第8話 芽生え(2) ——side フェネル
突然、爆発させるように意思が通じないはずの身体が地面を蹴った。そのまま高く跳躍する。
「うおっ!? なんだ!?」
バッカスが驚きの声を上げた。
フェネルは強く想えば乗っ取られた身体に影響を与えられることを理解する。
だったら、やることは一つだけ。
隙を見て、身体を動かし自分の中心部にあるハート型の塊ごと身体を破壊すればいい。
私が、ただの壊れた人形になればいい。
フェネルはそう決心をする。
「——どうしました?」
突然大声を出したバッカスにユーリィは焦った様子で声をかけた。
「いや、今勝手に高く飛び上がった。だが今は元通りだ」
「でしたら、まだ大丈夫でしょう。早めにケイを殺して戻らせましょう」
「ああそうだな。よし、宿に着いたぞ」
フェネルは目的の部屋に飛び込んだ。
彼女の目に飛び込んできたのは、ケイと見知らぬ人間の女が一人、メイド姿の魔巧人形一体、そして軍のブラッドダガー4体。
「ふん、高級宿とは……。しかもえらい美人だ。上玉の女連れとは許しがたいな」
バッカスは口元をさらに歪めて言う。
「はて、この女どこかで見たことがあるが……ケイとどんな関係か、あとでみっちり身体に聞いてやるわ」
——そう。コイツら誰? 私は知らない。
妙に馴れ馴れしくマスターに接している。
ケイが見知らぬ女を二人連れているのを見て、フェネルは強い感情を抱く。意識が覚醒していく。
マスターに抱き留められている女……なんて羨ま——じゃなくて、それよりも、メイド姿の魔巧人形が気になる。
人間に見えるけど、その少しだけ小さな体格や身のこなしからフェネルは魔巧人形だと確信する。
しかし、何かが違う。瞳に光が宿っている。まるで、自分と同じように——。
「魂ガ……あル?」
思わず呟くフェネル。
そんなはずはないと思いながらも、彼女は一つの可能性を考える。
そうか、マスターが魂を生み出したのだ。私以外に。私以外の魔巧人形に。私以外の——。
バキッ。
フェネルの魂を拘束している魔道具にひびが入る。
同時に、自らの魂を壊すという決意を遙かに超える感情が、フェネルの中に芽生える。
「……私以外の……者ニ魂を?」
それは、愛情? 独占欲? 嫉妬? ——嫉妬?
激しく燃える炎のような感情が、フェネルの魂からあふれ出た。
バキィィィィン!!
同時に、フェネルの魂を捕らえていたものが完全に破壊される。
『個体名フェネルは、嫉妬の炎を獲得しました』
フェネルの魂に響く言葉があったが、その声に意識を向ける余裕はなかった。
☆☆☆☆☆☆
「ぎゃああああああっ!」
バッカスの汚い悲鳴が部屋に響き渡る。
彼は床に転がり悶絶していた。
ユーリィは信じられないものを見る目でバッカスを見ている。
「ほう、こうも苛烈とは……魂というものは恐ろしい」
そう冷静に語るユーリィの視線の先には、爆発した魔道具によって耳付近の皮膚が血だらけになったバッカスがいた。倒れたまま痛みで暴れている。
「ぐあああっ、な、何が、起きた……? 痛いっ!」
しばらく悶絶していたが、バッカスは泡を吹き静かになる。
痛みで気絶したのだ。ユーリィはその姿を興味深そうに見つめていた。
ユーリィは……誰にも……軍に従属している医師にも未だに連絡していなかったのである。
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