第123話 ルエメイ遺跡ダンジョン その2
2日目の今日、目標は 4階の討伐と5階の確認だ。
明日 1日 休日を挟んで、明後日から6階以降の森ダンジョンを続けて潜れるように ダンジョン泊だからね。
5階に全く敵がいないなら、ちょっとだけ6階を覗いて帰ろうと言っているので、とっても楽しみだ。
1階から3階までは まだリポップしていないため、最短距離で通過するだけ。
スライムはあちこちにいるけど、ノンアクティブだからね。此方から攻撃は仕掛けない。
4階に到達したら、まずは【索敵】でマッピングだ。
これは6カ所目のダンジョンになった今、最初とは比べ物にならないくらい 魔力消費が減ったし、早くなった。慣れって大事だよね。
ただ、6階以降は森だというから、ちょっとどうなるか分からない。
広すぎると魔力もそれなりに使うし、敵も これまでのように1~3種類だけと決まっている訳ではないようだから。
ああ違うね、出る魔獣はある程度決まっているけど、出現方法が今までとは違うから、種類も多く感じるだけかな。
まあ、資料に書いていただけだし、実際に見てみないと全く想像がつかないからね。
そうこう考えているうちに、お父さんの【索敵】も終わったようで、行き止まりになるような通路も 全て通って行く。
出てくるのは、スモールラット、コボルト、ゴブリンの3種だけ。
時々スモールラットがゴブリンに狩られているけど、私を見つけた途端、ラットを放り出してこっちに来るんだから、ダンジョンの魔獣は 冒険者を優先するんだろうね。
爪を、というか 両手を振り回しながら走り寄ってくるゴブリンは、こちらのパーソナルスペースに入る前に、魔力を流した鞭で首チョンパだ。
「お父さん、ゴブリンが食べかけてたスモールラットも ゴブリンが消えたら消えたよ。でも、ゴブリンにやられた時点で死んでるはずなのに、あの時点では消えないんだね。不思議だね」
内臓というより、心臓部にある魔石から食べていたのだろう。私が見つけた時点で 口の周りが血だらけのゴブリンに、胸から腹を食いちぎられたスモールラット。どう見てもラットは死んでいた筈なのに、キラキラエフェクトにはならず、私が来なければ 多分1匹まるまる食べていたと思う。
私を見つけたとき、食べかけのスモールラットを放り出してこちらに来たけど、その時もラットの死骸は地面に落ちていた。
で、ゴブリンが死亡したら 一緒にラットも消えて行ったのだ。
「あ~、ま~、そうじゃな、あぁ、あれか、ほれ、武器のあれじゃ」
「武器のあれ?」
「ああ、ホーンラビットの角をゴブリンが持って 武器として攻撃してきた時があったじゃろう?
あの時も ゴブリンを討伐したら 角も消えた。
多分、ゴブリンの武器として見做されたんじゃろうと言うておったじゃろ?」
お父さんの言葉に、ドロップアイテムだった角を奪われた時のことを思い出す。
あれ以降、できるだけ使えるアイテムは素早く集めるようにしているもんね。
「ああ!あったね。そっか、じゃあ 今のスモールラットは『ゴブリンの餌』になってたんだね。で、持ち主が居なくなったから 一緒に消えた、って事だね。
成る程なるほど……。ダンジョンは奥が深いねぇ」
「まあ、そこまで気にする者もおらんじゃろうがな。ヴィオは本当にダンジョンを心から楽しんでおるなぁ」
そりゃそうだよ。初心者ダンジョンと言っても、敵も違うし、貰えるお宝もある。勿論洞窟ばっかりで 少々飽きてきてたけど、今回は遺跡だ。
世界にはまだまだ沢山のダンジョンがあるからね。今のうちからダンジョンの不思議を見つけておけば、違いにも気付きやすそうだもん。
気付いたことは 毎日ノートに纏めている。これはサブマスやギルマス、ドゥーア先生に魅せるつもりなんだ。
きっとギルマスは ちょっと呆れた顔をすると思う。だけど、ドゥーア先生は喜んでくれるだろうし、サブマスも 楽しんでくれると思うんだ。
