていた路地裏の誘拐犯(疑)ではなく、ガチの常習犯が引っかかるとは思ってなかったけどね。

でも、普通の子供だったら攫われて奴隷になってたことを思えば、私とお父さんで良かったんだよ。

例え私が失敗しても、お父さんが絶対に助けてくれると思ってたし。

そう言えば 渋々納得してくれたよ。お父さん、心配かけてごめんね。



今回は思った以上にダメな人だったから、自警団から騎士団に連絡され、騎士団での取り調べ後、プレーサマ辺境伯の騎士団に連行されて 処罰が与えられるんだって。

随分大変な事になったけど、トムさんは あの人たちがもう簡単に出てくることはないから安心してほしいと伝えに来てくれたらしい。ありがたいね。


ちなみに 団長のサシャさんが使っていた鑑定の魔道具だけど、やっぱりギルドのものと同じらしい。

街の魔道具屋には売ってなかったから聞いたら、あれは自警団の支給品だそうで、この町での一般販売はないだろうとの事。

王都であれば販売されている筈だということだったので、ドゥーア先生に会いに行くときに是非探してみたい。



◆◇◆◇◆◇



報告に来てくれたトムさんを見送ってから どうしようかとお父さんと相談する。

朝市の時間には遅いけど、お宿の朝食の時間は過ぎてしまった。


「昼の屋台との交代時間じゃしな。果物でも食べて腹塞ぎをして、早めに昼の屋台に行くか?」


「うん、じゃあそうしよう!」


ルエメイダンジョンで採集した果物は、サマニア村の皆へのお土産用と、自宅用がたっぷり残っている。

という事で、いくつかの果物をお父さんと分けて食べ、いつものストレッチをゆっくり行ってからお出かけする。



「わぁ!今日は昨日よりももっと人が増えてるね!」


「これはちょっと早いが 村に早めに戻ってもええかもしれんなぁ」


お宿を出たのはお昼の鐘が鳴る前の時間、昨日までも人は多かったけど、更に人が増えていて お父さんに抱きあげられて見回せば、門から入ってくる人達が多いみたいだ。

聖の日だから 冒険者たちもお休みだろうし、出る人が少ない分 余計に街中が込み合っているのかもしれない。


「……!」


お父さんと二人で人混みを眺めながら、宿に戻るか悩んでいれば、あちこちで人が騒めいているのが聞こえる。

これだけ人が多ければ、喧嘩やスリも横行してそうだね。


「今日はお宿で過ごす?」


自警団の人たちが人の流れを調整するように声をかけているのも見えるけど、なんなら私の鞄には食材が沢山あるんだから 屋台飯を絶対に食べる必要もない。

色々食べたくて 毎日屋台に通ってたけど、必然じゃないからね。


「……オ‼」


「ん?」


「どうした?」


「ん、なんか呼ばれたような気がしたの。でも 気のせいかな?」


お父さんと戻ろうと踵を返せば 誰かに呼ばれたような気がした。

でもこの街に知り合いはいないし、気のせいだろう。


「ヴィオ!」


今度は気のせいではなく、ハッキリと名前を呼ばれた。

お父さんにも聞こえたようで振り返れば、人ごみの向こうで ピョンピョン跳ねる……耳?

立ち止まり待っていれば、近づいてきたのは


「トニーくん!? どうしたの?」


「やっぱヴィオじゃん。俺 明日洗礼式なんだよ。馬車で今日着いたんだぜ。

そしたらアルクさんと ヴィオが見えたからさ」


「あ~、洗礼式。それでいつもより人が多いんか……」


水晶ピカーの儀式ですね?

お父さんは人が多かった理由に気付き、来る時期を間違えたなぁと言っている。


「こりゃ、トニー!勝手な行動をするなと何遍言わせるんじゃ!

っと、おや?ヴィオかい?」


「エリア先生こんにちは」


トニー君の後ろから現れたのは 算術の先生だったエリア先生だ。

トニー君は私たちを見つけて ダッシュで来たらしく、滅茶苦茶エリア先生に怒られている。うんうん、授業の時にもよく見た光景だね。


サマニア村で今年洗礼を迎える子供達、トニー君の他に3名の子供達も一緒に来ているらしく、村の馬車で来たんだって。

その子供達と 付き添いのエリア先生、他2名の大人たちを置いて 走ってきたら、そりゃ叱られますね。

その後、トニー君とエリア先生は 追いついた皆と合流し、村で予約していた宿に向かった。


「良いのかな?」


「まあ、ええんじゃないか?今年洗礼はあの4人しかおらんし、馬車に余裕があるんじゃろ」


トニー君たちの洗礼式は明日の朝らしく、終わり次第 馬車に乗って帰るようで、私たちもそろそろ村に帰ると伝えたら、馬車に同乗すればいいと言ってもらえたのだ。

ギルドの馬車だから丈夫だし 人数も結構乗れるらしくて、まだまだ周囲の村の子供達が順番に洗礼式で訪れるだろうから、しばらくこの街に人が多いのは続くだろうという事だったので、お父さんも予定を繰り上げて 早めに帰ろうという事になったのだ。


はじめての馬車体験を思わぬ形で 出来そうだけど、知っている人たちが一緒だったら退屈しなさそうだね。


ダンジョンの旅は終了し、いよいよ村に帰ります

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