第95話 初めての野営 後半
本日は2話同時投稿しております
こちらは 2/2 作目です。
魚を持ってテントに戻れば 捌いていくよ!と思ったら、その前にやることがあったらしい。
「さて、拠点を作ってから 更に採集をしたり、周辺の散策をするのが通常じゃが、今回は来たことのある森じゃし、野営をするという事が目的じゃからな。
夜営の時には この〈魔獣除けの香〉を使う。
これはタイプがあってな、儂は結界をはるからこの粉になっているものを火にくべるが、交代要員がおるパーティーじゃと 棒になっとるのを使うことが多い。
街道の野営地は道の途中にある魔獣除けの魔道具が使われておるから、香は使わん」
そう言いながらお父さんが取り出したのは 袋に入った 葉っぱの砕いたもの?葉と木くずみたいなのが混ざってて、お焼香みたいに見える。
それを二摘まみ程 焚火に入れたら、少し爽やかな香りが当たりに漂う。
「これ、直ぐに消えちゃわないの?」
「火の中でゆっくり燃えていくから 大体2時間ほどで香の効果は切れるな。じゃが、結界の魔道具があるから 今みたいに テントの外で何かをするときに 焚いとくと安心じゃな」
結界の魔道具は出来るだけ必要最低限の範囲にするらしく、焚火エリアなどは含まれない。
だからこそ こうした夕食準備の時などは魔獣除けをしておいた方が良いらしい。
そんな説明を受けながら お鍋セットを分解し、深い鍋には水を入れて沸かす。
まな板とか持ってきてなかったけど、お父さんが 土魔法で台を作り【クリーン】をかけたら調理台が完成した。
包丁ではなく 解体用ナイフを使うのは、できるだけ荷物を減らすため。
二人で魚の腹を捌いて 内臓を取り出し、軽く洗って塩を振る。
少し大きめの魚は魔魚だったらしく、小さな魔石があったようだ。
特に素材となるような魚ではなかったようなので 三枚おろしにして、浅めの鍋にバターを1欠片、お魚を並べて焼いていく。
家の台所は高すぎるから 下拵えしか出来ないけど、ここは自分たちで使えるように土魔法で作った台だし、コンロのかわりに焚火だから 私も調理に参加出来て嬉しい。
お野菜たっぷりのミルクスープに、塩焼きの魚、バターソテーされた魔魚、それから持ってきたパン。
「お父さん、野営って 干し肉とかを齧ってるんだと思ってた。
こんなにお料理するんだね。びっくりだよ」
「あ~、まあそうじゃな、普通は干し肉を齧るのかもしれんな……」
珍しく言いよどんだお父さんが ポリポリと頬をかいている。
どうやらこれはスタンダードではないらしい。
いや、銀ランクの上級だったお父さんのスタンダードではあったらしいけど、初心者はこんな余裕はないらしい。そもそも料理を作れるような人が少ないんだって。
「儂は干し肉だけを食べるんが嫌でな。料理は母親から教えてもらって、旅先でも美味いもんを食べてはそれを真似できるか 何度も練習しとったんじゃ。
お陰で料理の腕は上がったし、ちゃんと食うことで ダンジョンでもスピードが落ちることはなかったんじゃ」
どうやら冒険者たちの食事情は最低限の栄養というか 動けるだけのパワー補給が出来ればいい。というレベルらしく、何日も潜るダンジョンでは 荷物の嵩を減らすために 干し肉が当り前らしい。
勿論そうなってくると飽きるし、テンションも下がる。(普通に栄養不足だと思うけど)攻略スピードも下がるし、皆の限界が来そうになると地上に戻る。って感じらしい。
お父さんはそれは無理だったようで、マジックバックの容量が許す限りは食材を持って動いてたんだって。まあ食べれば減るし?パーティーだったから、獲物の素材は仲間が保管してくれれば良い訳だし?