そんな新しい発見もありつつ 4階を攻略、5階の階段を見つけてお父さんと一緒に下りていく。
カツーン カツーン カツーン
洞窟ダンジョンとは違い ここまでは石畳が続く通路だったんだけど、これはまた全然違う。
通路とかは無く、ドーム型のただただ大きな空間が目の前に広がっている。全体的に丸い部屋空間だからか、自分たちが階段を下りる足音が響いている。
「おぉぉぉぉ!お父さん!ココ凄いね! ギルドの訓練場よりもずっと広いよ!」
思わず興奮してしまうくらい、なんかすごい空間だ。
湖が部屋の2/3を占めているからか、なんとなくヒンヤリしているし、壁の色も相まって 青っぽい部屋に見える。今までの通路が白っぽかったから ギャップが凄いね。
「あまり湖に近付きすぎんようにな」
なんだろうね、子供って 広い場所に行くと無性に走り回りたくなるように、遺伝子に書き込まれているのかね。
だだっ広い空間は魔獣の1匹もおらず、思わず駆け回ってしまった。
お父さんの注意する声に うっかりダンジョンだという事を忘れていた事に気付いたくらいだ。
危ない危ない。ゴミ捨て場から一直線で川に飛び込んだ過去があるからね。湖の1メートルくらい手前で急ブレーキ!お父さんのところに戻りますよ。
「ちょっと 興奮し過ぎちゃった。本当に地上には魔獣が居ないんだね。湖にはいるんだよね?」
「はははっ、ヴィオの子供らしいところが見れて、儂は嬉しいくらいじゃがな。
まあ、ダンジョンじゃから 気を抜きすぎるのは危険じゃが、偶にはええんじゃないか?
湖の中には 居るはずじゃ。近づきすぎると危ないからな、ヴィオならこの辺りからでも索敵できるじゃろう?」
お父さんの元に戻れば、嬉しそうに頭を撫でられる。いや、まあ、今は5歳児だけど、多分中身は成人してたし、ちょっと恥ずかしいです。
本当に 時々幼児返りしちゃうこの身体がもどかしいね。
で、お父さんに言われたので 湖からしっかり距離を取った場所で 湖に向けて【索敵】を行ってみる。
魔力を伸ばして……。
ん?
いつもの感じで伸ばしていくと、この広い空間に拡がってしまって、水の中には入って行かない。
「いつものだったら空気に馴染ませる感じにしてるから? だったら水に当たったところは 水に溶ける感じにすればいける……?」
水に触れながらだったら 余裕で水中の【索敵】が出来るのは分かっているんだけど、それはきっとかなり危険だから考える。
水に触れていないここからでも出来るようにするには、空気に馴染ませている魔力を、水に溶かすようにすればいいかもしれないと思い、水に触れているあたりの魔力に集中する。
勿体ないので、天井付近まで広がった魔力は 水中に溶かす方へ移動させるよ。
ピタリと水面に触れた魔力は、コーヒーにミルクを垂らしたように最初は濃い色を作り、だけど徐々に溶けて湖に馴染んでいく。
それまでは空間をマッピングしていたのが、急に水中に切り替わり、水の中に無数の生き物がいるのが見える。
「おお!結構いるね。魚だけじゃない? 虫かな? あとは蛇っぽいのもいるね。
お父さん、両生類はいないの? 陸に上がってきたりしない?」
「ここのは長時間 陸で動けるやつは居らんはずじゃ。ただ、湖に迂闊に近づけば 引きずり込むようなのは居るから気を付けんといかん」
マジか。
でも 蛙が居ないだけましかな? あれは余裕で陸でも活動するもんね。
という事で、湖からは十分に距離を取った場所でお昼ご飯休憩にすることにした。
ちょっとヒンヤリと思ったここは、長時間ジッとしていると少し寒い。なので 脱いでたマントも羽織り、敷布を敷いてから お弁当を食べた。
テント泊をこの階でするのは 安全ではあるけど ちょっと寒いね。出てからお父さんに相談してみよう。




