第127話 ルエメイ遺跡ダンジョン その5
おはようございます。
ダンジョン泊の朝は 起きても寝る前と同じ環境なので 時間は分かりません。
ただ、非常にお腹が空いているので朝だと思います。
「おはようヴィオ、そろそろ起こそうかと思ったが 自分で起きれたな、えらいぞ」
お父さんはいつでも早起きが過ぎると思います。
テント泊を始めたばかりの時は、お父さんが起きたら一緒に起きれてたのに、だんだん私を起こさないように起きるスキルが上がってきた お父さん。
起きたら 丸められた毛布に抱き着いていることが多い。なんだろう、お父さんは忍術が使えるのではなかろうか。身代わりの術だっけ。(変わり身の術です)
ボーっとした頭で考えても答えは出ないけど、多分お父さんは忍術が使えるんだと決定づける。
剣帯とベスト、ブーツは脱いでいるけど、冒険者装備はそのままだ。
身支度を整えて お父さんが用意してくれた朝食を食べる。
「お父さん ご飯用意してくれてありがとう」
全部自分でやるべきなのに、朝食はお父さんが用意してくれているし、私一人でダンジョンに入れるのかとちょっと心配になるけど、銀ランクになるのは洗礼の年以降と決めているから、まだまだ一人でダンジョンに入る必要はないと思い直す。
テントの中の毛布を畳み、中身が無くなったら ポールを崩す。
テントを張る時は 引き延ばす必要があったけど、片付けるだけだからね。魔法を解除すれば テントがフニャリと形を崩し、ロープも解ける。
テントからロープを抜いて、テントを畳んでクルクル巻いて、ロープで解けないように留めておく。
「お父さん出来た。お願いします」
準備が出来たらお父さんのマジックバッグにテントと毛布を仕舞ってもらう。
忘れ物がないか、周囲の確認をして 6階に挑戦だ。
◆◇◆◇◆◇
「おぉ~、森だね」
「ああ、森じゃなあ」
一昨日チラ見はしたからね、興奮は抑えめである。
さて、じゃあ【索敵】をしますかね。
今までの洞窟は 空間が決まっていたから 索敵に時間はかからなかった。だけど ココは森。空もあるし 森の端がどこまであるか分からない。
階段を下りたところで魔力を薄く延ばしていくけど、ちょっと範囲が広すぎるので一旦ストップ。
「お父さん、いつもの【索敵】だと ちょっと魔力を使い過ぎちゃう。やっぱり扇の方法の方が良いかな」
扇の方法とは、森で普段やっている【索敵】だ。
自分を中心に 180度くらいを扇状に 索敵をして動いている。マッピングを目的としているのではなく、敵を探す為にやっているので、今までのように 出口を直ぐに見つけるというのは出来ない。
足で実際に歩いて確認すれば マッピングは出来るけど、時間はかかるだろう。
「そうじゃな、それでも 普通の【索敵】魔術よりは随分高性能なんじゃが、そうじゃな、高さを制限してみればどうじゃ?
今までのヴィオの【索敵】は 空間全部を一気に把握しておったじゃろう?
洞窟は天井も低いから 問題なかったが、こういう天井が高すぎる場所には向かん。
じゃから、自分で天井の高さを調整してみるんじゃ。それならどこまで伸ばせる?
もし魔力が足らんかったら、もう一泊してから行けばええ」
おお!それは考えてなかったね。
確かに、いままでのやり方は 長い風船に空気を詰め込む感じで魔力を流してたからね。
そうじゃなくて、自分で空間を意識して、範囲指定すれば良いって事ね?
高さは……木の高さだと高すぎるかな?
