第109話 ダンジョン訓練の休暇日
6階層も問題なく乗り越えることは出来た。
索敵をしているから 通路の向こうにナニが何匹いるのかを分かっているというのは凄い優位性だと思う。
グレーウルフにも鞭での攻撃は有効だった。
【エアカッター】とかでは飛び上がるまで待つ必要があったのに、鞭は自在に動く分、ウルフの行動を待つことなく攻撃できるという利点が増した。
ただ、これはダンジョンだからこその攻撃であり、胴体部分で切断出来てしまう攻撃では、森の中では使えない。毛皮が真ん中で切り取られてしまえば 買い取り代金が半額以下になってしまうからね。
ちなみにノーマルコボルトは ダンジョン外では魔石くらいしか素材はないらしい。
討伐確認も魔石なのは、犬の種類によって尻尾が違うからという事らしい。
このダンジョン内では色が違うだけで、尻尾は似ているんだけどね。ああ、ちなみにこのダンジョン内では魔石は落ちない。
コボルトの咆哮で面倒だったのは、恐慌とかのデバフは効かないんだけど、その声のせいで 周囲の仲間が駆け寄ってくるという事があった。
通路が繋がっているところもあったので、横道から別のコボルトとゴブリンが駆け寄ってくると言うのはちょっと危険だったんだよね。
一瞬焦ったけど、正面と横道に土壁を作って塞ぎ、正面の敵から討伐するという方法に切り替えたので難を逃れた。討伐後、お父さんがすぐ後ろまで来てくれていた事を思えば、集団戦の危険性その1だったんだと思う。
横道から増援に来ていたコボルトたちは壁をドンドンと叩いていたけど、正面の敵を討伐した後、土壁を上半分だけ消し去り、見えている部分に鞭を振りぬけば そのまま4体の魔獣は身体が半分になってキラキラと消えて行った。
武器を使うような上位種だったら、土壁を崩してくることもあるようだけど、向こうが見えないのはそういう時に危険かもしれないね。
水の壁か 風の壁なら向こうが見える分安全かもしれない。壁のこちら側から攻撃が出来るのかも試してみたいね。
ということで、2日潜ったのでダンジョンはお休みとなった今日、村の傍にある森で訓練をすることになった。
「ダンジョンの休みなのに、今日も訓練するのかい?
随分熱心だねぇ。偶には美味しいものを食べるだけのお休みにしないのかい?」
お昼ご飯には帰ると言ったので、今日はお弁当を作ってもらわないんだけど、今日の予定を話したら 女将さんから呆れたような声が上がった。
「う~ん、お宿のお弁当もお夕飯も美味しいもの食べてるし、食べてばっかりだと太っちゃうでしょ?
運動も魔法も とっても楽しいもの。
私ね、大陸のダンジョンを全部回りたいの。それからね、強くなってドラゴンにも会いに行きたいの。
だから今は訓練が一番楽しいんだ」
お父さんは隣で声を殺して笑っているし、女将さんと旦那さんはポカンとした後に大爆笑だった。
皆ドラゴンに会いに行くっていうと子供の夢物語のようだと笑うんだよね。
でもさ、この世界にはドラゴンが本当にいるんだよ? パーティー名にする人も多いしさ、私はちょっとその厨二っぽい名前をつけることはないけど、冒険者は皆ドラゴンに憧れてるでしょ?
