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2 弁当を届けにいったつもりなんだけど…

学校に着くと、予鈴までまだかなり時間があったので、美波の教室に先に向かうことにした。


これで昼時に入れ違いになることはあるまい。


ドアが閉まっていなかったので、中を覗くと美波の姿があった。


辰巳はすぐそばの席にいた娘に声を掛ける。


「悪いけど、春香美波を呼んでもらえないか?兄の辰巳なんだけど…。」


「えっ、はい…って、会長っ!?」


「ああ、まあ、一応そんなこともしているかな。」


一応。


そういう言葉を選んだのには理由がある。


それは自分の意思でその生徒会長とかいう重荷を背負わされたからだ。


無理やり生徒会長にされちゃって…なんてことを言ってみたいなどということを言う輩もいるが、はっきり言って殺意が湧く。


やってみればすぐにわかることだが、面倒事のオンパレードに、時間が掛かることがやたらと多い。


その上、前生徒会長が好き勝手やりまくったため、改革の後始末だけでなく、生徒からはその期待感、さらには職員たちからは警戒心が通常より2割、3割は増していてやりにくいことこの上ない。


できることならば、すぐさま不信任決議でも起これば、諸手を挙げて、抵抗なしの無条件降伏することが決まっているので、誰でもいいからやってほしいところなのだが、誰もその責任を取れないことがわかっているからかその気配すらない。


いっそのこと生徒会長としての仕事のすべてを放棄してみようかとも思うが、他の役員に悪いのでそんなことはできるはずもない。


結局は()()()の手のひらの上で踊ることになるのだ。


高校は無理だったから、大学こそは魔の手から逃れたいものだ。


なんて長いこと考え事をしていたと思うのだが、美波を呼ぶよう頼んだ女の子はなぜか固まってしまっていた。


「…美波を呼んでほしいのだが?」


再びそれを頼むと、その娘は慌てて指示に従おうとしたのだが、それは遮られた。


「す、すぐ呼んできますから!」


「その必要はないわ。」


騒ぎを聞きつけた美波がやって来たのだ。


「美波、弁当届けに来たんだけど…。」


辰巳がいつものように要件をすぐさま伝えると、美波は辰巳から弁当の包みを受け取った。


「そう。ありがとう。」


美波は相変わらず無表情で言葉は少ない。


昔は笑顔も時折見せてくれたのだが、それがないことが正直かなり寂しい。


「それじゃあ、またな、美波。」


「うん、じゃあね、兄さん。」


「あっ…そこの娘もありがとう。えっと…。」


「は、初音!柄崎初音ですっ!」


「柄崎さんもありがとう。」


「いえいえ、この初音!会長のためならなんでも!あっ、私のことは初音とお呼びください!是非とも!」


辰巳はどうやら聞く相手を間違えたかとも一瞬思ったが、少し面白かったので、軽く笑みを浮かべる。


「ははっ、ああ。それなら俺のことは辰巳でいいから、初音ちゃん。」


「はい!辰巳さん!」


二人で軽く笑顔を浮かべ合っていると、横から視線を感じた。


「…兄さん、ナンパはやめてください。」


微かに怒りの感情が含まれた声のする方を向くと、美波が軽く睨んでいた。


そうなのだ。


笑顔は見られなくなった代わりといってはなんだが、こんな風な表情がよく見られるようになったのだ。


「いや、別にナンパのつもりはないんだが…。」


「そうですか?ならば、時間もないのでお引き取りを。」


「うっ…それじゃあ、またな、二人とも。」


「…うん。」「はい!」


初音は手を振ってくれたが、美波はさっさと自分の席に着いてしまった。


先ほどは気が付かなかったが、そこには日誌が開かれていたので、どうやら今日は日直だったようだ。


朝の忙しい時間に押し掛けたから余計に機嫌が悪かったのだろうと自分にとって都合のよい解釈をして、メンタルに負荷をかけること無く自分の教室に戻っていく。


その時、ふと下駄箱に入っていた一通の手紙のことを思い出し、ポケットから取り出した。


「そういえば、これって…。」


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