美味しいものを食べて 元気を毎回充電できるお父さんたちはダンジョン攻略が凄く得意だったんだって。お水が足りなくなって 地上に上がる事になってたようだけど、水生成魔法がある今だったら もっと長く潜れるのかもだよね。
干し肉を食べたことがないから分からないけど、ジャーキーみたいなものだろうか。
たまに食べるのは美味しいだろうけど、毎日毎食となれば嫌である。それなら荷物のやりくり頑張って 料理したいよね。
「お父さん、私も美味しいご飯が食べられる冒険者になりたい。私の鞄は時間が止まってるし、お野菜も ある程度加工してから収納したら もっと嵩が減るよね。銀ランクになった後の上級ダンジョンは いっぱい準備してから行こうね!」
冒険者の初心者である今は危険でも、銀ランクになってある程度上級ダンジョンにも入れるような実力がついたころなら、このマジックバックを使いやすいだろう。
その時には 中身の整理も多少必要だけど、ガンガン活用したい。
そんな事を宣言すれば、お父さんも笑いながらそうしようと言ってくれた。
夕食も食べ、お風呂は無理だけど クリーン浴はする。
お父さんはその辺で平気だけど、私はちょっと離れたところで はじめてのお外トイレだ。
クリーンがあるから別に問題ないんだけど、やっぱり個室がないところで脱ぐというのが恥ずかしいけど、ダンジョンなんかだと それこそ仲間に背中を向けてもらっている中する必要がある場所もあるらしい。
確かに危険がある場所で、ちょっとそこまで。なんて離れて罠にかかって死亡とか笑えないもんね。
冒険者装備の必須でもあるマントは、そういう時にお尻を隠す為でもあると聞いて 凄い実用性なんだなと思った次第である。
歯磨きも終え、冒険者装備はそのままに、短剣だけは外してマジックバックに入れる。鞭はベルトにしているからそのままだ。
お父さんは武器を持ってきていないので それこそ普段着にマントだけしている感じである。
焚火の火を消したら 辺りは真っ暗だ。
テントの入り口にある結界の魔道具にお父さんが魔力を流せば、キーンという小さな音がして テントの周りに薄っすら膜が張られたのが分かる。
そっと指を伸ばせば 膜に阻まれることなく、スッと 何もないかのように指が通り抜ける。
「ん?」
「どうした?」
「いや、結界が張られたから 中からも出られないのかと思ったけど、普通に指が通り抜けてびっくりしたの」
「ああ、中からは逃げ出せんと危険な事もあるからな。外からは入れんが 中からは出られるぞ」
例えば 街道の野営地なんかで 大きな結界を張った時、中に居る人たちの中に 盗賊や強盗が潜んでいたら 誰も逃げることが出来なくなる。
だから中から逃げ出すことは出来るらしい。
「じゃあ、結界張ってから トイレとかで外に出て行ったら 戻って来れないね」
「はっはっは、確かにそうじゃな。 普通結界を張った後は もう動かんからそんな事を考えたことはなかったが、気を付けんといかんな。
魔道具屋には売る時に注意事項で伝えるように言うておこう」
人数が多いときは交代で見張りをするから そもそも結界を張らないことが多いらしい。
もし張るなら 4支点にして 広めに結界を張るから、結界内でトイレも済ますらしい。
見張りが一人なら 確かに誰も見てないんだもん、そこでシャシャっと出して クリーンしちゃえばいいんだもんね。
夜中にトイレに行きたくならないように、水分を控えめにしておいて良かった。
テントの中は入口を閉めたらとても温かい。
マントを毛布がわりにするけど、お父さんが腕枕をしてくれるので 天然の毛皮の毛布がくっついている感じで更に温かい。
夜営の注意事項をもっと聞きたいのに、お父さんのトクントクンという心音と、体温の温かさに瞼がどんどん重くなる。
ああ、今日は魔力操作のトレーニングもしてないのに。
「おやすみ ヴィオ、安心して眠ればええ」
トントンと背中をされたら抗う事などできない。おやすみと言えたのかもわからないまま眠りの世界に落ちてしまった。
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