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5 美波はからかいに慣れてない

程なくしてあの一本杉から家路につくこととなった。


本当に中学の頃にあったかなかったかというそれに辰巳が懐かしさを感じていると、美波の方はずっと俯いたままだった。


チラチラと辰巳の手を見てくるので、手でも繋ぎたいのだろうと思い、手を握ってやると、ビクッと震え、美波は顔を真っ赤にしてブンブンと首を横に振ってくる。


「ち、違う…違うから…。」


「手繋ぎたいんじゃなかった?」


「ち、違う!!けど…そ、そう…にゃの…。」


なにやら動揺からか、滑舌までよろしくなくなっていたので、とりあえず手を放すことにしたのだが、手が離れる時に名残り惜しそうな声が聞こえた。


それからも視線がやはりそこに向かっているので、照れてでもいたのかと思い、何度か手を繋いで見たのだが、顔を真っ赤にして首を振るので、結局は、ぎゅっと辰巳の制服の裾を握る形に落ち着いた。


そういえば、昔もこんなふうに付いてきていたと思い出し、温かい気持ちになっていると、我が家にたどり着いた。


「ただいま~。」


ドアを開け、辰巳の声が家の中に響くと、リビングのドアが開く。


「お帰りなさ〜い、たっちゃん♪」


美春が嬉しそうにやってくると、辰巳にカバンを差し出すように手を出してくる。


これは美春なりのお遊びらしく、断ると泣き真似をされてしまう。


それからのご機嫌取りが面倒なので、ありがとうと手渡すと美春は楽しそうにそれを続けた。


「お疲れ様。ご飯にする?お風呂にする?そ・れ・と・も・わ・た・し?」


キャ〜と嬉しそうなので、そのままそれに従い、ご飯と言おうとすると、後ろから置いてけぼりをくらっていた美波がすっと顔をだしてきた。


「…お母さん、私もいる。」


「あれ、美波ちゃんいたの?お帰りなさいっ!?」


美波がいたことに気がついていなかったのか、美春が帰宅を歓迎していると、急に目が見開かれた。


すぐに落ち着きを取り戻すと、美春はからかうような視線を美波へと向け始める。


「あらあら、うふふ♪美波ちゃんも女の子ですね♪」


「は?」


「もう♪私のたっちゃんにそんなにくっついて、このお・ま・せ・さ・ん♪」


美波はどうやら美春のからかいに慣れていないのか、ぽかんとしていたのだが、少し考える仕草をすると、それに気がついた。


「……っ!?」


ビュンッ!!


辰巳をすり抜け、靴を脱ぐと、自分の部屋へと駆け込んでしまった。


美春はあらあらと微笑ましそうに笑い、そのさまを眺めていた。



夕飯を食べ、風呂に入り、リビングでテレビを見ながら、宿題をしていると、美波が教科書なんかを胸元に抱えてやってきた。


「えっと…兄さん、勉強教えて。」


「ん?いいぞ。どこだ?」 


「ここ。」


すると、教科書の一部分を指し、美波は対面に座るのかと思ったのだが、ご飯を食べる時同様に辰巳の横へと腰を下ろした。


部屋着のTシャツにショートパンツと露出の多い格好で、風呂から出たばかりなのだろう髪がほのかに濡れていた。


石鹸のいい香りが鼻腔をくすぐり、頬も上気しているせいか、少し落ち着かない。


「ここは…。」


「うん…そうなんだ。わかった。」


真剣に辰巳が教えるのを聞いていると、時折、髪が垂れ、それをかきあげる様もどこか色気を感じた。


兄として成長を喜ぶ反面、せっかく仲良くなれそうなのに彼氏でもできて離れていってしまうのではと複雑な思いを抱えていると、いつの間にか美波は聞きたいことが終わったのか、「ありがとう。」と言ってリビングを後にした。


何年ぶりかに頼ってもらえて嬉しかったのだが、それが終わってしまうとなんとも寂しいものか、辰巳は再び宿題に手を付けようとしたその時、再びリビングのドアが開いた。


「え、えっと…兄さんが邪魔じゃなければ、一緒してもいいかな?」


ぎゅっと勉強道具を抱きしめ、辰巳をうかがうように見ている美波。


辰巳は嬉しさを隠すことなく、手招きすると、美波は顔に嬉しさを滲ませながら、そっと隣に腰を下ろす。


辰巳がそんな昔にもあった光景を懐かしんでいると、互いに宿題も終わり、並んでテレビを見ていた。


すると、美春が風呂から上がり、リビングに入って来ると、ニヤニヤと笑って、美波をからかう。


「あらあら〜?美波ちゃん、たっちゃんと仲良しさんね~

♪まるで恋人み・た・い♪きゃ〜♪」


「な、にゃ、にゃにを!?そ、そんなことにゃみも〜〜んっ!!」


美波はこんなちょっとしたからかいにも関わらず、顔を真っ赤にして、自分の部屋に帰ってしまった。


「ふふ〜ん♪ビクトリー♪」


パジャマ姿で勝利のポーズをとる美春に辰巳は何をやっているのだかと視線を送っていると、美春はこちらへと擦り寄ってきた。


「美波ちゃんばっかりズルいったら、ズルい〜!!お母さんとも仲良くしよ〜♪」


匂いも美波そっくりで、肌の荒れた様子も相変わらず一切ない。


本当に父と同い年なのかと疑うほどだ。


行動もどこか子供っぽいところもあり、辰巳自身可愛いらしいと思うこともある。


すると、いつの間にか手にはドライヤーがあり、どうやら乾かしてほしいらしい。


それから髪が乾くまで、今日学校であったことなんかを話していると、今朝の言いようをふと思い出し、美春に尋ねた。


「美は…母さん、別に美波が俺のこと嫌ってないって知ってたでしょ?」


「もちろん!」


「…なんで教えてくれなかったんですか?」


辰巳の質問に美春は不敵に笑う。


「ふふふっ、それはね。乙女心は複雑ってことなのよ!つまりは私と美波ちゃんはライバル!!」


「はいはい、さいですか。」


「も〜たっちゃんの意地悪〜!」


わけのわからないことをいう美春をテキトーにあやしながら、辰巳はなんでもないようなニュースに耳を傾けていた。


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