第94話 初めての野営 前半
本日は 2話 同時投稿しております
こちらは 1/2 作目です。
討伐依頼を受ける木の日、今日は はじめての野営という事で 少し早めの昼食をとってから出発だ。
はじめてなので、今日の討伐依頼は 最初に行った初心者の森を使う。
まだホーンラビットたちの成長が足りないので 狩りはしないけど、今日の目的は野営をすることだからね。
森に到着したら 薬草類の採集をし、拠点とするのに適した場所を探す。
「ヴィオ、この辺りじゃな。ここが他より良い理由はわかるか?」
森の外で野営をするかと思ったけど、それじゃあこの弱い魔獣しか出ない場所で練習する意味がないという事で 森の中だ。
お父さんが選んだ場所は 森に入って少し歩いた場所。
川と森の入り口の中間地点という感じだ。
樹々の手入れをされているので、他の森よりも鬱蒼としていないし、樹々の間隔もあいている。
かといって、この場所が特別開けている訳ではなく、空が見える訳でもない。
森にある休憩所って、川の近くで、広場になってて、見晴らしが良い場所(火事になりにくい場所)って思ってたけど、それには当てはまらない。
「ん~、川までは遠くないけど 近くもないよね。
他に比べれば太い木が纏まって生えてるから もたれやすい?
火をおこしやすいかどうかだとしたら、他と変わらないと思う。空も見えないし」
考えても分からなくて 現時点で分かりうる答えを述べる。
うんうんと頷いているけど、多分違うんだね?
「この場所の川では然程問題はないが、川は森に住む魔獣も水を飲みに来る。そして川の魔魚もおる。
雨が降れば増水することもあるから、川から近い場所は野営地としては選ばん。
空が見える場所では 煙が出て 盗賊が目印にすることもある。それに空を飛ぶ魔鳥などから狙われる可能性もある。
1人の時は 太い木の枝の上で休むこともあるが、その場所も枝葉で隠れることが出来るのが望ましい。
最後に太い木に凭れやすいというのが一番近いな。これだけ太い木があれば、背後の心配を減らすことが出来る。
四方八方を常に警戒するのは大変じゃからな。岩場じゃと洞窟がええのもそれが理由じゃ。
勿論洞窟の場合は出る時に注意が必要じゃからな」
川の水は 旅人も魔獣も 使いに来るから、近すぎるのは危険って事なんだね。
街道だと 町と町の間に 休憩スポットが用意されていて、魔物除けの魔道具が仕込まれているようだ。譲り合って使用する必要はあるけど、絶対ではないけど かなり安全な野営をすることが出来るみたいだ。
人数が多ければもっと拓けた場所に野営地を作り、交代で夜間の見張りをするのだそうだ。
ソロやコンビの場合は 結界の魔道具を使って、魔獣除けの香を焚いて過ごすようで、私が見張りをするのは余計な者を引き付けるだけなので、ソロと同じ行動をすると言われた。
母との旅では 使っていたのだろうか?あまり記憶にない。
森の中で 母のマントに包まれて眠った記憶はあるけど、それがどんな場所だったのかとか覚えていない。
場所の確認が出来たところでテントの設置だ。
私が知ってるテント準備とは全く違ったので、記憶は役に立たない。
「木々があれば 蔓で屋根となる支点を2か所~4か所結べばええ」
「地面は大抵ボコボコしておるからな、土魔法で平らにしておけば楽じゃ」
「心配な時は テントの周りに 土壁を作ってもええ」
「結界の魔道具は 3~4か所に刺して使うが 今夜は背後が大木じゃから 3点でええ。
起動するのは寝る前じゃな」
冒険者としてのお父さんは、結構規格外だったのではないか疑惑。簡単に木魔法と土魔法で拠点を整えていくんですが、全くカンカンとか、コンコンとかしていないんですけど?
テントは吊り下げられた感じなので、支柱はない。だからこそ中が広い。
毛布のようなものは 薄かったのに、ギュッと中綿が詰まっていたのか、座れば絨毯みたいで地面の硬さが気にならない。
しかも地面も平らだから余計にね。
テントの準備が出来たところで 夕食の準備だ。
二人で川まで行って食材を獲りに行く。まだホーンラビットの肉はあるし、何ならここでも狩れるけど 現地調達できる力を付けるのも大切だからね。
来月から旬になるという美味しいお魚は レッドトラウトというらしい。鮭みたいなものかな?
あまり魚の名前に詳しくなかったけど、トラウトって名前はあった気がするけど 鮭はサーモンだし、どんな魚か分からない。
まあ、ここにいるレッドトラウトとやらは 真っ赤な鱗で2メートル近い大きさだっていうから 違う魚だと思う。
日本の2メートルの魚なんて マグロくらいしか覚えがない。
しかも噛みついてくるらしいし、魔法も使うっていうから 恐ろしいよね。
ちなみにこの魚も上位種がいるらしくて、それを狙って冒険者たちが来るんだって。
ゴールデントラウトという名の通り、赤い鱗は黄色くなり、光の加減で金色に見えるからその名前がついているらしい。
冒険者の中では 1匹吊り上げたら凄い高値で販売できるから。という理由もあるみたいだけどね。
何故か上位種になると体が半分くらいの大きさになるようで、水と風の魔法を使うし すばしっこさが上がるから、本当に捕まえるのが大変なんだって。
今日釣りたいのは そんな恐ろしい魔魚ではない。
この川には レッドトラウトのような魔魚もいるけど、大人しい魔魚も、普通の魚もいる。
レッドトラウトたちが産卵のために川の上流に戻ってくるときは 彼らの食料になってしまったり、川の深部や岩の隙間などに隠れてしまうみたいだけど、今はまだ時期ではないから大丈夫。
「釣り糸と竿でゆっくり釣りをするんは 家の裏でやればええ。魔獣の危険性がある場所では 出来るだけ素早く採集して安全地帯に戻るのが鉄則じゃ」
釣りの練習していないけど ここでやるのかと思いきや、そんな事はありませんでした。
そりゃそうだ。
で、お父さんが釣りをするのかと思えば、蔦魔法で網を作って川に放り投げ、手に残している蔦に魔力を流して 網を袋状にし、一本釣りのように釣り上げた。
ブ~ンと振り上げられた網の中にはビチビチ跳ねる魚たちが数匹。
ここまでにかかった時間はわずか1分。
蔦を網にするのに10秒、投げるのに5秒、片側を袋状にするのに5秒、魚が袋に閉じ込められるのを待つのに30秒、ヨシ!と思って袋を閉じて吊り上げるまでに10秒だ。
「この時期じゃからよう釣れたな。さあ戻るぞ」
釣れた? これを釣ったと言っていいのかは疑問だけど、冒険者も野営も初心者だから分からない。森が近い川なら使えそうな業だし、私も練習しよう。
岩場だったらどうだろう、川の石を動かして 段々狭くなるようにすればいいかな?