第113話 次の行き先は?
「さて、アンナープ洞窟にコニベア洞窟、二つのダンジョンを踏破したわけじゃが、ちょっと想定外の速さでなぁ。
この後どうするか迷っておってな、ヴィオの行きたい方に行こうと思うとるんじゃ」
ダンジョン踏破をしたのは午前中で、お宿に戻ったのが早すぎて 玄関で会った女将さんから 失敗したのかと心配されちゃったんだけど、ちゃんと踏破してきた事を告げたら とっても喜んでもらえたんだよね。
夕飯はお祝いで豪勢にしてやると張り切ってくれた女将さんの言葉を楽しみに、私はお父さんと自室で お昼に食べそこねたお弁当を食べている。
お父さん曰く、どうやら初ダンジョンも想定以上の進みだったらしく、途中で休日を入れても5日でクリアするとは思ってなかったらしい。
初めてのダンジョンという事で、楽しみ過ぎて体力の配分が上手くいかなかったり、スライムにもう少し時間がかかったり、初めての人型ゴブリンの討伐にもっと時間がかかる予定だったらしい。
長時間ダンジョンに潜ることで、初心者は薄暗い中での閉塞感や、圧迫感で不安感が増したり、日帰りにしていても 夜によく眠れなくて体調を崩す事も多いらしい。
村の宿でも眠れないのに、敵がいるかもしれないという不安のテント泊では、翌日の行動にも差支えがあるということで、初心者はダンジョン泊を推奨されていないんだって。
お父さんとしては そういう体調不良でお休みする日程も計算して、2週間はアンナープ村にいる予定だったんだって。
それから、こっちのコニペア村では階層も深い分、最低でも3週間、長くて4週間強を予想して計画していたみたい。
体力の配分でいけば、学び舎や、お父さんとの訓練でクタクタになるまでやりすぎて倒れる。ってのを何度かやってるし、ゴブリンに関しては あの醜悪な顔ではあまり人型だからという忌避感はなかったよね。人語で「助けて」とか言われたら、多少躊躇したかもしれないけど。
ダンジョンは思ってたよりも明るかったし、圧迫感で言えば 多分お母さんとの移動生活で過ごしたことのある洞窟や、お母さんが襲われた時とその後 少しの間隠れて過ごした床下収納の方が 余程圧迫感があったと思うから、ここでそんな事を思ったことはなかったかな。
ダンジョンの到達目標を毎日作ってたから、昼寝をできなくて、その分 夕飯後はお風呂入ったらすぐ爆睡だったよね。
お陰でダンジョンに一日潜った日は 寝る前の魔力操作の練習が出来ていないくらいだ。
お父さんはやってるらしいのと、ダンジョン内で あれだけ索敵を常に展開しながら強化魔法、結界鎧を使ってるなら十分だと言われているので、この期間は仕方がないと思ってるけど。
今はまだ風の季節の一月目、日本でいう10月である。
お父さんの当初の予定では、コニベア村のダンジョン踏破は11月の半ばだったそうで、その後にメリテントの大きな街で過ごして 年明けにサマニア村へ戻ろうと思ってたらしい。
だけど、まだ10月の最終週すら残している日程だから、そんな長期メリテントにいても仕方がないだろうという事らしい。
「う~ん、街は興味があるけど、きっと街の冒険者ギルドでの依頼を受けるのは良くないよね?
だったら、そんなに長居しても飽きちゃうから、他のダンジョンに行ってみたい!」
「ははは、まあそう言うと思った。
そうじゃな、風の季節に村を離れるんは、他所者との接触を避けるためじゃったが、別に3月で戻る必要もないんじゃな。
そうしたら ちと遠出にはなるが、いくつかの初級ダンジョンを巡ってみようか」
初級ダンジョンは 山だけじゃなく、遺跡のような物や、大木が入口になっているのもあるらしい。
大型、というか上級ダンジョンは、そこから得ることができる素材も魅力的で、沢山の冒険者が力試しに来るし、その素材を目的に商人も集まる。
結果、街が大きくなって栄えることになる。
ダンジョンによっては低層階に野菜、根菜、薬草が豊富にある為≪低層階に限り≫という制限が付くけれど 銅ランクが単身で入る事が出来るところもあるらしい。
ただ、一般的にランクが高いダンジョン程、中に生息している魔獣のランクも高く、銀ランク以上でないと入れないダンジョンも存在する。
中級ダンジョンでは半分くらい、上級以上は必ず 入口付近に管理小屋があり、門番によって入場規制されているんだって。
初級はその近くにある村が管理役となっているので、特に入場制限がある訳でもない。
ただ、アンナープ村でそうだったように、村に入る時に目的の確認はされるし、私みたいなちびっ子だったから、とても心配された、と言うのはある。
勿論アンナープも、ここ コベニアも、私が1人だったら絶対に許可はされていない。お父さんという保護者がいたからこそ、許可されたという事だ。
上級では 流石にお父さん一人では保護者だとしても無理だろうという事で、もしお父さんと二人で上級に行くのであれば、洗礼以降、銀ランクに上がってからだなと言われた。
「まあ、トンガたちが戻ってきたら、大人が3人以上いれば断られることはないからな、もし行きたいなら 息子らが戻ってきてから聞いてみるか」
まじで?
