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第136話 メリテント大街 その3

街では観光というより、食べ歩きをメインにした感じになって過ごしている。

街での3日目の朝は、宣言通り スープのおじさんのお店で朝食を購入した。

木の器に入った 温かいスープは 結構大きな鳥団子が1つ入っていて、お腹がいっぱいになった。お父さんはおかわりを2杯注文してたけどね。

木の器は【クリーン】魔法で洗浄して返却すれば50ラリが返金された。

木の器を持ち込みだったら 1杯200ラリだというから、この辺りの屋台飯は 1食平均が200ラリなのだろう。


3日目の昼食では、お姉さんたちが行列を作っていた野菜ボウルを購入。お父さんはイマイチだったらしく 肉の焼き串を5本も食べてたけど、私は野菜だけでお腹がいっぱいになった。


4日目の朝食はBLTじゃないけど、野菜とお肉がバランスよく挟んであるサンドイッチを購入。

1つが結構なサイズだったので、1つの半分でお腹がいっぱい、お父さんは私が残した半分と、2つ別に購入してた。

お昼ご飯は焼きそばみたいな麺。

お野菜とお肉を一緒に炒めた麺料理で、麺自体はうどんみたいな太い麺だった。

ソースはちょっと甘いソースで、肉の焼き串でもよく使われているソースを使っているそうだ。とっても美味しかった。


5日目の朝食は 前に買ったおじさんとは別のスープのお店で、木の器を渡したから200ラリで大丈夫だった。

スープだと思ったら中に透明の麺が入ってて、ベトナムのフォーみたいだった。

ツルっとした舌ざわりなんだけど、噛むとモチモチしていて、とろみのあるスープに絡んでとても美味しかった。お父さんは物足りなかったらしくて、昨日のサンドイッチを追加で買ってたよ。


明日が聖の日の休日だからか、この日はお昼でも人が多かった。

だからなのかな、お昼ご飯をいつものように屋台で買って、お父さんが追加の肉串を買いに行く間 噴水に腰を掛けて待っていたら、変な人に声をかけられたんだよね。


「お嬢ちゃん ひとりだけど迷子かな? おじさんが助けてあげようか」


ニコニコ笑いながら、人のよさそうな顔をして近づいてきているけど、1人でいる子供にいきなり話しかける時点で怪しすぎる。

普通は周りの屋台の人たちに確認しない?


「お父さんを待ってるから大丈夫です。ご心配なく」


「おやおや、しっかりしているんだね。じゃあ、お父さんが帰ってくるまでは 危ない人が来たら危険だからね、おじさんが側にいてあげるよ」


いやいや、あんたが一番危ない人ですけど?

そう思うけど 本当に善意で言ってるだけの人かもしれないので、身体強化と結界鎧をそっと展開するだけにしておく。完全無詠唱で覚えておいてよかったよね。


いつもは直ぐに購入できる屋台も、人が多いからか 珍しく時間がかかっている。

となりの怪しいおじさんを気にしつつも、お父さんを目で追っておくことは忘れない。

実は今、ちょっとウキウキしていたりする。

だって、サマニア村を出発するときに、サブマス達から沢山気を付けることを教えられたんだけど、それを体験できそうなんだもの。

今までの村は 皆良い人しかいなくて、警戒する必要が無さ過ぎたんだよね。


だけど、ここでは 朝市のお買い物中にスリみたいな人はいるし、道を歩いている時に 路地からジーっとこっちを見定めるような視線もあったもん。

あの視線がお母さんの関係者かと思って警戒したんだけど、どうやら子供を狙ったただの犯罪者だったっぽくて、子連れだけど どう見ても高ランク冒険者のお父さんを見て 姿を消してたから違うと思う。


屋台でも、粗悪品を取り扱うお店もあったようだけど、お父さんがそういう店は選ばないから 外れたことはない。スリに関しては、 私も お父さんも常に【索敵】しているから 避けちゃうしね。

だからこそ、こんな怪しげなおじさんは 悪い人なのか確認できるチャンスなのだ!


「お父さん遅いね。もしかしたらお嬢ちゃんを見失って探しているかもしれないね」


子供を不安にさせようとしているのですね?

確かにさっきから更に人が溢れ、お父さんの姿は完全に人込みに紛れて見えなくなっている。だけど、【索敵】でお父さんの魔力は確認しているから、屋台の先頭に到着したことは分かっている。


「お腹が空いているだろう?おじさん少し多く買い過ぎちゃったからね、女の人はみんな好きだっていう果物 食べるかい?」


敢えて女子が好きだろうものを準備しているのがギルティだよね。

やる気満々じゃないですか。不安を煽って、優しい振りをして、何が入っているか分からないものを食べさせる。うんうん、テンプレありがとうございます。

ああ、鑑定とかが使えたら この果物に何が入っているのかが分かるのに!


