第12話 ギルマスたちとの相談 その1
ギルマスとサブマスが入室したところで扉が閉められ、サブマスが何やら呟いたと思えば 部屋の中に魔力が満ちたような気がする。
色が見える訳でもないけど、さっきとは何かが違う。
多分 サブマスが何かしたんだろうけど、何をしたんだろう?
二人が平然としているから悪いことではないんだろうけど……。
「おやおや、本当に聡い子ですね。今 何かを感じたのでしょう?
貴女がどんな風に感じたのか教えてくれますか?」
先程の資料が広がったテーブル席に 向かい合うように座ったんだけど、この人は相手をジッと見る癖があるのだろうか、質問されているんだけど 答えなくても頭の中を覗かれているんじゃないかと思っちゃうんですが?
「えっと、サブマスさんが 何かつぶやいた後に、お部屋の中に魔力が満ちた感じがします。 でもそれがどういう効果があるのかわかりません。」
「へぇ、凄いな。一部の獣人やエルフなんかは 小さい時から魔力感知能力が高いとは言われてるけど、人族の子供で 魔力感知能力が高いのは珍しいぞ。」
「あぁ、もしかしたらヴィオの母親の影響かもしれんな。
その辺りも含めて、二人にもヴィオの事を相談しておこうと思ったんじゃ。
まずはこれを見てくれ。」
サブマスさんの質問に素直に答えれば、ギルマスが感心したように褒めてくれて、お父さんが二人を呼んだ理由を説明した。
二人の手元に見えるように置いたのは、さっき出来上がったばかりの私のギルドカードだ。
ギルマスが カードをくるりと裏返し、固まってしまった。
ひょいと手元を覗き込んだサブマスは「これはこれは」と嬉しそうに笑っている。
「あぁヴィオさん、先ほど感じた魔力に関してですが、私の風魔法を使って この部屋に防音結界を張ったんですよ。
ヴィオさんは風も得意属性ですからね、練習すれば使えるようになりますよ。」
ご機嫌なサブマスが教えてくれたのは、部屋に感じた魔力の原因だった。
防音結界ね。
秘密のお話をするときには必須のやつだね。
魔術具にしかないと思ってたけど、魔法でも使えるんだね。
「サブマスさん、防音結界があるんだったら 普通の結界もあるの?敵から攻撃された時に盾のかわりになるようなやつ。」
結界と言えば防御結界だよね。
野営の時とか、冒険者必須じゃない?
「ふふふ。アルクさんの実の娘ではないでしょうに、冒険者に憧れているようですね。
えぇ、もちろん防御結界もありますよ。
それぞれの属性で、壁になるようなものでしょうか。最も強いのは土属性で作るアースウォールでしょうが、私の風魔法で作る壁は、物理攻撃であれば跳ね返す事もできるのですよ。」
想像している結界とはちょっと違うけど、盾のかわりになる魔法はあるようだ。
アースウォールって土壁だよね。
ゲームとかでもよく見るやつだね。
跳ね返す壁ってことは、サブマスの風の盾は風が渦巻いている感じなのかな?今度見せてもらいたいね。
「いや、いやいやいや、ちょっと待て、何を長閑に魔法談義で楽しんでいる。
お前もちょっとは驚けよ。
5歳の 、人族で 、全属性だぞ?
聖だけでも珍しいのに、闇と両方持ってるんだぞ?しかも、両方得意属性になるレベルの!」
固まっていたギルマスさんが再始動したようだ。
隣で風魔法と水魔法の便利さを 楽しそうに教えてくれてたサブマスに詰め寄っています。
「お父さん、私のお母さんは聖属性を持ってたらしいんだけど、闇は持っている人は居ないものなの?私おかしいのかなぁ?」
「いや、おかしくは無いぞ。
……ただ、大分珍しいなぁ。
確か闇属性は隣の王国で持ってる人間がいるって聞いたことはあるんじゃが、やっぱり少ないらしいし、聖属性は回復が使えるから教会が囲い込むことが多いからなぁ。市井にいることは少ないじゃろうな。
ヴィオの母ちゃんは、もしかしたらその聖属性を狙われてたんかもしれんなぁ。」
私からすれば、転生チートなのだろう。くらいの感じだけど、この世界では異質な扱いになるのだろうか。だとしたら隠蔽必須だし、得意属性をいくつか絞っておくほうが良いかもしれない。
「あぁ、闇属性はメネクセス王国でも 王家に近い血筋の者には得意属性として持つものが居る、とか言われているな。
勿論冒険者の中には 王族に関係なく持っている奴もいるけど、得意属性というほどの者はいないだろう。
聖属性を得意属性とする者は神国に多くいると言われている。
他の国でも見つかった時点で 教会か国に保護されることが多いから、冒険者になってるやつは滅多にいない。居たとしても国や教会のかたっ苦しいのが嫌で逃げて来たような奴らだな。
まあ後は、闇を持つ者は聖が現れにくく、聖を持つ者には闇が現れにくい。と言われるほど二つの属性を同時に持つ者は珍しいだろうな。
過去に勇者と言われた方は全属性だったらしいが、おとぎ話のようなもんだから真偽は分からん。」
お父さんの話を聞いて、漸くギルマスが正気に戻ったようだ。
しかし王族と教会ねぇ。
私のラノベ調べによると、貴族の子女として産まれた場合は、絶対に味方にしておくべき場所だし、平民として産まれた場合は近づくな危険!の相手として描かれることが多いよね。
私は平民の子として産まれてるわけだから 近づかないの一択になる訳ですけれども。
「ヴィオさんの母君は 聖属性持ちの冒険者だったのですか?」
考え込んでいれば、サブマスが覗き込んで聞いてくる。
私が小さいから仕方がないんだけど、イケメンの成人がテーブルに頬を押し付けて覗き込んでくるのはいかがなものかと思いますよ?
横を見れば ギルマスが “なんだコイツ” みたいな顔になってますし……。
「そうみたい…です。回復魔法が得意な冒険者だった!って言ってたから。
一緒に居た時はお薬を作って、それを立ち寄った町で売ってました。
最後の街ではお店に住んでたので、お庭で薬草を育ててたから、木魔法も使ってたのかも。
魔法の練習は、魔力をネリネリすること、体の中で魔力を動かすこと、魔力を感じる練習をずっとしてたから、魔法を使ったことは無いの。」
「あぁ、ギルドで売って移動費用を稼ぎながら行動しておったんか。」
「そう言えば母親は居ないんだったか?」
「素晴らしい基礎練習ですね。」
やっぱりサブマスさんはずれている気がする。
魔法が好きなんだろうことは良く分かるけど、隣でギルマスの顔がどんどん崩れちゃうから……。