「そうかそうか、ドラゴンに会いに行くんじゃ 強くなるために訓練するのは当たり前だね。
まあ、伝説になるような人ってのは、こうやって小さい時から訓練を楽しんでやる人なのかもしれないね。ヴィオちゃんが伝説の人になった時には、うちで宿泊したことがあるって自慢させてもらうよ」
頭を撫でながらそういう女将さんに、自慢してくれて良いよと伝えておく。
まあ笑う大人たちも 馬鹿にした笑いではなくて、そんな夢物語を口にできる子供の素直な思いを懐かしんで笑うんだと言われたことがあるんだよね。
私が本当に5歳児だったらショックを受けるかもしれないけど、中身が大人だから そんなにショックは受けない。大リーガーで活躍する人や、サッカーのヨーロッパで活躍するような人は、大抵小学校や中学校の作文にその夢を書いているんだもん。
夢ノートというのを書いていると言うのも聞いたことがある。
だからこそ、私は言葉にして言うし、目標と計画もノートに書いている。
毎日のストレッチに魔力訓練も欠かさずやっているから、絶対に成長していると思っている。
ToDoリストは確実にチェックが埋まってきているからね。
まあ、埋まった分 新しいリストが増えるから 空白欄が無くなることはないんだけど、新しいリストを作るのも気付きだから楽しいんだよね。
そんな細かい事は お父さんとギルマスたち以外には言わないけどね。
楽しんでおいでと見送られて 村の門を出る。
この村も サマニア村と同じく辺境だけあって 森には素材も魔獣も沢山存在している。例に漏れずこの村の人達も皆戦える大人らしくマッチョが多い。
村の近くだと危険もあるので、ダンジョンよりもう少し離れた 徒歩で1時間くらいの森まで移動した。
森の中にはビッグピッグの反応もあるし、練習にはもってこいだと思う。
「お父さん、あのビッグピッグでやってみるね。木の上から行ってみる」
「わかった、周囲の警戒を忘れんようにな」
木の上からの攻撃時、目の前の敵に集中しすぎて 何度かヘビや蜘蛛の攻撃を食らったことがあるからね。結界鎧のお陰で 怪我ひとつせずに済んだけど、お父さんからしこたま怒られたのもいい思い出だ。
多分噛みつきが効かなかった私に苛ついたイエロースネークが巻き付き攻撃をしてきたんだけど、どれくらい結界鎧の効果があるのかを試したことを怒られたんだと思う。
締め付け自体は腕とか足とかを抑えつけられるので 行動阻害をされるという効果があったんだけど、鎧の分体に食い込んでくるという事はなかったんだよね。
ただ、圧迫感は有ったので、もう少し強力なヘビだったら 圧死する可能性はあると思った。
ただ、そうなる前に中から風の盾を作った事で 圧迫から逃げることが出来たので、もし万が一掴まっても生還できる可能性が分かった。
蔦を伸ばして樹の上に駆け登り、ビッグピッグの近くまで木の上を走って近付く。
一応索敵を全方向にしながら、地面の方には 兎やウルフがいるけど、木の上には今のところいない。
ピッグの上空でしばらく観察。
ブヒブヒ言いながら 土を掘り返しているので、昆虫などを探しているのだと思う。
そうしているうちに 上空から何者かが勢いよくこちらに向かっているのが分かった。
「ヴィオ上じゃ」
「うん、【アイビーネット】」
種類は不明だけど 鳥が向かって来ているので樹々の隙間を抜けようとしたところで蔦を絡めた網を展開して捕獲する。お父さんが魚を獲る時にやっていたアレだ。
直ぐにクルっと網を閉じて、鳥が再び羽ばたけないように閉じ込める。
「ギャー ギャー ギャー」
結構けたたましい声で鳴く鳥だ。
慌ててその首を【エアカッター】で落とすけど、その声は下にいたピッグにも聞こえており、振り返れば臨戦態勢でこちらを睨み上げていた。
まあ、盾の練習だから気付かれてもいいんだけど、ちょっと計算外でした。
とりあえず鳥はリュックに放り込み、木の上からピッグと向き合う。
周囲に他の魔獣は接近していないので大丈夫だろう。
高い位置にいる私を敵と見定めたピッグは苛立ち、木に体当たりをしながら振り落とそうとしてくる。
「【ウインドウォール】」
ピッグの周りに風の盾を作り出し、その風は中にいる敵を傷付けるように裏返しになっている。
突然現れた壁に体当たりをしたピッグは、壁に当たることで傷つくことを覚えたようでジッと上を睨みつけている。
円柱だから、上はよく見えているんだよね。
という事で一旦木の下に飛び降りて ピッグの正面に立つ。
獲物が下りてきた事で 再び壁に激突し始めるけど、壁は崩れない。
あまりやり過ぎられると ピッグに傷がつき過ぎちゃうので、早めに実験をしてしまおう。
「【ファイアボール】」
極小ファイアボールを壁の中に向かって唱える。
真っすぐに飛んで行った火の玉は、壁に遮られることなくピッグの眉間を貫いた。
ドォンと横倒しになる音が聞こえたので壁を取り除けば、狙い通りに眉間に黒く焼け焦げた穴が開いていた。
「お父さん、壁の向こうにも魔法はいけたみたい」
「これはヴィオが作った壁だったからじゃろうか。鞭でも攻撃が通るかやってみるか?」
ということで、音を聞いて近くに来ていたウルフとホーンラビット相手にやってみることにしたよ。
実験の結果、鞭も他の魔法も通りました。
ただ、お父さんが張った壁には私の攻撃が通らなかったので、やっぱり自分の作った壁だったから魔法が通ったのだろうという事になった。
最初に突撃してきた鳥はクロウバードと言うらしく、お肉は硬くて美味しくないという事なので、羽と小さな魔石だけ採集したよ。
森の中で捌いたビッグピッグ、ホーンラビットは お宿の女将さんにおすそ分け。夕飯と翌日のお弁当が肉祭りになったのは仕方がないと思う。