「お父さんから 知らない人に 何か貰うのは駄目だよって言われているからいらないです」


ワタシ、ハッキリとNOが言える人なのです。

何故なら日本人じゃないから。

ピシリと拒否反応を示せば ちょっと苛っとした顔を見せ、直ぐにニコニコと笑顔を貼り付ける。


お父さんはスープを無事に購入できたようだけど、どうやらこのおじさんのお仲間が動き出したようです。


「ああっ、すみません!」


「うわっ、あぶねーな、スープがかかったじゃねーか、どうしてくれんだよ!」


お父さんの進路妨害をするように 何かをお父さんの近くで零したり、それに対していちゃもんをつけているのが聞こえる。

騒ぎの方へ意識を向けた途端、後ろからガバリと麻袋のようなものを広げて おじさんが襲ってきた。


「ハイ、ギルティ」


おじさんソワソワし過ぎなんですよ。

さっきの果物もそうだけど その肩掛け鞄 マジックバッグですよね? そんなの持っている人に警戒しない訳ないじゃないですか。

まさか豪快に 麻袋にいれて誘拐しようと思っているとは想像してなかったけどね。


袋で視界がふさがれた瞬間に 【ファイア】を唱えて 麻袋を燃えカスにしてやったら、おじさん慌てて抱きかかえようとしてきましたよ。

そこは逃げるんじゃないの? 普通の少女じゃないって分かっても どうにかなると思った?


≪ヴィオ大丈夫か?≫


≪うん、変なおじさんが襲ってきてるけど大丈夫≫


≪それは大丈夫ではないと言うんじゃぞ≫


お父さんとは 離れた時から 生活魔法の【サイレント】を使って会話をしていた。

だから 今の状態でもお父さんは特に焦っていないし、どちらかと言えば呆れている?

だって、体験しておかないと サブマスに報告できないじゃん。


「このガキっ!」


でも お父さんに余計な心配をかけるつもりもないし、呆れられるのも悲しい。

それにもう大分お腹が空いた。

もう怒りを隠すことなく襲ってくる男の顎に下から掌底を叩きこむ。


「ぐわっ!」


ガコンってちょっと変な音がしたけど、そう言えば 全身に身体強化をかけたまま あまり手加減せずに掌底をぶち込んじゃったね。

え?大丈夫かな、生きてる?


後ろ向きで飛んで行った男が心配になり、ちょっと追いかけてみれば 人混みがそこだけ無くなっており、中心部分に泡を吹いて倒れている男が居た。


≪ヴィオ、身体強化かけたまんまじゃったんか?≫


≪うん、全身にかけたままでやっちゃった≫


顎が、オカシナ方向を向いているよ?

オジサン 白目を剥いて 口から泡が出ているよ?

ま、まあ、回復魔法も 回復薬もある世界だし、ダイジョブダイジョブ。

お父さんも 男の仲間だと思われる 三文芝居を繰り広げていた二人を蔓魔法で捕縛していて、泡を吹いた男の上に投げ捨てています。


ピッピッピッピピーーーーー!


甲高い警笛の音がしたと思えば、街の入り口にいたのと同じ 兵隊っぽい人が数名で駆けつけてきた。

野次馬をかき分けて入ってきた兵隊さんは、中心に積み上がった3名を見て驚き、その傍にいる私たちを見て もう一度驚いた。



「ええっと、何があったのでしょうか?」


「このおじさんが私を麻袋にいれて攫おうとして、この二人がお父さんの邪魔をして誘拐を手助けしようとしてたの」


「なっ、適当な事を言ってんじゃね~」


「そうだそうだ、おれは関係ない!」


泡吹きおじさんは意識がないから、自分たちは仲間ではないと言い始めている。でもさ、結構長い事獲物を探して、相談して、それから行動してんだもん。

ずっと見てたからそれは無理があるよ。


「この数日 娘を狙うような視線を感じておったからな、ええ加減今日くらいに何かしてくると思って 警戒しておったんじゃ。

お前ら 儂らがこの広場に来た時から ずっとあの店の路地で見ておったじゃろう?

3人で相談しておったのも気付いておったんじゃ。儂は冒険者じゃし、お前さんらのことはずっと気配察知で追っておったんじゃ。仲間なことはわかっとる」


おお【索敵】は内緒にすべきって言ってたもんね。危ない危ない、忘れて言っちゃうとこだったよ。

お父さんの言葉を聞いて、兵隊さんの鋭い視線が男たちに降り注ぐ。

ビクッとした男たちを見て、屋台の店員さんも証言をしてくれる。


「そいつらは 何も買わずに よく人を観察してばっかりいたから覚えてるぞ。そのお嬢ちゃんが お父さんを待って 座ってんのを その泡吹いてる男がジーっと見てたのも間違いない」


「ああ、俺も見たぞ。お嬢ちゃんに 声をかけて 断られても隣に座ってた」


「え~、気持ちワルっ」


次々に 証言が出てくるけど、気付いた時点で 兵隊さんを呼ぶとかはしてくれなかったんですね。とか思っちゃう。このまま誘拐されたら どうなってたんだろうね。仕方ないとかだったのかな。

性善説なんて信じてないから 別にいいけど。

野次馬のお姉さんたちは 男たちを見て、気持ち悪いと侮蔑の声を投げているけど、まあそれは完全同意です。


「まあとりあえず舎で話を聞く。あなた達もご一緒に来ていただくことになりますが……」


「あ~、まあ仕方が無かろう。ヴィオお腹は大丈夫か?」


腹ペコだけど、それくらいは我慢できます。

そう思って大丈夫と言った途端にお腹が盛大に鳴るとか、どんな嫌がらせですか?


兵隊さんは お父さんの手に屋台飯があるのを見て、兵舎で食べてくれていいと言ってくれました。ありがとうございます。


誘拐未遂を楽しむ幼女……。

こんな脳筋な子になるはずじゃなかったのに……。

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