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月国物語  作者: 作者
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ようこそ!日常から


 音が聞こえる。目覚ましの音と、自分を起こそうとする声。

 

「そろそろ起こさないとな〜」

「そうね、目覚ましもうるさいし」

「気持ちよく寝てますし、もう少し寝かせてあげても……」

 

 三人の女の子が喋っている。

 一人目はこの状況を楽しみ、二人目は自分を起こそうとし、三人目は自分をもう少し寝かそうとしてくれている。三人目を応援したい。

 

「そろそろ起きなきゃ遅刻でしょ?はぁ……ちゃんと起きてもらいましょう」


 二人目がそう言い終わるとお腹に鋭い痛みが走った。痛みで一気に目が覚め、布団から転げ落ち悶えているとまた声が聞こえてきた。

 

「おっはよう〜よく寝れた?」

「おはよう、アホ」

「ご、ご主人!お、おお腹大丈夫ですか!?」

 

 それぞれ言いたい事はあるがとりあえず一番伝えたい事を伝える。


「おはよう、三人とも……起こしてくれてありがとう。でも次はもう少し優しく起こしてくれると嬉しいかな……」

 

「目覚ましという最大の優しさで起きれなかったなら、痛みという最低の起こし方に頼るしかないでしょ?」


 そんな事を話しながら起きてカーテンを開ける。日の光が入り身体を伸ばす。お腹が痛い事以外は気持ちのいい朝だ。


「さて!今日は頑張ろう!高校の入学式だ!」


 気合を入れドアの方に振り向く。部屋には自分以外誰もいない。だけどまだ声がする。「お腹はやりすぎです!」や「今日の朝は何かな〜」など。それは自分にっとての日常だった。

 

 今から二年前の中学校入学式。車に轢かれそうな黒猫を助けた。幸い片腕と片足の骨折で済んだが、熱が出てしまい数日寝込んでしまった。次に目が覚めた時に自分は暗い空間にいて、そこには椅子が七つありそれぞれ知らない子達が座っている。自分の椅子と思われる場所が空いていたが座る勇気はなく、この空間と目の前の人達が怖くただ突っ立っている事しか出来なかった。


「こっちに来いよ〜私達は話したいだけなんだ〜」


 一人の子に言われ恐る恐る空いている椅子に座ると、周りが一気に明るくなり暗く怖い空間は家の中と変わらない温かみのある空間になった。


「それじゃあ明るくなったって事で!単刀直入に言うね!私達六人はあなたの多重人格なんだ!よろしくね!」


 これが厨二病の始まりなんだと最初は思っていた。長く寝ていたから話し相手が欲しくなって自分で作り出したのだと。中学の入学式から出席出来てないから、イマジナリーフレンドを作り出し自分で寂しさを消そうとしているんだと……そう自分で認識していた。学校に行くまで。

 その日は苦手な体育の授業だった。入学式初日から休んでしまった為友達はおらず、身体を動かすのも苦手なので肩身の狭い思いをしていると、最初に話しかけてくれた女の子である彩魅(あやみ)が提案してきた。


「私、身体動かすの好きだから代わってあげようか?」


 その日の体育で僕は、正確には僕の身体はヒーローになってしまった。自分では出来ないような動きをし、話した事などない同級生と連携をとり自分のクラスを勝利に導いてしまった。


 僕達は日頃からゲームをする時など、肉体の権限を渡し遊んでいた。所詮は自分が作り出した存在達なので渡したと思っている事自体、ただの演技でありフリだと思っていた。だが、今回の体育でその考えは無くなった。まったく違うんだと。自分の意思でどうこう出来る存在ではないと、自分以外の6人にもしっかりとした意思があり、自分とは違う独立した存在なのだと。

 それからの生活は色々変わった。勉強も正直苦手だったのでどうするか考えていると、2人目の女の子であり、痛みで起こしてくれた(ひとみ)が提案してきた。


「私は貴方より勉強が得意だから代わりにやってあげる。そして貴方に勉強を教えてあげるよ」

「いや、流石に全部やってもらうのは罪悪感が……」

「そう?ん――……だったら報酬をちょうだい?私チョコ好きだからチョコ食べたいな」

「え!代わったら何かくれるの!?体育頑張ったら毎回メロンパン買ってくれるの!?」


 6人の特徴や好きな物はバラバラで、メロンパンが好きで元気な彩魅(あやみ)ちゃん、チョコが好きで頭がいい(ひとみ)ちゃん、何をするにも過保護な(すみれ)ちゃん、6人の中で唯一の男の子で礼儀正しい(らく)君、面倒くさがりな桜花(おうか)ちゃん、彩魅や瞳の様に文武両道であり、楽の様に礼儀正しい(ぜん)ちゃん。何か手助けをしてもらったら対価を払うという形で、僕の不安感は徐々に消えていった。自分より日常能力の高い人達からの無償の手助けは、少し怖かったのだ。

 こうして6人の人格者達と、バランスを取ることが出来るようになった。そんな生活に慣れて6人達との仲も良好な頃、また問題が起きた。2年生になる新学期。朝食を食べているとインターホンが鳴った。


