第98話 出発
「さて、では今日から目指すのは 〖アンナープ〗っちゅう村じゃ。
メリテントの街とは違って、山沿いに東に向かって歩いていくぞ。馬車じゃと1日くらいで行けるが あの村に向けて出ておる馬車はないから 歩いていくことになる。
4日くらいを目標で 途中で野営も挟む、大丈夫か?」
「うん、街道を通った先の 洞窟ダンジョンが目的地だよね。大丈夫!」
地図は何度も資料室で確認した。
強化魔法を使わなければ 流石に4日も歩くのは大変だけど、強化魔法と結界鎧は丸一日かけていても負担にならなくなっている。
これは消費魔力が減っているからなのか、それとも私の総魔力量が増えているのか。
水晶ピカーをしないから分かる時は来ないけどね。
私はリュックタイプにしてもらったマジックバッグを背負い、鞭のベルトを身に着ける。
短剣は ダンジョンに入るまでは封印で、解体ナイフと一緒に マジックバッグに入っている。
慣れない徒歩の旅だから、出来るだけ身軽な方がいいと言われたんだよね。街道での敵とのエンカウントがあった時には 〈ボール系〉の魔法でのみ対応するようにとも言われている。
ついでに人がいるところでは 呪文は仕方がないとしても、トリガーだけは唱えるようにとも言われているので、気を付けないとね。
朝ごはんを食べたら、家の中には 食材が一切ない状態になった。
そうするように準備していたから当り前なんだけどね。
しっかり玄関に鍵をして、忘れ物がないかのチェックもして、いよいよ大冒険の始まりである。
東門のお兄さんに手を振って、サマニア村から離れる。
はじめて野営をした 初心者の森より手前で 右に曲がり、山を左手に歩き続ける。
多分お父さんが冒険者で移動していた時は、もっと早いスピードだったとは思うけど、いかんせん私の足は物理的に短いのだ。
強化魔法などのドーピングをしているから、色々5歳児にしては限界突破しているけど、物理的な足の長さというのはどうにもならない。
「お父さんはお散歩くらいの早さになっちゃうけど 予定より遅くなっちゃう? 走った方がいい?」
「いや、ヴィオが普通に歩ける今の速さで計算しての4日じゃから、このペースで充分じゃ。
移動中は 歩くだけが目的じゃない。突然魔獣が街道に出てくることもある。
その時に体力が減り過ぎてたら 何もできずにやられるだけじゃ。
無理はせず、自分の体力、魔力の残量を確認するんも大切じゃぞ」
私の考えなんてお見通しですね。
江戸時代の人たちもそうだけど、車などの便利な乗り物がない時代の人たちは健脚だよね。
現役の冒険者だったら 2日で到着できる距離だって。
今の速度なら 私もそんなにしんどい訳じゃない。お喋りもしようと思えば出来るくらいの早さだからね。
サマニア村もすっかり見えなくなるころには、森も一旦途切れ、山を左手に見つつ街道を歩くだけとなった。整備された道というほどではないけれど、一定間隔で電柱のように魔獣除けのポールが立っているので 方向はあっている事が分かる。
「ヴィオ、こうして立っとる魔獣除けは この部分に魔力を流せば 魔力を貯めることが出来るんじゃ。
こうして道を通る冒険者の魔力に余裕があれば 時々 魔力を流してやればええぞ」
地面から1メートルくらいの高さの部分に 模様が彫られている部分がある。柱全体の中で 素材が違うその部分にお父さんは掌を当てて 魔力を流しているようだ。
この魔獣除けの魔道具は、大昔にいた勇者が考えた道具らしい。
どうやらギルドカードを作る機械も勇者作らしくて、今も便利に使われている色々な魔道具は 勇者が現れた後に 一気に広がったんだって。
強いだけじゃなくて、知識も豊富でって、それだけ聞くと転生者だったんじゃないって思っちゃうよね。
リアルに俺TUEEEE!をしていたんじゃなかろうか。
今はどこかに隠居しているという勇者とパーティーを組んでいたらしいエルフさんに会うことが出来た時には、勇者の話を聞いてみたいものである。
柱の間隔はそれなりに空いていて、次の柱が見えないくらいの距離はある。
頻回に使われる街道、メリテントの街と領主様の街とか、そういう道はもう少し間隔が狭いみたいだけど、滅多に人が使わないこの道なんかは これくらいなんだって。
「それでもアンナープは初心者ダンジョンがあるからな、それなりに通るからこれだけ魔道具が設置されておるんじゃ。
もっと行く人が少ない場所じゃと 魔道具も村の周辺に設置しておるくらいじゃ」
そうか、確かに。人が行く理由がないなら 魔道具に魔力を入れる人もいないだろうし、意味がなくなるよね。これから行くダンジョンは、ケーテさんが最初に行った場所だ。
1階にはスライムしかいなかったって言ってたからね。
今世で初スライムだよ。楽しみだね!
次に柱が見えた時には私が魔力を入れて、その次はお父さんが入れた。
3本目を越えたところで休憩時間にするようだ。
「ヴィオ、足はどうじゃ? ペースが落ちんから ここまで来てしもうたが 大丈夫か?」
お父さんの中では もう少し手前で休憩する予定だったらしい。
武術訓練でも4周出来るようになってたことを思えば、歩いているだけだと全く疲れてはいない。
「疲れてはないけど、お腹は空いてきたかも」
「そうじゃろうな。ここらで一旦昼にしようか」
馬車を休ませるための 休憩場は 大人の足で1日分歩くくらいの距離で作られることが多いみたい。
勿論1日というのは 24時間という訳ではなく、朝の6時くらいから行動して、昼の3時くらいにテントの準備をし始めるという9時間である。その間に2時間ほどは昼食やトイレ休憩も入れることを思えば、実働7時間で移動できる距離という事だ。
馬車だけ単体だと1日で動けても、護衛を冒険者に依頼するとなれば 護衛は馬車の周囲を警戒しながら徒歩となるらしい。
荷車に一緒に乗ると思ってびっくりしたんだけど「荷物が大切なのに、人が乗ったら荷物を載せられなくなるだろう?」という事らしい。
なので、警戒しながら歩くという事でこの街道では2日間の旅程となるのが想定されており、2か所程大きな広場があるらしい。
私たちは4日で行くから 今日は街道の途中で野営をし、2日目の夜に一つ目の休憩地点に到着する予定なのだ。
昼食は家で作ってきた卵のサンドイッチと お茶だ。紅茶とは違うような気がするけど、お茶の葉をお鍋で煮だして作っているので、このお茶の葉の元がどんな葉っぱか知らない。
お茶は 水筒に入れてきた分と 大量に作ったものを茶葉だけ捨てて 鍋ごと鞄に入れている。テントの中で水筒に入れ替える予定だ。
お父さんは卵のサンドイッチと お肉のサンドイッチを2つ食べている。
私が1つ食べ終えた時には 3つが消えているから、すごい早いのだ。
食後は次の休憩地の近くに生えている薬草の話を聞いて、採取の仕方を再度確認しておく。20分くらいの休憩をしたら再出発だ。
「おお、あの魔法はやっぱりすごいな。疲れてないと思っておったのに、あれを受けたら足に羽が生えたくらいに軽いぞ」
「ふふっ、久しぶりにやったけど 上手に出来て良かった」
20分もゆっくりできたからね、お父さんと二人で久しぶりにリフレ魔法を足にかけたのだ。
温かい水の玉がブルブル震えながらマッサージをしてくれるのは、たまらなく気持ちが良かった。
私の足も超軽くなっている。まだまだ歩けるよ!
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