第118話 ケピマルダンジョン その3
木の日の朝にダンジョンへ入り、3階までをサクサク潜る。
ホーンラビットの角くらいしか採集する必要はないから 非常に早い。
6階と7階は シカーマンティスも出るけど、基本的にやつらはカマイタチを放ってから 駆け寄って鎌を振り下ろすという単調な攻撃しかしてこないので、避けるのは簡単だ。
カマイタチも一方方向にしか飛ばないので、その軌道を掻い潜って シカーマンティスの足元まで潜りこめば、双剣でも首を切り落とすことができる。
結界鎧という防御があるからこそできることだけど、お父さんからも この近接戦が出来るようになれば 対人戦でも戦えるようになるだろうとお墨付きをもらったんだ。
予想通り、9階のパニックルームは空室のままで、何故か扉だけは元通りになっている。
ダンジョンって不思議がいっぱいだけど、そういう研究は ドゥーア先生達みたいな研究者が色々頭を付き合わせてやってるらしく、実際にガンガン潜っている現場の冒険者たちは『ダンジョンだからそんなもんなんだろう』と割り切っているらしい。
流石は感覚派が多い冒険者だといえるよね。
9階の空室でテントを張ったら今日はここで野営である。
明日ボス部屋に行くまでの通路には リポップした魔獣が居るだろうけど、この部屋からボス部屋に下りる階段は直ぐだから、ボス前に魔力・体力が激減することはないと思う。
翌朝、いつも通りに朝食を食べ、ストレッチをして準備万端にしたらテントを片付ける。
やっぱりお部屋の中に赤いダンゴ虫が現れるということはなく、宝箱も空のままだ。
これがいつ再生されるのか見てみたいけど、目の前でリポップされたのを見た事はないというお父さんの発言から、ここで待っていても見ることは出来ないだろうと推察される。
大きなダンジョンでは複数の冒険者が 同じ階にいることはある。だから〖その階に人が不在でない限りリポップされることはないのではないか〗という仮説は無くなったらしい。
だけど、誰も突然湧き出る魔獣を見た事はないらしく『通路を曲がったら居た』とか 『さっきは絶対に居なかったのに、森の中から突然大量のゴブリンが出てきた』なんてことはあるようなので、人の目に付かない場所で コッソリリポップされているんだと思う。
土からひょっこり出てくるのか、転移のように突然出てくるのか、そんな事も話し合われているというので、是非解明したら大々的に発表してもらいたいものである。
お部屋を出る前に【索敵】したら、9階の魔獣は全員リポップしているようだった。
「お父さん、全部復活してるっぽい。とりあえずここから階段までだけ討伐しちゃって、そのままボス部屋に行くね」
予定通りの行動をする事をお父さんに伝えれば 了承の頷きが返されたので、お部屋を出る前に 自分とお父さんを其々護る様に 風の盾を張る。
「【エアウォール】」
小さな竜巻のような壁が二人の周りに現れる。ここにいるゴブリンやホーンラビットくらいなら、この盾に激突するだけで消えると思う。
部屋の扉を少しだけ開き、その隙間から 左側の通路にいるであろうゴブリン2体に向けて 【エアショット】を放つ。
小さな空気の玉が2体に向けて飛んでいく。
水球や火の玉、土の玉よりも使いやすい空気弾、他のものと違って、その場にある空気をそのまま圧縮するだけだから使いやすいんだろうと思う。
音もなく忍び寄る空気弾に後頭部から打ち抜かれ、叫び声を上げる間もなく 2体はエフェクトに包まれて消えていった。
扉を完全に開けて右側へ進めば、シカーマンティスが後ろ向きで立っている。
わざわざこちらに気付かせる理由もないので、鞭に炎を纏わせたまま首を刎ねる。
エフェクトが消えた場所に落ちている鎌を拾ってマジックバックに入れておく。
階段まではあと2体のシカーマンティスが居たけど、全く問題なく討伐して階段を下りていく。
「ヴィオ、魔力が勿体ないからこの盾は外してくれてええぞ。儂も自分の身を護ることは出来るから気にせんでええ」
ボス部屋に入る前の小休憩でお茶を飲みながらお父さんに言われたので、風の盾は解除する。
何度か使っている魔法は殆ど魔力消費を感じないけど、この後はボス部屋だからね。
しかも帰り道にリポップしている魔獣との対戦もあるから、無理は禁物だもんね。
4か所目のボス部屋も、他と同じように 異様な気配を発している。その扉にお父さんと二人で手を付けば、ギギ ギギ ギギギ ギギギギ と軋みながら扉が開いていく。
本当に演出に凝ってるよね。帰りはスムーズに開くんだから こんな音 鳴らなくても大丈夫なのにね。
中にいたのはシカーマンティスとゴブリンの上位種っぽい。
今まで見たシカーマンティスよりも一回り大きいのと、目が赤いのが居る。
ゴブリンはメイジが1体と、多分ハイゴブリンが3体だろう。ローブを着ているのが1体だけだし、後の3体もゴブリンより少し体格がいいから予想だけど。
「ハイシカーマンティスは予想しておったが、ここで変異種も出るか……。
ヴィオ、変異種は 上位種よりも強力であることが多い。ハイは魔法を使う事があるから あの変異種が使えんことはないだろう。儂も手伝うか?」
