第111話 コニベア洞窟ダンジョン その5
パニックルームを開けた翌日は リポップしていた5階と6階の魔獣を討伐し、8階まで下りた。
8階は想像通り ハイコボルトとハイゴブリン、グレーウルフだけで、通路も長く、マッピングが無ければちょっと大変だったかもしれないと思った。
そして翌日の聖の日は2日間潜ったのでお休みの日。
週明けにはリポップ分があることを考えて、3日連続でダンジョンに入るからと、今日は本当にただの休日なのだ。
村娘スタイルの洋服を身に着けて、お父さんと村の中を散策する。
「あら、今日は随分可愛らしい格好だねぇ。ダンジョンはお休みかい?」
「うん、明日から3日間入るから 今日はお休みなの」
「そうかいそうかい、休日も大切だからね。ゆっくりするんだよ」
村の人たちは人見知りというのがないのだろうか。皆が気さくに話しかけてくれるので、それに応えながら、時々手をふり返して散策している。
私がちびっ子だからだろう、お菓子や果物をチョイチョイ渡される。
その度にありがとうと笑顔で言えば、頭をワシワシされるのだ。
村娘スタイルおそるべしである。
そんなマッタリした休日を終え、翌日は1~6階のリポップした魔獣を討伐し、明後日の為に9階の魔獣も討伐しておく。
今日中に倒しておけば 明後日 潜った時に9階はリポップしていない筈なので、安全に帰れると言う訳だ。
ちなみに9階は8階と同じ、上位種多めにノーマルが少し混ざっているという感じでした。
魔法を使う相手がいないので、特に危ないこともなく、5体が同時に襲って来た時にはひっくり返した壁の中に閉じ込めて攻撃するという技で乗り切った感じ。
ちなみに 9階は通常の冒険者ならボス戦に向けて一泊する為なのか お部屋エリアもあったよ。
ちなみにパニックルームではなく、宝箱もなかったのがちょっぴり残念だった。
火の日の今日は7階と8階のリポップ魔獣を討伐する。
こうも連日コボルト、ゴブリン、ウルフたちばかりを見ていると、作業的な動きになってしまって なんだか申し訳ない。
でも 森の魔獣のように、素材のアレコレを考えながら討伐しないでいいし、ドロップアイテムも拾うようなものではないから仕方がないと思うんだ。
森なら魔石を探すのに解体が必要だし、ウルフ系は毛皮が素材だから攻撃部位も考えながらだけど、ここならズバっと半分に切っても、首チョンパでも尻尾が出てくるだけなんだもん。
まあ、そんな討伐をしっかり終えたところでお宿に戻るので 今日は早めの帰還です。
「おや、今日は早いね。まだ夕食の準備が終わってないから 先にゆっくりお風呂に入っておいで」
「は~い」
お宿に戻ったら女将さんがお仕事中だったみたいで声をかけてくれた。まだ4の鐘が鳴る前だと言うから かなり早いよね。
いつもは夕方の5時ごろに戻るから1時間以上早く帰ってきたことになる。
夕食は6時頃なので、明日の為に短剣と、グローブ、鞭もお手入れしておこうかな。
ダンジョンだと解体ナイフの出番がないので こないだの休日以来 使ってないんだよね。
「グローブはもっと擦り切れたりするのかと思ったけど、これも丈夫だよね」
皮磨き用のクリームをつけて 専用の布で伸ばしながら磨いているんだけど、買ってもらった当初から あまりすり減った感じがしない。
手袋なんてこうやって武器を使う人じゃなくても普段使いで親指と人差し指の間とか、すり減るもんなのに、全然薄くならないんだよね。
「ヴィオは結界鎧を纏っとるからじゃないんか? あれは確か全身じゃったじゃろう? 手袋の部分も纏ってなかったか?」
お父さんに突っ込まれて、確かにと思う。
手首から蜘蛛の糸をピャーっと出すあのアメコミヒーローは、頭の先から手の先足先までの全身スーツでした。
作った本人よりも お父さんの方が覚えているというね。
「変わった鎧じゃったからなぁ、よう覚えとるぞ」
全身タイツで 上半身は白、胸元で黒い布に切り替えがあるスタイル。胸元に可愛く菫の花が入っていたのも細かいなと感心していたらしい。
目元だけが少し生地違いになっている割に 目が見えないというのもポイントだったらしい。
作った本人が忘れているっていうね。
うんうん、だからブーツも靴底が擦り減らないし、手袋も丈夫なんだね。
唯一マントだけが 旅の過程で裾とかに傷がついているのも納得です。ウーマン、マント着けてなかったし。
武器と防具のお手入れが終わったら バスタブにお湯を張っていく。
そう、今はお水を張って沸かすんじゃなくて、最初からお湯で出せるようになったんだよね。
まあシャワーの為に水玉を作れたからできるのは分かってたんだけど、なんとなくルーチンでお水からってなってたんだよ。
お父さんが入るには少しぬるいらしいので、追い炊きするためにも 沸かす魔術具は使ってるんだけどね。
お風呂上りにお父さんがドライで髪を乾かしてくれている。
普段は色変えの魔術具を両方使っているから茶髪に茶色い瞳だけど、こうしてお父さんと二人の時間は 元の色だ。
この色の髪をお手入れするのも お父さんは好きみたいで、とても丁寧にブラッシングしてくれるんだ。あまりの気持ちよさにウトウトしちゃうから 困っちゃうんだけど、今日は大分早く戻っているからお昼寝として 1時間ほど寝ればいいと言われたので、気持ちのよさを受け入れてそのまま眠る。
おやすみなさい……
夕食の時間に起こしてもらって、しっかり晩御飯を食べる。
今日はこないだ差し入れしたホーンラビット肉のシチューだった。3日かけて煮込んだらしいシチューは、お肉が柔らかくって、歯を立てなくても 舌と上顎だけで嚙み切れるくらいだった。
「お~いし~~~~。ホッペがとろけちゃう」
「あはは、ありがとうね。あんた~、ヴィオちゃんが美味しいってさ」
あまりの美味しさに叫んでしまったけど、女将さんが嬉しそうにキッチンに向かって叫んでいる。
旦那さんはシャイだから あまりお話はしてくれないんだけど、チラっとカウンター越しに顔を出して、ペコっと頭を下げてくれた。
こっちが頭下げないとですよ。マジで美味しすぎて口の中が幸せです。
お父さんもパンを何枚も食べるくらいに シチューを気に入ってて、味付けについて女将さんに聞いてたから、もしかしたら帰ってからもこの味が食べれるのかもしれないね。楽しみだ。