3 7対3でラブレター
自分の教室に着くと、気のないテキトーな朝の挨拶をクラスメイトたちといつものように交わし、席に着くと、机の中に教材なんかをいれるより前に、手に持った手紙を開き読み始めた。
辰巳先輩、放課後、校舎裏の一本杉の前に来てください。
お話したいことがあります。
「…ふむ…。」
辰巳がその手紙の内容を確認して、悩んでいると不意に声を掛けられた。
「辰巳、おはよう…って、なにをしているんだ?」
「ん?」
振り向くといたのは、どこか強気な瞳を持った背の高い、女の子にモテそうなポニーテールの美少女がいた。
彼女は浪川花江と言って、剣道部に所属している。
小さい頃から、大会なんかにたびたび出ては、優勝なんかをすることもあり、今ではこの学園で最強の呼び声も高い相手だった。
一応生徒会副会長をしているのだが、とある信奉者(役員)の言うように、こいつが生徒会長をすればよかったのにと一番思う相手だ。
花江は幼馴染で特段仲が悪いわけでもないので、いつものように朝のホームルームの前に軽い挨拶を交わしに来たらしい。
しかし、辰巳の手の中にあるものを見て、軽く眉を顰めた。
「…またか?」
「ん。まあ。」
またということからもわかるように、辰巳は時折このように手紙をもらうことがある。
辰巳自身モテる要素などないと思うのだが、告白された時に理由を聞くと返ってくるのは、顔立ちはかなり整っていて、勉強ができる。
さらには、運動はそこそこだが、武道は得意で、そして、2年生にして生徒会長を務めているから、よほどの男だと評判らしいのだ。
色眼鏡、補正のガン積みである。
生真面目な花江はどうやらそのまやかしに釣られた女性がいることにご立腹らしいのだ。
「また断るのか?」
「う〜ん…会ってみないとわからん。」
辰巳の答えに花江の眉がピクリと動く。
「なんだそのわからんというのは。」
「いや、だってな…一目惚れというやつが起こるかもしれないし、気に入るかもしれないだろう?となれば、万が一とあうこともないとは言えない。」
辰巳がそう言葉にすると、花江は呆れたように溜息を吐く。
「…はあ…まったくお前な…。お前はそう言いつつ、毎回振っては返ってくるだけじゃないか…。」
「仕方がないだろ?だって別に急に好きってなったりしなかったんだから。好きになったわけでもないのに、付き合ったりするのはもっと失礼だろ?」
「それは…そうなのだが…それなら…(ちゃんと断るって言ってくれてもいいじゃないか…)。」
「それなら?…はあ…まったく花ちゃんは真面目だな…。」
「誰が花ちゃんだ!」
「それともなにか?花ちゃんは俺がさっさと誰かとくっつけって思っているのか?」
「な、何を言っている!?そんなわけ無いだろう!…そんなはずない…ないもん…。」
「ならいいだろ?行き当たりばったり、運任せ、出たとこ勝負で…。」
何故か落ち込んでしまった花江にバツが悪くなった辰巳はそっぽを向く。
「…。」
花江がいつになっても去っていく気配がないので、辰巳はなにかないかと探し、ふと思い出した。
「…でもまあ…花江…これってそういう手紙なのかと聞かれると確信を持ってそうとは言い切れないんだよね…。」
辰巳はつい花江に乗せられて、売り言葉に買い言葉といった風に返してしまったのだが、事実は少しばかり複雑だった。
「は?」
言っている意味がわからないとポカーンとする花江。
ほらと手紙を差し出すと、花江は短い文章のこともあり、すぐに読み終わり、渋い顔をした。
「一本杉の前で待つ…か…。」
うん。
文字はどこか丸みを帯びていて可愛らしいそれなのだが、内容が少し感性に引っかかるものがある。
言葉遣いは丁寧なのだが、比較的簡素であり、一本杉という言葉はなにかしらの伝承にもあるような言葉って、物騒な雰囲気も感じる。
「…他になにかないのか?」
封筒は真っ白で、如何にもな感じのそれで、それを封じられていたシールが四葉のクローバーを模したものだった。
正直判断に困ること請け合いである。
「…。」
花江は目の当たりを軽くもみ、辰巳は眼鏡を取り外し、軽く拭く。
「…たぶんだが…7対3でラブレターだと…。」
「…たぶん俺もそうは思うんだけどな…。」
「「…。」」
辰巳と花江、二人は担任が来るまでの間、頭を悩ませた。