第5話 突撃命令(1) ——side バッカス
「バッカス魔導隊長。ケイ・イズルハはどこだ?」
尋問部屋に連れ込まれたバッカスを待っていたのは、軍上層部の面々だった。
しかも、全員険しい表情をしており、非常に機嫌が悪いことが見て取れる。
ケイ・イズルハを辞めさせたのは、バッカスの独断だ。
その独断に対し、軍上層部がここまで怒りを見せるとは、バッカスは思いもよらなかった。
「……何のことだ!? ワシは何も知らんぞ!?」
この状況で、バッカスはとぼけることでしか抗う術を持たない。
「……では、質問を変えよう。この書類にあることは本当か?」
そう言って、一枚の紙を突きつけてくる。
ケイ・イズルハの除隊願だった。
「だからそれは何だというのだ!?」
「……お前が書いたものではないのか?」
「そんなものを書いた覚えはない!! 何かの間違いだ!」
「ほう……」
疑いの目を向ける軍上層部たちだったが、それ以上追及はしなかった。
代わりに……。
「では、本来ならケイに出向いて貰うところだったが、貴様に行ってもらうことにしよう」
一枚の命令書をバッカスに押しつける。
「そ、それは……」
その命令書には、エストラシア王国への侵攻作戦について書かれていた。内容は、前線で戦う歩兵部隊に混ざって帝国軍戦車で進軍しろというもの。つまり、最前線で死ねということである。
バッカスはその命令書を見て愕然とする。
「そんなバカな話があるか! ワシが死んだら誰が魔導大隊の指揮を執るんだ!?」
そう抗議するが、誰も聞いていない。それどころか、軍上層部からは冷たい視線が送られてくるだけだ。
軍上層部にとっては、もはやバッカスの発言などどうでも良いらしい。
「エストラシア王国に戦車はないから、多少は保つだろう。可能なら城塞都市の外壁に穴の一つでも開けてくれれば、後続の進軍が楽になる」
「無茶言うな! 最前線、しかも一番最初に突撃しろなどと——」
「バッカス、貴様は攻め入った街の略奪や住民をいたぶるのが大好きだろう? 一番槍だ。街に一番乗りをして金品も女も好きにできるぞ?」
「そ……それは——」
バッカスが大好きな餌をぶら下げる。だが、食いつかない。バッカスは知っているのだ。死ぬと分かっている場所に、自身が向かわされようとしていることを。
バッカスは思う——ケイ・イズルハ……アイツを排除したばかりにこんなことになるなんて。
いや、そうしろとワシにそれを唆したやつがいたような……アイツはお咎めなしで、どうして自分だけ?
「いらん! 絶対に行かん!」
しかし、彼の意思は尊重されなかった。
「残念だが、お前に拒否権は無いんだよ。既に決定事項なんだ。お前はただ命令に従っていればいいんだ」
「なっ……」
軍人にとって上官の命令は絶対である。拒否することは許されない。もし拒否した場合、最悪極刑もありえる。
バッカスは抵抗することを諦めつつも、ここまで詰られるとなぜか不思議な歓喜に包まれる。
そう、まるで痛いことをされても喜ぶように。
「……わかった。行けばいいんだろう」
「分かったなら良い。ああ、そうだ。お前がご執心だったらしいフェネルとやらの魔巧人形も、目的地である城塞都市『ルズベリー』にいるようだ」
「えっ……?」
上層部の一人が、髭を触りながら告げる。
「それに、餞別だ。お前が好んで通っているという館の奉仕人形を一体つけてやろう。戦車の中でよろしくやってくれ」
一瞬、冗談かと思うようなことを、真面目な顔をして言われたバッカス。
「あはは……そうですか」
としか答えられなかった。
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