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ヒロインは始まる前に退場していました  作者: サクラ マチコ
第一章 幼少期編 

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第135話 メリテント大街 その2


結局魔道具屋で欲しいものは見つからず、サマニア村への郷愁の念が強くなっただけだった。

最初は私の動きを目で追ってたお姉さんも、大人しく見ていることが分かって安心したのか、カウンターの中で 何か作業をしていた。

あのお姉さんが魔道具を作る人なのかな?


魔道具屋さんを出て、町を散策する。

日本のように ウインドウショッピングができるという事はない。透明なガラスはお宿でも窓に使われているけれど、大きなものは高級らしく、外からゆっくり眺めてみるという事は出来ない。

王都には いくつかそういうお店があるらしいけど、所謂大店と言われるようなお店だし、貴族御用達という事である。私が行くことはないだろう。


看板と窓から見える商品で お店を判別するだけという感じかな。

お父さんに日頃の感謝を伝える為にプレゼントを買う気だったんだけど、何が良いだろうね。

旅をするならマジックバッグがあればいいだろうけど、あれはダンジョンの宝箱で見つかればラッキーというものだし、早々売っているものではないらしい。

売ってたところで 今の私が買えるような値段ではないだろう。


香辛料は ダンジョンで採集したし、お父さんはスパイスの配合も楽し気にやってたしな。

村を出るまでは身に着けるお洒落なもの。とか考えてたけど、実用性がある物だったら 絶対にサマニア村で作ってもらった方が良いものが出来るというのは すでに理解させられた後だ。


そうなると せっかくの大きな街なのに、見て回りたい店がない。武器屋も防具屋も 一流の人たちに作ってもらっているのに、態々行く理由がないもの。

お父さんもそれは分かっているらしく、かといって お父さんも冒険者時代は 必要な店以外に入った事がないらしく、店の窓から覗き込んでは 首を振っている。


「おお!ヴィオ、ここは雑貨屋の様じゃぞ。入ってみるか?」


幾つかの店を素通りした後、お父さんが足を止めた。

雑貨屋にはお店の名前が書いた看板があるだけで、武器屋や魔道具屋のような、共通する看板はないらしい。まあ雑貨を取り扱うなら商品を絞れないもんね。


お父さんと二人で店に入れば、雑貨屋というより ファンシーショップだった。

棚には フリルのついた小物入れや、可愛らしい鞄が並び、小さなブラシや カラフルなリボンも並んでいる。

店内の一番広い部分に女性向けの商品が並んでいるという事は、これらがよく売れるのだろう。

お父さんもリボンの棚の前で真剣に見つめているし……。

私のは色変えの魔道具だからなぁ。それでもハーフアップにしている今日みたいなときは、下ろしている髪をリボンでアレンジしたいのだろうか。


お父さんは真剣なので、私は他の商品も見て回る。

ノートはサマニア村でも売ってるんだろうけど、あれは何屋さんで買ってくれてたんだろうね。足りなくなる前にお父さんが買って来てくれてたから分からないんだよね。

棚には 数種類のノートが並び、カラフルな色表紙がついたノートもある。可愛いけど、実用性さえあればいいから 特にほしいとは思わない。

鉛筆や消しゴムも、まだまだあるしなぁ。


「あ!」


見覚えのある物が並んだ一角が気になり 駆け寄る。

そこにはギルマスが持っていたのと同じトランプに、名前もそのまま リバーシという白黒の駒を並べて遊ぶボードゲーム、そしてサマニア村から発信されたカルタがあった。

この店にあるのは 冒険者ギルドに売っている魔獣カルタとは違うけど、だけど説明文を読めばカルタだという事が分かる。


「そちらの商品は 文字を覚えることもできる玩具なのよ。お父さんに買ってもらうと良いわ」


真剣に眺めていたからだろうか、店員のお姉さんがそう声をかけてくれたけど 申し訳ない。カルタの考案者だし 文字は既に覚えたし必要がないのです。

店員さんの声に、真剣にリボンを見つめていたお父さんも 私が足元に居なくなっていることに気付いたらしく、ちょっとびっくりしてた。

他のお客さんが居なかったからだけど、声をかければ良かったかな。


「お父さん、カルタとトランプがあったの」


「おお、ホンマじゃ。これはサマニア村で作るのとは違うカルタじゃな。普通の子供は 魔獣カルタじゃ怖いと思うかもしれんからなぁ」


確かに。これだけ大きな街だったら、冒険者にならない人も多いだろう。冒険者でなければ魔獣に会うことなく人生を終えるかもしれないもんね。

店員さんもお父さんとの会話で サマニア村出身者だと分かったらしく、カルタの売り込みをしてくることはなかった。

その後、悩みに悩んでいたお父さんは 薄紫色のレースが可愛いリボンと、黄色いリボン、赤いリボンの3本のリボンを購入してくれた。


雑貨屋さんを出た時に お昼を伝える3の鐘が鳴ったことで、4時間も街をぶらぶらしていたことに気付く。結構見て回ってたんだね。


朝市のあった噴水広場はお店が多少変化しており、食材のお店が減って、その場所に 洋服とかを売っているお店が出ていた。

朝のスープを売ってたおじさんの屋台も無くなっており、朝にはなかった 肉を焼いている店が増えている。


「お店が変わってるね」


「ああ、朝市は飲食店の人間が仕入れの為に大量購入することもあるからな。食事も 簡単に食べられるもんが多い。昼は食べ物の屋台は種類が増えるし、夕方になれば 冒険者相手の串焼き肉の店が増えるぞ」


