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第7話 芽生え(1) ——side フェネル

 バッカスは息を荒げ、スカートの裾をつまみ、めくりその内側を見ようとする。

 が、その目的が達せられる前に制止される。


「コホン、バッカス殿。その人形をお楽しみになるのは、あの男——ケイとやらを殺した後で良いのでは? そろそろ先遣隊が到着しているはずです」

「ふぅ……あ、ああ。そうだな。やたらと目障りだったあの男。従者であった人形に殺されるとは、さぞ無念だろうて」


 愉悦の表情を浮かべるバッカスを見て溜息を漏らすユーリィ。

 だが、これで一つ目の目的を果たせそうだと安堵の表情も浮かべていた。


「そういえばユーリィ殿。先遣隊のブラッドダガーが制御を離れたりはしないのか?」

「もちろん、この黒い首輪と同様の術式を施しています」

「そうか。では、ケイをたっぷりいたぶってから殺すとしようか。本当ならワシが出向き、ケイの前でこの人形を犯してやりたいくらいだが……まぁ仕方ない」


 下卑た笑みを浮かべ、バッカスはフェネルの操作を開始した。


「望み通りお前の元上官に合わせてやろう」

「了解。目的ハ、元軍人、けい・いずるはノ殺害」


 ケイの行動は全て軍に掌握されていたので、バッカスは情報を元にフェネルを操作するだけだ。

 現在位置ももちろん分かっている。


「ふん、高級宿とは……。しかも随分上玉の女連れとは許しがたいな」


 言いながらも、口角を上げるバッカス。

 バッカスは、黒い首輪を用いてフェネルに命令を下す。


「では、フェネルに命ずる。お前の元上官、ケイ・イズルハを殺害せよ。ああ、その前に拘束した後、手と足を一本ずつ切断してやれ」

「了解」


 瞳から光を失ったフェネルは、床にあった彼女の剣、ヴォーパルウエポンを手に取り、駆け出し部屋を出て行く。


「はははは。これは愉快だ。こんな機会を与えてくれたことに感謝するぞ、ユーリィ殿」

「どういたしまして。ですが、これは実験も兼ねております。魂を持つ人形にどれくらい私が作成した魔道具が()()()()()()を」

「うん? 何か言ったか? しかし……コイツは恐ろしい速度で街を駆けるのだな。屋根と屋根を縫うように飛び跳ねて渡っていく」

「ほう。凄まじい性能ですな」


 フェネルは断続的に、意識の外側で話す二人の会話を聞いていた。

 私に、マスターを殺せと命令した……?

 しかも、腕や足を一つずつ切り落とす……?


 意識の中でフェネルは訴える。

 やめろ、それだけはやめろ、と念じる。しかし全く身体に伝わる気配がない。


 どうしたら、それを止められる?

 私が……消えれば……止められる?

 でも、どうやって?


 その時、ふと思い出す。

 主人(マスター)であるケイが言っていたこと。


『魔巧人形は損傷しても修理すればいくらでも治せるし、前と同じように動くことができる。でも、フェネルはそうじゃない』

「つまり、私はそもそも損傷しない、無敵の強さということ。フンスッ」

『違う、そうじゃない。フェネルの中心部に、ハート型の(かたまり)がある。元々存在しなかった部位だ。恐らくフェネルの魂はそこにある。もし、それが破壊されると——』


 そう言ったケイの顔をフェネルは思い出した。とても苦しそうな顔をしていた、と。


『魂が消滅し、二度と戻らない。恐らく、元の魔巧人形にすら戻れず動かなくなる。俺はそう考えている』


 そう言った時、ケイの瞳は潤んでいた。

 人間は時に涙を流す。それが、その意味がどうしてもフェネルには理解が出来ない。


 それに、魂が破壊されたらどうなるというのか?

 ただ、元に戻るだけ。元の、ありふれた人形になるだけ。

 それなのに、どうしてマスターはあんな顔をする?


 でも、今はその気持ちが少しだけ分かるような、とフェネルは感じている。

 きっと自分の中に魂があるからなのだろうと。

 そして同時に思うのだ——。


 ケイを殺してはいけない。私を生みだしてくれた、ケイを守らなければならない。

 突然、爆発させるように意思が通じないはずの身体が思い切り地面を蹴った。そのまま高く跳躍する。


「うおっ!? なんだ!?」


 バッカスは驚きの声を上げた。

 その様子を感じ、フェネルは強く想えば乗っ取られた身体に影響を与えられることを理解する。


 だったら、やることは一つだけ。

 隙を見て、身体を動かし自分の中心部にあるハート型の塊ごと身体を破壊すればいい。


 私が、ただの壊れた人形になればいい。

 フェネルはそう決心をする。

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