第114話 初めてのお手紙
お父さんとのダンジョン巡りは順調に進んでいる。
2か所目のコニベア村のダンジョン踏破をした後は、3泊4日の移動を挟んで ウレアという村に到着した。
この村が管理するダンジョンは中級ダンジョンなんだけど、出てくる魔獣が初級ダンジョンとレベルが同じで、ドロップアイテムにうまみがないという事で 、初心者でダンジョンに慣れるために来る人がいるだけの、不人気なダンジョンなんだって。
ただ、中級ダンジョンにされている理由は階層数が20階もあるから。
出現する魔獣の強さや、深さなどでダンジョンのランクは決められていて、浅くても階層が広い&魔獣が高ランクな場合は ダンジョンのランクが高く、階層が多くても森の浅い場所にしか出ないような魔獣しか出なければランクは低くなる。
ボス部屋の更に奥には ダンジョンコアと呼ばれる巨大な魔石があり、それを壊すか 持ち出すとダンジョンは崩れてなくなってしまうらしいんだけど、今まで行った2か所ではそれを見た覚えがない。
お父さん曰く、あのボス部屋のどこかに隠し扉があって、その奥にコアがあるんだって。
なので、ボスはコアを護るガーディアンの役割って事なんだろう。
ん?でも20階の時は10階に中ボスがいるんだよね。ラスボスが門番なら、中ボスの役割は何だったんだ?
ああ、そうそう、ダンジョンは資源の宝庫でもあるので、ダンジョンコアを壊すことは 基本的に国から禁止とされている事が多い。
多い、というのは禁止していない国もあるからで、ダンジョンの存在を認めていない神国やルシダニア皇国にはダンジョンがない。多分出来たとしてもコアを直ぐに破壊しているのだろうと言われているんだって。
リズモーニ王国、特にプレーサマ辺境伯では 初級ダンジョンは 冒険者を育てるための場所として村を管理役として大切にしているので、他国に比べて うまみのない初級ダンジョンがとても多いんだって。
共和国とかでは うまみが無さ過ぎる初級ダンジョンは 管理者を置くこともできないから さっさとダンジョンコアを破壊してしまうみたいだから。
私が共和国や メネクセス王国にいたら、もっと大きくなってからじゃないとダンジョンに入ることは出来なかったかもしれないね。
皇国だったら、そもそも冒険者になることは出来なかっただろうし、属性がバレた時点で監禁案件だった筈。
そう思えば 本当に、つくづくサマニア村に、お父さんのところに流れ着いて良かったと思う。
ああ、そうそう、ウレア村の中級ダンジョンは、ホーンラビット、ウルフ系、コボルト系、ゴブリン系が殆どで、階層が深くなれば成る程 上位種になるだけだった。
ただ、20階もあるから、2日に1度の休養日を取っていると、最初の階数の魔獣たちがリポップしちゃって、中々先に進めなかったんだよね。
それで、2週間目には ダンジョンでお泊りすることも体験したんだ。
5階を越えてくると セフティーゾーンになる部屋(時々パニックルーム)があるから、それを見つけたらそこでテントを張るって感じ。
室内は石畳が床一面に貼られているから、とってもテントを張りやすい。
食事も宿泊地の女将さんが 保存食をいくつか持たせてくれているし、それが無くても 私のマジックバックには 大量の食材が入ってるからね。
ちゃんと安全な室内で、調理したご飯を作って食べたので、ぐっすり眠ることもできたよ。
街道での野営より、旅人が来ることも、魔獣が入ってくる心配もないためか、余程安心して眠れた。
一度4泊5日のダンジョン泊をしたことで、女将さん達も安心したらしく、最後は5泊6日で ボス部屋までの完全踏破をしたんだよね。
20階層でのボス部屋での宝箱をもらった後、初めて入り口とは違う扉が現れた時には テンションが上がったよね。
ああ、10階の中ボスの部屋では 扉が現れたと言うよりは、階段が現れたって感じだったから、ちょっと感動とは違ったんだよ。
ボス部屋の次の部屋には床に魔法陣があり、お父さんと二人で乗ったら キラキラ輝き始め、気が付けば1階にいたって感じ。
セフティーゾーンでもないんだけど、周辺にはブルースライムしかいないから、ある意味安全な場所かな。
そのまま明るく見える入口を抜ければ地上に帰って来れたと言う訳。
ダンジョン泊をしたことで、リポップの障害はなかったけど、ボス戦が終わったら 殆どリポップしているであろう全階を回るのが面倒だと思っていたから 非常に助かったよね。
ちなみに 私たちが現れた筈のその場所に魔法陣は無く、着地地点でしかないのがよく分かった。
帰りは送ってくれるけど、来るのは自力で毎回おいでと言う訳ですね。
◆◇◆◇◆◇
ウレアの村を出て、4か所目はケピマルという村。
この村の管理するダンジョンも初級だけど、今までに会った事がないネズミ系の魔獣と、昆虫系の魔獣が出るらしい。
日本人だった時には 黒い彗星を見つけたら殲滅する勢いで嫌いだという記憶があるけど、このダンジョンに出る昆虫はカマキリっぽいらしいから大丈夫かな?