おお、丸一日なんて仕込みが大変そうだし、自分たちの相手にする客層の時間に屋台を出すって事かな?お宿は朝食と夕食はお願いすればでるけど、昼食はでない。

ダンジョンの町でもないから 勿論お弁当のサービスもないので、屋台飯を選ぶために 噴水広場を見て回る。


肉がはみ出る程のサンドイッチ、ナンのような薄いパンで 葉野菜とソーセージを挟んだホットドッグモドキ、焼き鳥なのか 何かの肉を串に刺して焼いている店……。

カットフルーツの盛り合わせの屋台、サラダボウルなのか 野菜がたっぷりの屋台には 綺麗なお姉さんたちが並んでいる。右手に肉の串を握りしめているけどね。


「う~~~ん、種類が多すぎて選べないよ」


「ははっ、まあ今週はゆっくりするからな、気になるものを1つずつ食べてみればええ。そう遠い街じゃないからな、またいつでも来れるぞ」


そっか、今日だけじゃないもんね。

一期一会の店もあるかもしれないけど、それは仕方がないもんね。


「ヴィオ、あれを食べてみんか?」


お父さんが指す先には お饅頭?鉄板の上でお饅頭を焼いている屋台だった。

色んな所を回ってて、美味しいものが好きなお父さんが言うなら 間違いはないだろう。屋台に近付き注文をする。


「らっしゃい、何の味にする?」


味が違うの?見た目は同じだけど、どうやらいくつかあるらしい。

お父さんに尋ねれば 少しずつ味わえば良いと、5種類を1つずつ購入することになったよ。


「まいど、5個で1ナイルだよ」


お父さんが銅貨を1枚渡す。

サマニア村の肉串は、1本50ラリだ。この街では同じように見える肉串が1本200ラリもする。

この焼き饅頭も1個200ラリだから価格は同じようなものだ。

やはり50ラリというのはサマニア価格なんだね。


店の前ではそんな事言えないので、黙ったままお父さんと一緒に歩く。饅頭は私のリュックに入っているので焼きたてで食べられる。

然程嵩があるものではないので、私がリュックにいれてもおかしくないだろうという事で そうしている。



お宿のお部屋に戻ってから、買ってきた焼き饅頭を切り分ける。

私は5個の饅頭を1/5切れずつ、それで丸々1個分になる様に切ってもらった。お父さんは4個分も食べることになるけど、問題ないらしい。


「おおお!種類が凄いね!」


切ってもらった饅頭は、あれですよ、なんだっけ、オヤキ? 肉まんに似ているけど 野菜とかも入ってるあれと同じだった。


「コレはお肉だね、こっちは……キノコだ!これは……?甘い匂いがする。デザートかな」


クンクンと匂いを確認して食べる順を決める。

肉だけがたっぷり入ったもの、肉と野菜のミンチ肉のもの、野菜がたっぷりのもの、数種類のキノコがはいったもの、甘いフルーツのようなもの、一つが15cmほどと大きいので、食べ応えがありそうだ。


最初にお野菜だけが入ったものを選ぶ。緑の葉っぱが炒められているようで、一口齧れば ニンニクの香りと ほうれん草の甘みが口に拡がる。


「スピニッシュじゃな。ヴィオはこれを食べれたか。子供は見た目で嫌うのも多いが 大丈夫か?」


「うん、凄く美味しい。スピニッシュって言うんだね。コレ好き!」


一口食べるまではちょっと心配そうな顔をしてたお父さんだけど、私はほうれん草大好きですよ!

まあ、見た目が真緑の葉っぱだし、肉食系の獣人の子供は好きじゃないかもですね。


次はお肉と野菜のミンチっぽいのを選ぶ。

お野菜はシャクシャクと歯ごたえがあり、少しだけ苦みがあるものの 懐かしい味と感じる。何だろうこの野菜。


「これはチャイプーという草じゃな。うちの森でも 川べりに群生しておるぞ。苦みがあるから 苦手かと思ったが大丈夫じゃったな」


おお!川べりは 避けるように言われてたから気付かなかったね。

青ネギのような草らしく、結構水のある所ではよく生えているんだって。にらとネギの中間みたいな感じなのかな。臭くはない。


キノコとお肉は想像通りの味で、すでに4切れでお腹がパンパンになってきた。

だけど、デザートは食べたい!

でも多分食べると苦しくなっちゃう。

究極の選択を強いられて悩んでいたら、お父さんが助け舟を出してくれる。


「もうええ時間じゃし、昼寝をして、その後におやつで食べたらどうじゃ?

街は ダンジョンとはまた違った意味で緊張を強いられておるからな。きっと疲れておるはずじゃ。

起きたら甘いものを食べればええじゃろ?」


なんと甘い誘惑。

ちなみにお父さんは 私が肉饅頭を食べている時点で 全部食べ終えていました。

私のお昼寝中に、スパイスの調合をしておきたいという事だったので、私のマジックバッグから素材を取り出して テーブルに並べて行く。

準備が出来たところでお昼寝だ。

久しぶりのお昼寝だから、そんなに寝れないと思ったけど、思ったより人ごみに緊張していたらしく 夕食の時間までぐっすり眠ってしまいました。


細かく切ったアポの実の焼き饅頭は、夕食後のデザートとして頂きました。


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