6 昨日の告白の続き
妹と仲良く朝ご飯、並んでの久々の登校という自然と微笑みが浮かぶ出来事を終え、ルンルン気分で教室に入った。
「で?」
机にカバンを置いた途端、花江がズズイッと顔を寄せてきた。
その顔は上半分が影になっているからか、真剣さ故にか迫力があり、自分の罪について考えさせるには十分だ。
はて、なにか怒られるようなことでもしただろうか?
「で?とは何?あと近い。」
花江は顔を紅くし、距離を取ると、無意識にだろうが大きな胸を強調するように腕を組み、辰巳から顔を逸らす。
「…昨日のことだ。」
「昨日?はて…ああ…美波と仲直りしたこと…かな?」
「違うに決まっているだろう!」
「?」
「…いや、というか、嫌われているんじゃというのは冗談じゃなかったのか…それは確かによかったとは思う。まあそれも正直気にならないわけじゃないが…でも今はその話じゃない!!告は…昨日私に相談したことだ。例の一本杉の前でという…。」
「…ああ…あれなら…。」
辰巳がいつものように断ったと答えようとした時、教室の入り口のほうから、自分を呼ぶ声が聞こえた。
「春香くん、可愛い後輩が呼んでるよ〜。」
クラスメイトの羽田さんの声に視線を送ると、羽田さんのからかいにあたふたする見覚えのある女の子がいた。
「悪いけど、花ちゃん、話はまた。」
「だから花ちゃんと…って、え?ちょっと待て!辰巳!」
―
女の子が教室の前では話しにくいことだからと、誰もいない屋上へと連れ出された。
「それでなんの用?えっと…。」
「あっ!申し遅れました。私、小鳥…小泉小鳥って言います!…できれば小鳥と呼んでくれたら嬉しいです。はい。」
いや、いきなり失礼なことをされたわけでもないのにそれは…。
「…えっと小泉さん、それで俺になんの用?」
そう辰巳が聞くと、ガッカリしたような顔をした後、うっと呻くような声を上げた。
おどおど手を震わせながら、小鳥は自身のケータイを差し出す。
「ま、まず!こ、ここ、これを見ていただけますか?」
辰巳はそれを受け取り、画面を見ると、そこには先日の美波を抱きしめている光景が写っていた。
「じ、実は私、昨日一度引き返しまして、その時にい、妹さんとキスをしているのを見ちゃいました。とっても驚いて…本当にズルいと思って…。」
小鳥が言うことは要領を得ず、なにを言いたいのかはわからなかったのだが、答えは案外簡単なものだった。
小鳥は流れで押し切るように早口で告げた。
「これを見ていただけたらわかる通り、わた、私はあなたの弱みを握っています!だから!」
「…だから、俺に君と付き合えと?」
辰巳は告白のときのように待つことなく、彼女に尋ねた。
「…えっと…その…。」
小鳥としては流れに身を任せ、罪悪感というものに押し潰される前に、ことを済ませたかったのだろう。
長く要領を得ない前置きは今も躊躇し続けたからこそ。
小鳥はもう完全に泣く寸前だ。
悪いと思いつつも、どうしても辰巳のことが欲しかったからこそしてしまった。
世間的に褒められたことではない。
人道にも劣る行為かもしれない。
しかし、辰巳はその行為をされたことに、さして腹が立ってはいなかった。
むしろ悪くないとも思っていた。
悪いことをして後悔をするとわかっていても、そうせずにはいられないという人間的弱さ。
しかし、それを圧し殺す使い方の間違った勇気。
これは汚いが、とても純粋で、人間らしくて、ある意味眩しく感じた。
…そして、それが成功、成就しないところも、この小鳥の純粋さ故なのだろう。
「…なあ、小鳥。言い難いんだが、これよく見てみろ…ただ慰めているようにしか見えないんじゃないかと思うんだけど…?」
「え?」
小鳥は画面に視線を落とすと、そこには確かに抱き合っている二人の姿があった。
しかしどうだろう?
その前のキスをしていたというフィルターを外してみると、頭の上に手が置かれていることからも、妹を慰めている兄という構図のほうが明らかに適正だと思われる。
ジーと画面へと視線を送り続ける小鳥。
すると、次第に小鳥の顔は青ざめていく。
「ふむ…どうだった?」
「…これただ先輩が妹さんを慰めているだけですね…。」
「だろうと思った?」
「…嫌われ…ちゃいましたよね…。」
小鳥は崩れ落ちるように座り込むと、オワッタと目が虚ろになっていた。
さらには、壊れた人形のように「あはは。」自然に笑い始めた。
端から見ると、不気味なので、すぐさま、脱兎のごとく、全てを忘れて、逃げたいところだが、後で自殺でもされたら事なので誤解くらいは解いておこうと思い、逃げろという本能をなんとか抑え込んだ。
「…一つ条件を飲んでくれれば、これのことは忘れてもいい。」
「あははは…………条件?」
笑っていた時は怖いと思ったが、虚ろな目がこっちに向くほうがもっと怖い!ちょー逃げたい!!
「…昨日の告白を互いになかったことにしない?」
「えっ…?」
「もしかしたらだけど…仲良くなれば、俺は君のことを好きになるかもしれない。だから友達になんない?」
意味が理解できずに立ち尽くす彼女にケータイを返すと、ぽけと小首を傾げ、う〜んと唇に指を当て考えた。
少し時間が経つと、目に光が戻ってきて、立ち上がるなり、再びケータイを差し出してきた。
「えっと、とりあえず番号交換してください。」
…小鳥…案外図太いな…。