「お会いしたかったです!私を覚えていますか!?あの時助けていただいた黒猫のクロです!」


 世の中にはヤバい奴もいるんだなと、6人達と意見が一致した瞬間だった。流石にヤバいので親を呼びお帰りいただこうと思ったが


「え!クロちゃん!?良かった〜元気になったのね!怪我が治ったら直ぐにお外に行っちゃったからここが嫌なのかと思って気がかりだったの!」


「いえいえ!猫としてお傍にいるより、猫又となり変化を覚えればお母様やお父様、そして隼人さんにより恩返しが出来ると思って山で修行してました!」


「えーー!そうだったの?クロちゃんはいい子ね〜」


 母さんはダメだった。昔からおっとりしているので簡単に信じてしまった。


「クロ……だって?申し訳ないがにわかには信じがたい。何か君が猫だという証拠はないのかい?」

「はい!お父様!猫又なのでこの様に、尻尾が2つありますよ!それに!猫の姿に戻る事も可能です!」


 クロは2つの尻尾を見せた後煙に姿を包まれ、次に姿が見えた時は黒猫の状態になっていた。その猫は僕が1年前に助けた猫と全く同じだった。だが、こんな事が出来る猫をこの家に置くかどうかは別の問題だ。


「いかがですか!お父様!クロだと信じて頂けました?」

「ふむ……そうだな……困ったな」


「えっと……やっぱりダメですかね?そうですよね……化け物ですもんね……」

「え?ああ、それは別にいいんだよ。せっかく人型になれるのなら、人間の文化に触れた方がいいと思ってね。どうやってクロを学校に通わせるか考えていたんだ。」


 父さんもダメだった。父さんは母さんとは違い非日常に対して真面目に対応してくれると思っていた。尻尾と変化を見た段階でクロを受け入れ、更にはその先を考えていた。僕の中にいる6人はそれぞれ言葉を無くしていたが親が認めてしまえば子供の僕に出来る事は何も無い。猫の状態のクロを抱き上げ


「また会えて嬉しいよ!クロ、またよろしくね」

「はい!隼人さん!」


 これが今出来る精一杯の対応だった。


 クロと一緒に登校するようになり1週間がたった頃、多重人格である事がバレた。家と学校であまりにも違いすぎる為、最初は両親と喧嘩してると思ってたらしく慌てて訂正する事になった。クロは6人の事を何も疑わず受け入れてくれた。


「おはよう!ん……なんだ?まだ寝ぼけてるのか?今日は入学式なんだからしっかりしろよ〜?父さんも母さんもちゃんと見に行くからな!」

「楽しみね〜!でも、最近物騒な事件多いから気をつけてね?」


「おはよう。大丈夫だよ、人通りの多い所歩いて行くし。他にも同じ新入生がいるんだから、そんな大勢の所を襲ったりしないでしょ?」

「お父様、お母様安心してください。昔助けてもらったので、今回は私が助けますよ!」


 そんな話をしているとコソッとクロが話しかけてきた。


「先程お部屋から大きな音が聞こえましたが……皆さんですか?」

「ああ……うん。瞳が起こしてくれたんだ……瞳なりの優しさでね……」

「な、なるほど……なかなか刺激的な朝だったんですね。まったりしていた所大きな音が聞こえてきて、ビックリして耳が出ちゃいましたよ」


 朝食を食べ終え、両親よりも早く家を出る。高校は特に目標もなかったので、歩いて通える距離の所にした。瞳はもっと上を目指したかったそうだが、僕にはちょっとレベルが高すぎて遠慮した。学校へ行く道も、入学式も、何も問題は起こらず、全て式のプログラム通りに進んだ。


「さあ!今日は入学式だったわけだから!外食にしよう〜!」

「2人は何か食べたい物ある?」


 そんな話をしながら家へ帰ってきた。とりあえず晩御飯会議をするため、全員リビングへ。僕が家の鍵を閉め、最後にリビングへの扉を開けた時、何かが自分の横に飛んできてグシャッという音とともに水滴が自分の顔に着いた。飛んで来た物を見ると、そこにあったのはお腹から血を流している母さんだった。


「母さん…………?母さん……母さん!!!」


 直ぐに状況が飲み込めなかった。母さんのお腹にはハンドボール程の穴が空き、穴から見えるのは壁の白色だった。その白も母さんから出てくる物によって直ぐに赤に代わっていった。

 

「……隼人!隼人!!前を見なさい!」


 瞳の声で母さんが飛んで来た方を見ると異様な物体がそこにいた。背は父さんを大きく超え、天井にぶつからないよう前屈みに立っている。その顔の様な物は笑っている様に見え、触手の様な物で作られた大きな両腕。その左腕の先端は赤色に濡れ、液体や謎の小さな物体がゆっくりとボタボタ落ちている。右腕には父さんが捕まっていた。その腕から抜け出し母さんの傍に行こうともがいている。


「早く……逃げ……て…………」


 壁に打ち付けられた母さんの方から小さく弱い声で言われた。


「アハハハハハハァ!!!」


 扉の方に父さんが飛んでくる。扉を壊さないよう母さんの時よりは勢いが弱かった。扉の下に来た時、父さんの腹部に二本触手が刺さった。父さんは痛みに堪えながらも母さんの方に手を伸ばしている。父さんを助けようと手を伸ばすと視界が周った。


「……アッハハハハハハ!グヒィ!!」


 捕まってしまった。母さんに穴を開けた触手の腕に。父さんは何かを叫んでいる。母さんも口が動いているが何も聞こえない。もう、終わったんだ。


「隼人さんを離せえええ!」


 クロが触手の腕に包丁を突き立てた。

初めての投稿となります。なので、読みにくい場所や「、」や「。」の使い方が間違っていたりする箇所が多くあると思います。大変申し訳ございません。

もしもお時間がありましたらコメント欄などでご指摘して頂けると嬉しいです。

最後まで読んでくださり本当にありがとうございます!

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