4 7に賭けて仲間を連れてはいかなかった
あの手の手紙を受け取ると、期待からか不安からか、いつもより落ち着かず、自分の中で授業の集中度がやはり少しばかり落ちてしまう。
そういえば、テストでもったいない小さなミスなんかはこういう日に習ったものが多い気がする。
統計ではなく、自分談だが、もし誰かしらの成績を落としたいのならこんな方法もあるのだと愚にもつかないようなことを考えていると、いつの間にやら外ではカラスがカーカーとその身体をほのかに温めんと空高く飛んでいた。
たったの一羽だったそこに、猛スピードで隣に並ぶものが現れたことが、とても印象的で今度こそと期待感を覗かせて、校舎裏の丘の上にある一本杉のところに行くと、そこにはもうすでに誰かがいた。
視界に入ったのが女の子だったので、走ってそこにたどり着くと、女の子はか細いどこかおどおどとした声をあげた。
「き、来てくれたんですね!あ、ありがとうございます!」
思いっきり頭を下げると、その頭が中々上がりきらず、視線というやつがあわない。
祈るように合わせられた両手。
震えを帯びた手。
その震えが収まるまでしばらくかかった。
「…。」
「…。」
この儀式のような神秘的で、心から美しいと思える光景に心を奪われ、いつも恋にも近い感情が生まれる辰巳。
しかし、頭になにかがよぎり、それはなくなった。
せめて、女の子が言い終わるまで…。
「先輩!好きです!わ、私とつ、付き合ってください!」
「…悪いが、他をあたってくれ。」
一瞬何を言われたのかわからないような表情の後、言葉の意味がわかり、目に涙の浮かべる。
すると、今回の女の子はそのまま、頭を下げて逃げるように走って行ってしまった。
一言二言の理由を聞いてこなかった彼女にアッパレをあげたい…などと考えるほどの元気は辰巳にはなく、超がつくほどの鬱だ。
この告白される前に答えを決めてしまうこの感覚は、本気で罪悪感しかないので、どうにかしたい。
とにかくさっさと帰ろうと、その場を離れようとした時、ふと後ろから声が聞こえ、そして振り向くと、温かな感触が自分の唇から感じた。
―
そして、始めに繋がる。
「は、離して!お願い、兄さん…。」
掴んだ手を引き寄せ、逃さないように腕の中に包み込むと最初は逃れようと暴れたのだが、それはすぐに収まった。
「別に怒ってないから、なんでこんなことをしたのか教えて。」
「ううう…に、兄さん…ず、ずるい…。」
「ずるいって言われてもな…。」
「…ううう…。」
いつまでも恨めしそうにこちらを見つめて唸っている美波が子供みたいで、いつの間にやら彼女の頭の上に手を置き、優しくそれを撫でていた。
その感触はあまりにも懐かしく、いつかの過去を懐古させる。
転んで泣いてしまった時、美春に怒られてしまった時、眠れないとベッドに潜り込んで来た夜。
あの時と同じでずっと愛おしい思いしかない。
大切にしたいと思わされる。
日が沈み切る前には、落ち着いたのか、ポツリポツリと言葉を零し始めた。
「…ごめん。」
「うん。」
「…なんでかわかんない。私にも…。」
「うん。」
「…けどなんか嫌だって…。」
「うん。」
「…寂しいって…私の兄さんが…。」
「盗られるって思ったのか?」
美波は頷いた。
「はははっ…まさかそんなに美波に好かれているとは思わなかった。てっきり嫌われていると…っ!?」
「そんな訳ない!」
「…と思ってたけど、違ったんだ…よかった…。」
美波が急に大声を上げたことに辰巳が驚いていると、美波も驚いて顔を真っ赤にすると、辰巳の胸に顔を埋めてしまった。
「…美波は可愛いな。」
「…ううう…。」
辰巳の胸にグリグリと頭を押し付けてくる美波を少し強く抱きしめると、耳元に口を寄せた。
「美波、俺はまた昔みたいに美波と仲良くしたい。一緒にいたい。だからこれからもよろしく、美波。」
耳元から顔を離すと、ちょうど美波と目があった。
すると、美波はいつ以来かわからない笑顔を見せた。
「…こ…こちらこそ。」
ぎこちない笑顔だったが、それは辰巳の心をとても温かくした。