それは超嬉しいんですけど? 上級に行くのは 随分先のことになりそうだと諦めてたのに、思ったより早く行けそうじゃない?
まあ、トンガさん達が次 いつ帰ってくるのかは 全くの未定らしいけどね。
そういう事で、初級ダンジョン、人が少ない中級ダンジョンをいくつか寄ってから サマニア村に帰る予定が決定した。
距離が長いもしくは、広いと言う理由で中級ダンジョンになっているけど、ドロップアイテムがショボいところは人気がなく、やはり町というよりは村の管理となっているようなので、そういったダンジョンを目指していくことになった。
「お父さん、リズモーニ王国は 洞窟のダンジョンが多いの? それともダンジョンは皆同じ感じなの?」
「そうじゃな、リズモーニは国全体を山が覆っておるじゃろう?
この山々の上には ドラゴンが住んでいる場所もあるし、そうでない場所も高所になればかなり強力な魔獣が住んでおるんじゃ。
そのせいでなのか、それともそうだったからなのか、山の魔素は平地に比べて多い。
魔素が多いところには魔獣が現れやすい、じゃからダンジョンも山にできやすいのかもしれん。
他の大国では 古代遺跡だったところがダンジョン化したとか、滝の裏にできていたとか、巨木がいつの間にかダンジョン化していたっちゅうこともあるようじゃしな。
山がない場所では、やはり森の近くや、自然の近くで発生しておるのが多いと思うぞ」
そっかぁ、ということは、バベルの塔みたく、超高層塔を登っていくようなダンジョンはないのだろうか。あれはどう考えても自然ではないもんね。
「お父さん、ダンジョンは皆下りていくばっかりなの? 高い建物を登っていくようなダンジョンはないの?」
「ああ、上るダンジョンもあるぞ。この旅で行こうと思っとる初級ダンジョンのひとつが、確か上に上っていくダンジョンだった筈じゃ」
「え!じゃあ塔になってるの?」
「塔……? 見た目がっちゅうことか?
外から見たんは今までと変わらんぞ。あれも確か山肌に入口があった筈じゃ」
「じゃあ、階が上がれば狭くなっていく感じなのかな。山は上に行けば尖がってるもんね」
「ん? いや、狭くなるっちゅうことはないはずじゃが、どうじゃったかな。
普通のダンジョンは 階層が増えるごとに、複雑化、広大化していくもんじゃからな」
確かに、今までのダンジョンはそうだったよね。通路も一方通行になるところが増えたし、道も真っすぐだったのが うねる様になって先の見通しが悪くなったもん。
でも山の上だと場所がないよね。
「ん……?もしかして、ダンジョンの中が山の中にあると思っておるか?
ヴィオがダンジョンの入り口で 中が見えないと言うておったじゃろう?
ダンジョンは、別の空間にあると言われておるんじゃ。今まで行ったところは全部洞窟タイプのじゃったから、実際に掘っておると思ったかもしれんが、上級じゃと海がある、火山がある、雪山があるっちゅうところもあるからな。
階によって変わるくらいじゃ。入口が山にあるだけで、多分山の反対側から掘ってもダンジョンには到達できんぞ」
……なるほどね。
そりゃそうだ。最初にそう思ってたじゃんね。
確かに 塔タイプのダンジョンだって、あれが本当に塔としての建物だったら、各階ボスとしか戦えんし、超絶激しい戦闘で 壊れない訳がない。
下りの方が多いけど、上りのダンジョンもそれなりにあるらしい。
ダンジョンの謎、知れば知るほど楽しい。成人するまでにはリズモーニ王国のダンジョン、全踏破は無理でも、全確認はしたいね。
目標ノートに書いておこう!
想定以上の速さでダンジョン攻略が進んでいます。
だけど止めないお父さんw 予定より多めにダンジョンを回ることになりそうです