いや、黒い彗星も記憶で嫌だというだけで、こちらの世界で見たことがないから、意外と平気かもしれないんだけどね。
「ヴィオ、村を出て1月半ほど経つが、そろそろギルマスたちに近況報告の手紙を送るつもりなんじゃが、ヴィオも何か書きたいことはあるか?」
ケピマルに到着した時に お父さんからそんな提案を受けた。
手紙を書くなんて考えてなかったけど、書けるなら レン君やハチ君の様子も知りたいし、お魚の具合も知りたい。
冒険者がたくさん来るというけど、それがどんな感じなのか……。あ、それは帰ってから聞いた方がいい内容かもね。
ケーテさん達は中級ダンジョンに行くって言ってたから、まだまだ帰ってこないだろう。
「今回は普通便で送るからな、あまり知られたくない内容は書かない方がええ」
冒険者ギルドが小包などの小さなものを転移陣で送ってくれるというのは以前に教えてもらった話。
銀貨一枚というちょっとお高い金額が必要だけど、送ったらすぐに相手先のギルドに届くというのは凄いと思う。
ただ、その手紙にも種類があって、今回送る普通手紙は 誰かに開けられる可能性があるというもの。
検閲を理由にとかね。
お金のやり取りも 悪いことをする人なんかがいる可能性もあるから、基本的に手紙の中にお金を入れて送金するのは推奨されていない。
日本でいうオレオレ詐欺的な事だろうか。
それに、サマニア村の受付は皆顔見知りで良い人しかいないのは分かっているけど、街によってはギルドの職員に手癖の悪いのも居て、高価なものを少しポッケにちょろまかす人が居なくもないんだって。
なので、そういうアイテムやお金、それから見られると困る手紙などを送るときには、魔法封が出来る特別な小包が必要になるみたい。
ギルドの緊急手紙が赤い封筒なのも、魔法封で留められているらしい。
魔法封がされているものを勝手に開けると、その印は必ず荷物と開けた人に付くみたいで、偶々引っかかって開封されたとかでない限り、手を後ろに縄で縛られてしまう案件らしい。
で、今回送るのは 普通の封筒で、普通の植物紙を使って送るので、誰に見られても大丈夫な内容だけで書くのが良いとの事。
という事は索敵魔法の事は詳しく書いちゃダメって事だね。
あとは鞭の扱い方とかもか。まあ、その辺の冒険者に関する内容は実際に見てもらった方が早いもんね。帰ったら見てもらおうっと。
そう思って、お魚がどれくらい沢山釣れているのか、学び舎の皆が元気にしているのか、サブマスさんが寂しがってないかなど、他愛もないことと、今3つのダンジョンを踏破し終えて、今日から4つ目に行くこと、最後は面白いダンジョンに行くらしいけど、どんな場所なのか まだ内緒にされている事などを書いていく。
お父さんも別の紙に書いているので、必要なことはお父さんが書いてくれるだろう。




