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第8話 反撃(4)

 俺たちは城壁の東側に来た。さっきまでいた西端の城壁に敵からの反撃があり、かなりの砲弾が撃ち込まれている。

 そのほとんどは大した損害を城壁に与えていない。でも、まぐれ当たりで怪我したり命を落とすワケにはいかない。


 2回目となると、何もかもスムーズだ。

 俺も魔力を吸われることに驚くこともない。今度の目標は移動をしている。


「目標、敵右翼突出部戦車。方向と距離を指示、次弾の装填完了。今回の目標は移動しているが、いけそうか?」


 そう聞きつつも、あれだけの威力だ。多少外しても問題無いような気もする。


「了解……誤差修正、準備完了。はい、移動中の目標に対して偏差射撃を行います」

「すごいな。それは魔導ライフル銃の機能か?」

「いいえ。計算は射手である私が行わなければなりません。でも、いけそうです、マスター」


 自信がありげな声でフェネルが答えた。

 頼もしい。弾の予備もあるし、やってみる価値はあるだろう。


「撃て」


 フェネルが引き金を絞ると同時に魔力が吸われ、そして数秒後に砲弾が発射される。

 火薬式と違い、薬莢が排出されない理由が分かった。そもそも砲弾に薬莢の役目をする部位が無いのだ。

 砲弾装填時に一瞬だけ内部が見える。二つのレールがあり、恐らくそれに沿って砲弾が加速、射出される。

 発射までにタイムラグがあるのは砲弾を加速させるための魔力を溜める必要があるからだろう。溜まりきったところで一気にエネルギーに変え放出するのだ。

 まあ、これはあくまで俺の想像だけど。


「フェネル、移動するぞ」

「はい、マスター!」


 フェネルの放った砲弾は吸い寄せられるように狙った目標に命中。

 二つ目の大爆発が起きた。


 城壁の下部から歓声が聞こえる。

 敵が展開する右翼側、左翼側どちらも消滅した。中央部分の本隊が進行速度を緩めている。

 叩くなら今だが、反撃があるかもしれない。

 念のために移動する。



 そして、今度は城壁の中央部、大きな門の上まで来た。

 この門を昨日、俺たちは通過したばかりだ。


 振り返ると、街並みが広がっていてまっすぐ先にロゼッタがいる避難場所が見えた。

 古ぼけた建物だと思ったけど、今見るとその四角く無骨な姿は頼もしく見えた。


「ロゼッタを危ない目に遭わせた敵を粉砕します」

「ああ、その通りだ。フェネル」


 俺が大まかな目標、方向と距離を伝え、あとはフェネルが細かい調整をする。

 最初からやってきたこのやり方は、3回目の射撃を迎えた今、ほぼ完成したと言って良いだろう。


「撃て」


 砲弾は真っ直ぐ飛んでいき、中央部付近で炸裂。

 今までで一番大きな爆発を起こした。


 遅れてドォーンズズズズズという爆発音と振動が伝わる。


 俺の魔力とたった3発の砲弾、そしてフェネルの射撃により、戦車40台以上、そして恐らく数百の魔巧人形を葬った。

 荒れ地に3つの大きなクレーターを残して。


「ふう」


 俺は大きく息を吐いた。敵はもう壊滅した。

 残された僅かな魔巧人形たちは、退却などの命令が行われていないのか律儀にこっちに向かって突撃してくる。あれくらいならアンベールさんすら出る必要が無いだろう。


「あれ?」


 俺は世界が斜めに傾いたような感覚を受ける。


「マスター?」


 魔導ライフルを置いたフェネルが俺の異変に気付き駆け寄ってくる。


「顔色が悪いです」

「いや、大丈夫だ。ちょっと疲れただけだ……よ」


 魔力切れじゃないはずだけど、かなり疲労感が強い。

 想像した以上の魔力をあの三回の射撃に消費していたようだ。


 俺は座り込み、城壁の壁に寄りかかる。

 その様子に、少し離れた場所から俺を見つめるフェネル。


「すみません、マスター。私がもっとうまくやれたなら……」


 急にフェネルが謝ってきた。


「いや、これは俺の問題だ。フェネルは完璧だった」

「マスター……」


 どうにも納得しない様子のフェネル。首を左右に振り、視線を落とす。


「大丈夫だ。心配しなくていい」


 俺は口元を緩め、笑顔を作る。すると、フェネルは「はい」と答えた、その時——どたどたと足音が近づいてくる。退避していた兵士たちだ。


「これは……」


 彼らはここ屋上から戦課を確認する。ある意味、恐ろしい光景だ。

 三つの爆心地から未だにもうもうと煙が立ちこめている。


「あの小柄な子が……これを……成し遂げたのか?」

「俺たちは助かったんだ。この子のおかげで——命がけで特攻しなくて済んだんだ……」

「敵軍は、文字通り全滅じゃないか?」


 フェネルを兵士たちが取り囲み、喝采を上げ始めた。戦いの女神とかなんとか持て囃している。

 湧き上がる彼らとそれに戸惑うフェネルを見ていると、自然に口元が緩むのを感じた。


「よくやった、フェネル」


 勝ったのだ。そう離れた位置から告げると、フェネルもようやく口元を緩め柔らかい表情になった。

 俺とフェネル、二人で成し得た勝利を噛みしめる。


 しかし——たぶん。

 これで終わらない。俺の勘がそう告げているが、これくらい喜んでも罰は当たらないだろう。


 次の戦いは、恐らく目の前まで来ている。

 それでも、なんとかなる。何も心配いらない。俺のそんな予想が正しいことは、フェネルによって証明されたのだ。



お読みいただき、本当にありがとうございます!


【作者からのお願い】


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