「ううん、まずは一人でやってみたい。もし無理そうだったらお願いしてもいい?」
まだ登場演出中なので 二人で話しながら準備していく。
赤目が変異種なんだね。だったらとりあえずあいつを隔離しておこう。
「【ウォーターウォール】、【エアカッター】、【アースランス】」
演出が終わると同時に 水の壁でメイジゴブリンと変異種のシカーマンティスを隔離して、ハイゴブリンと数匹のハイシカーマンティスは 下から土の槍で突き上げる。
1体だけ土の槍を逃れたようだけど、他はキラキラエフェクトで消えていく。
メイジゴブリンは【ファイアボール】を唱えているようだけど、それは以前も見たので 水の壁から槍が出るように【ウォーターランス】を唱えて串刺しにする。
土の槍から逃れたハイシカーマンティスから風魔法が放たれ、こちらに空気の鎌が飛んでくるのが見える。カマイタチよりは太目だけど ほぼ同じ攻撃だね。
両手の鎌を左右ブンブンと振りながら、同時に空気の鎌を飛ばしてくるので 間合いに入るのが難しい。
「【エアウォール】」
先程までよりも凶悪な竜巻を想像しながら風の盾を張り、そのまま空気の鎌を気にせずにハイシカーマンティスの間合いに入る。
カキン カキン カキン カキン
空気の鎌が壁に当たる度に 跳ね返される音がしているのが聞こえる。
足元まで近づいたところで風の圧を感じたハイシカーマンティスが避けようとするけど、許さない。
近寄りながら魔力を流していた鞭には 土の魔力を通している。
砂粒がうねる鞭を真下から振り上げれば、両手の鎌をクロスしてかばおうとしたけれど、その鎌ごと身体を真っ二つに切り裂いた。
「ヴィオ!」
ガキン!!!
ホッとしそうになったところで お父さんの叫び声と、風の盾に何かが弾かれる音がした。
振り返れば いつの間にか水の盾から出ていた変異種が私に向けて仁王立ちになっていた。
鎌を振り切れば 風の鎌というより、炎の鎌が飛んでくる。
おお!炎のブーメランみたいで格好良いね。
もしかしたら赤い目っていうのは 炎の属性だからなのかな? 瞳が青だったら水とかで違ったりするのかな?
ちょっと興味があるけど、自分以外の魔獣が倒れて怒っているらしい変異種の攻撃は止まない。
「【ウォーターランス】【アースランス】」
2種類の槍を其々出してみたけれど、飛退きながら鎌を振るい 魔法の槍を折っていく。
「【アースボール】【エアショット】【ファイアボール】」
ボール系を放っても避けるし、鎌で防ぐしで 中々手ごわい。
あちらの攻撃も効かないけど、こちらの攻撃も通らない。
「ヴィオ、鞭で攻撃してみるほうがええ」
最初の一撃は焦ったらしいお父さんだけど、対処可能と見たところで 見守り体勢に戻っている。
そうか、これだけ動きが早い敵は魔法だったら追撃効果でもないと無理だよね。
鞭に先ほどと同じように砂を纏わせていく。
その手先を見ながら警戒している変異種に、【エアショット】を打ちながら 間合いを詰めていく。
鞭も気になるけど、魔法も警戒しているから 段々変異種の攻撃が雑になってくるのが分かる。
こちらは風の盾を張ったままだしね。
大きく振りかぶったところで 懐に潜り込み、おなかの下に【アースランス】を、そして目の前の胴体を切り裂くように鞭を振りぬく。
一瞬【アースランス】の方に気を取られた変異種は、同時に出された鞭にまで対応できず、鎌を振り上げたままキラキラエフェクトに包まれて消えて行った。
全ての魔獣が消えたところで、私の壁も解除して、その場で仰向けに寝転がってしまった。
「ふわぁ~~~~、流石に疲れたぁ」
「はっはっは、ヴィオ凄いじゃないか。
変異種は通常種より2~3ランクは上位種じゃ。
それを単独で討伐できるとは 凄い事じゃぞ。危なかったら助けに入るつもりじゃったが、全く危なげなかったなぁ」
わしわしと頭を撫でられ、とても嬉しい気持ちになる。
お父さんのアドバイスが無かったら、もっと時間がかかったと思うけど、何とか討伐できてよかった。
腰布はともかく、鎌が落ちているので 起き上がってそれらを拾っていく。
変異種が居た場所には、鋭いオレンジの鎌と、少し赤みがある魔石が落ちていた。
「お父さん、魔石が落ちてる!」
「ああ、変異種程のランクじゃったら魔石もあるじゃろうな。中級以降のダンジョンに出てくるような魔獣は、種族特性のドロップアイテムの他に 魔石も一緒に落とすことがある。
ゴブリンでもナイト以上の奴らは魔石を落とすぞ」
おお、魔石はないんだと思ってたけど、あるんだね?
赤みの強い魔石という事で、炎の属性が強い魔石だろうという事だった。多分変異種が炎の属性だったんだろうとの事。
鎌も多分そうだろうけど、これは帰ってギレンさんに見てもらうことにしたよ。楽しみだね。
部屋を出る時にお父さんにも障壁を作っているのは、将来のパーティーメンバーとの行動の為の練習だからです。
本来銅ランク如きでは倒せない変異種でしたが、お父さんのスパルタ指導のお陰で倒せました。




