第99話 アンナープ村
1日目は街道から少しそれた 森の入り口に近い場所で野営をした。
この野営は最近やってた野営と同じ感じだったので 、二人で直ぐに準備を整えて 翌日の早朝からまたしっかり歩くことが出来た。
第一休憩場となっている広場についたのは 2日目のまだ明るい時間だった。
だけど、ここから更に歩いてしまうと また何もない場所でテントを張ることになるから 出来ればこうした休憩場で休むことにしようという事になった。
「ただし、人が多く使う街道の場合は ヴィオの姿を見て 良からぬ考えを持つ者がおる可能性があるからな。そういう道では 街道を使わず森を歩く。森での野営は既に練習しておるから大丈夫じゃな?」
「うん、こんなに周りに何もないところでテントする方がドキドキするね。
お父さん、いつもは蔓でテントを吊ってたけど、今日はどうするの?」
よく考えれば お父さんのテント準備は蔦でテントを吊り上げるところから始まっていた。
この場所は地面を平らにする必要はないし、結界を張る必要もないようだけど、逆に蔓も木もない。
「ああ、ちょっと待っとれ【アースポール】」
地面に手をついたと思えば ニョキニョキと物干し竿のようなコの字型のポールが出来上がった。
そこにひょいとロープを引っかけたと思えば テントを吊り下げていくお父さん。
……絶対これって初心者のテント張りじゃないと思うけど。
お父さんも大概チートだと思うんだよね。
まあ、便利だからいいか。
森と変わらず 蔦が手持ちのロープになったくらいで、見慣れたテントが出来上がる。
私も中に入って毛布の準備、焚火をするための場所も確保されていて、簡易BBQ場みたいだ。
石組と 鉄の棒が何本かあるだけの簡易な火台だけど、鍋も置けるし、大きな肉だったらそのまま焼ける。
ここに来るまでに拾っておいた木の枝を 枝置き場っぽい場所に置き、かわりに乾いている枝を火台に入れる。休憩場は こうした屋根付きの枝置き場や 火台が設置されていて、魔獣除けの魔術具も四方に設置されている。
使った薪は、新しい枝などを補充しておけば、次に使う人が来る時には乾いていて使えるようになっているという事らしい。
とても人道的というか、これを考えたのも勇者なんだろうな とか、だとしたら絶対日本人だったんだろうなって思ってしまう。
ルールではなく マナーの話だからね。守ってくれたら過ごしやすいけど、守らなくても罰則はないから、そうしない人だっていると思うもん。
それでも人の善性を信じているあたりが 道徳を大切にするように育てられた平和大国 日本出身者って気がする。
休憩場ところか、街道で私達以外の人に会うことはなく、森から魔獣が出てくるなんてこともなく、休憩地の周辺で薬草採収をした以外に変わったことは起こらないまま 3泊4日の徒歩旅は終了し、アンナープ村に到着した。
街道の終わりに塀が見え、あれがアンナープ村だと言われた。
サマニア村と同じくらいの大きさかな? ダンジョンの村だからもっと大きいと思ったけど、そうでもない?
「親子連れとは珍しいな、何の用だ?」
サマニア村と同じように、塀のところには男性が一人立っていた。武装と言っても槍を持っているくらいで軽装だ。
ここは「アンナープ村へようこそ」とかじゃないんだね。怒っているとかではないけど、本気で 何しに来たんだ?って不思議顔だ。
「アンナープ街道洞窟に入るのに来たんじゃ、今日は村で一泊して 明日から潜る予定じゃ」
「は? 子供は留守番させんのか?」
「ううん、私が入るの。お父さんは付き添いだよ」
「は? チビが? 洞窟って言ってるけど、ダンジョンだぞ? 魔獣が出るぞ? 危ないぞ?」
お父さんがギルドタグを見せて 目的を告げたんだけど、勘違いしているようだから 私が入るのだと告げたら 更に混乱してしまったようだ。
膝をついて 私と目を合わせながら 危ないぞと言ってくれる辺り この人は良い人なんだと思う。
「あのね、私小さいけど銅ランクの冒険者なの。無理はしないようにお父さんが一緒に来てくれているの。心配してくれてありがとう」
胸元からギルドタグを取り出して おじさんに見せる。
ちょっと寄り目になってるけど、見えてる?
おじさんの目の前で揺れる銅色のギルドタグ、それを恐る恐る右手で抑えてじっくり見たおじさんは、タグ、私、お父さんの順に目を向けて、お父さんの頷きを見て納得したようだ。
「ちっこいから子供だと思ったけど、ドワーフだったか。じゃあ大丈夫だな。
まあここのダンジョンは 初級ダンジョンだから 余程無茶しなけりゃ大丈夫だろう。
こないだもトカゲ獣人の親子がゆっくり過ごしてたしな。訓練頑張れよ!」
「ああ、じゃあ入らせてもらうぞ」
え?え?私ドワーフじゃないけど?
でもお父さんも否定しないし、おじさんも なんだかそれで納得しているからいいのか?
まあ下手に人族5歳の幼児だと思えば 心配されて大変かもしれないから ここではそれで行こう。
認めた訳じゃないし、嘘はついてないからね。
おじさんと別れて まずは今夜のお宿を探す。
ケーテさん達から聞いていたお宿にするらしく、お父さんの足に迷いはない。
〖止まり木亭〗と書かれたお店用の看板がある宿は 小さな鳥と草花の絵が壁に書かれたとても可愛い宿だった。
カラ~ン カラ~ン
「は~い、いらっしゃいませぇ」
ドアを開ければ ドアについていたベルが鳴る。
奥から出てきたのはフワフワの茶髪をひとまとめにした可愛らしいリス獣人のお姉さん。
「あらぁ、可愛らしいお嬢さんだわぁ、それに熊獣人さんの組み合わせという事は、あなた達がテーアさん達が言ってた親子かしら?」
「ああ、多分そうじゃ。明日からダンジョンに数日かけて入る予定にしておる。
数日厄介になるつもりじゃ」
「ええ、ええ、聞いているわ。2階の右側のお部屋を使ってね。ダンジョンに泊る予定はないのかしら?
泊る前日に言ってくれたらお弁当も多めに作りますからね。
明日からの分はお昼のお弁当だけで良いかしら?」
「えっ?お弁当作ってくれるのですか?」
お父さんとお姉さんのやり取りを静かに聞いてたんだけど、まさかのお弁当発言に突っ込んでしまった。
そんなサービスあるの?荷物少なくてすんじゃうね。
「うふふ、そうなの。ここのダンジョンは初心者ダンジョンだからね。貴女のような小さな子は流石に珍しいけれど、銅ランクになったばかりの子が 最初に挑戦することが多いの。
ランクが低い子達は マジックバッグなんて持っていないでしょう?
だからと言って何も持たずに入るのも危険だから こうしてお宿で準備をするのもサービスなのよ」
なんと!凄いね。
ランチ代はちゃんと宿代に入っているらしいので、お弁当をもらわない方が損なんだって。
初心者ダンジョンはリズモーニ王国にいくつかあるらしいんだけど、こんなサービスをしているのは珍しいらしい。
だからこそ、テーアさんたちも お父さんも、この村のダンジョンから始めようと思ったらしい。
特訓はスパルタだけど、そういうところがお父さんの凄いところだよね。至れり尽くせりで エリート冒険者街道を突っ走らせてもらえている感じですよ。
お部屋に入ってから お父さんにドワーフ疑いに関して謝られたけど、変に心配される方が困るから気にしてないと言ったら笑ってた。
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