でもスネークとスパイダーがいるって事は木の上にも敵がいるもんね。
だったら、木の2/3くらいの高さあればいいかな。飛翔系の魔獣はいないってなってたもんね。
……うん、行けそうだね。
じゃあ 高さは木の2/3で、横幅はどこまであるかな。
ああ、いきなり高さを付けて横幅広げたら 危ないかもね。一旦高さは 私の膝までにしておこう。
それで横幅の確認をしてみよう。
薄く、長く、広く……。
集中するために 目を閉じて魔力に集中する。
普段は 危険だからしないようになったけど、今日は初めての挑戦だからね。お父さんがすぐ横に立って 周囲を警戒してくれているのが分かる。
広く、広く……。
うん? 何だろう、樹々が生えているのが続いているけど、カーテンみたいなのに遮られるね。反対側も同じだ。
「お父さん、今ね、ずっと横に魔力を拡げて見てるの。両端が カーテンみたいなので遮られているんだけど、これは壁って事?」
「おお、果ても分かるんか。
そうじゃ、こうしただだっ広い空間も果てがある。実際にその場所に行けば分かるが、カーテンはないぞ。空間の終わりと言っても 反対側に繋がっとるんじゃ」
「ええっ!?それって 迷子になったら 最悪じゃない?」
迷路は ずっと右回りとか、左回りとかでどうにかなるだろうけど、反対側に繋がってしまったら 延々ループしちゃうじゃん。マッピングできないと最悪じゃない?
「そうじゃな、じゃから 冒険者は印を残していく。ほれ、あれもそうじゃ」
何てことない風に肯定されたけど、本当に危険な職業だね。
お父さんが指さす方向を見れば、木の枝にカラフルなハンカチ?布切れが括り付けてあった。
「これは銀ランクに昇格する頃に教えられることじゃが、森のダンジョンなんかではこうして目印を残すのも大事なんじゃ。
緑の布は 正しい道の印、黄色の布は セフティーゾーンが近い印、赤い布は危険を知らせる印じゃ。
赤い印があれば、危険な魔獣が居るとか、行き止まり、果てになるという印じゃと思えばええ。
これは 普通の森でも同じように印があることがあるからな、気にして見てみるとええぞ」
今まで入った森に カラフルな布があった覚えはないけど、見落としてたのかな。
帰って森に行ったら ちゃんと見てみよう。
果てが分かったところで索敵範囲を伸ばしていく。
横幅は 上階のダンジョンと同じくらいだという事が分かった。ある意味今までは 通路だったのが 平面になったので、マッピングというよりは 敵の場所を確認し、安全地帯と 下におりる階段を確認するだけでもあるけどね。
あ!そうか。
マッピングの為に まずは膝丈くらいまでで索敵して、その後に 活動範囲だけ 周辺【索敵】をすれば魔力が少なくて良いじゃないか。
思った時には 半分くらい ガッツリマッピングしてしまっていて、勿体ないから そのまま出口までやってしまった。
お陰で魔力を使い過ぎ、一旦5階に戻って休憩をすることになってしまった。
テントを準備してくれるお父さんを横目に眺めながら、途中で気付いたのに 無理してしまった自分の浅はかさを呪う。
こういうところが幼児に戻った弊害なのかな。あの時点で切り替えてたら 魔力回復ポーションで充分活動できたのに。
「はぁ~」
思わず大きなため息をついてしまうけど、お父さんは全く気にしていない様子。
「ヴィオは なんでも挑戦するのがええんじゃよ。駄目じゃったら直ぐに別の方法を思いつくじゃろう?
それでええんじゃ。そのために儂が一緒におるんじゃからな。
順調にいきすぎて、1人になった時に失敗した方が怖いじゃろう?
本当はもっと失敗をいっぱいしている筈なんじゃが、ヴィオは賢いからなぁ。普通の初心者が失敗することを殆どせんとここまで来ておるんじゃよ?
さあ、昼まで寝れば 十分回復するじゃろう。マッピングが出来たなら 今日はそこまで行ってみるか?」
1日予定がずれ込む事もショックだったけど、それに気付いたお父さんが 6階の活動を許可してくれた。
絶対挽回したいから、一つ頷いて 毛布を頭まで被る。
ポーションを使うより、自然回復させた方が魔力量が上がるしね。うん、マッピングは出来たもん。午後に 頑張るぞ!
ヴィオの失敗が嬉しいと思ってしまうお父さん。
冷静に着実に行動しすぎて 手助けできないのももどかしいのです。




