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第2話 結婚式(1)

 俺たちに人々が歓声とともに近づいてきた。

 ありがとうありがとうとお礼を言われる。恐らくロゼッタと関係ない人たちだろうに、皆が喜んでいた。

 しかし、まだ気が抜けない状態だ。


「まだ鐘が鳴り響いています。避難先はありますか?」

「ああ。こういうときのために陛下が主導して作ってくださった」

「じゃあ、皆さん急いでそちらに。今は落ち着いているようですが、再び攻撃があるかもしれません」

「ああ、分かった。さあ、みんな、この方の言う通り避難しよう!」


 よかった。皆パニックにならず、しかも前向きな気持ちで移動を始めてくれた。

 城壁を越えたのはさっきの一発だけで、それ以外は城壁に阻まれているようだ。

 実際、弾道学というものが研究されているものの、まだ実用にはほど遠い状況だったはずだ。さっきのはマグレだったのかもしれない。

 しかし、それでも攻めてきているのは間違い無く、それは恐らく帝国軍だろう。


「着いていくぞ、フェネル、ロゼッタ」


 俺たちは人の流れに沿って歩き出す。

 ロゼッタは、フェネルにしがみついて泣いていた。それでも、フェネルは嫌な顔せず、両手で抱えている。


「ここが避難場所です」


 俺たちは程なくして避難場所——市場中央にあった礼拝堂に着いた。

 四角い箱のような外観。窓もなく非常にシンプルなものだ。

 帝国の建物に比べ、随分古く見える。しかしやたら頑丈そうだ。ただ、それほど広くないように見える。

 俺の感じたことを察してか、近くの人が教えてくれた。


「実は、地下二層にわたって広い避難場所が建設されています。元々、古代に建設されたものを改築しているのです」


 俺たちは中に足を踏み入れる。

 ほとんどの人は避難した後のようで、俺たちが最後尾のようだった。

 中央の祭壇の手前に、地下に降りる階段が見える。


 砲撃の続きは来ないし、この頑丈そうな所に入ってしまえば、もう安心だろう。


 その時、


「身体が動かなくなりました」


 俺の身体に寄り添っていたフェネルが漏らし、ロゼッタを下ろした。

 前と同じだ。

 爆発的な力と引き換えに……あのスキル【嫉妬の炎(バーニングハート)】はよく考えて使わないとダメだな。


 俺は崩れ落ちかけたフェネルの背中に手を回し、両腕で抱え持ち上げた。


「ま、マスター?」


 フェネルが頬を染める。

 おんぶしたときは見えなかったが、前に抱えるとフェネルの顔が見えて良いな。とりあえず、つらくはなさそうだ。


「動けそうになったら言ってくれ」

「は、はい」


 俺たちの様子を見て、涙が止まらないロゼッタ。彼女は、フェネルの力の入っていない指を握る。


「ひっくっ……フェネルちゃん、具合悪いの? 私のせい?」


 ロゼッタはまだ涙が引いてない。


「力を使うと、こうなる」

「やっぱり……」


 泣き始めそうなロゼッタに声をかけようとしたが、フェネルが先に口を開く。


「気にしないで。マスターに抱えて貰えた。なので、よい」


 フェネルは——口角を上げて——ロゼッタに微笑む。

 すると、フェネルと俺を見上げるロゼッタ。


「あっ……!」


 ロゼッタの瞳が煌めき、涙に濡れながらも笑顔が戻った。


「すてき。お姫様抱っこって言うんでしょう? ケッコン式で見たことある! ここみたいなところで! それでね、鐘も鳴ってたの!」


 確かに、ゴンゴーン、ゴンゴーンとおどろおどろしく鐘が鳴っている。

 俺は思わず苦笑した。ロゼッタの言う鐘の音は、もっと晴れやかなものだろう。

 フェネルの前髪にある花にそっと触れるロゼッタ。


「フェネルちゃん、今日もつけててくれたんだ。ああ、花の冠があればいいのに。でも、フェネルちゃんもケイさんも笑っているし——」


 そう言うと、ロゼッタは自分の涙を拭い目をつぶる。

 そして、何か芝居がかった口調で言った。


「ケイさん。あなたはロゼッタちゃんを妻とし、精霊神の導きによって夫婦になろうとしています」


 ん? どうした急に?


 ロゼッタが語り始め、何かの儀式が始まった。いや、これはよく結婚式で神官が告げるやつか。

 最後尾で始まった儀式に、数人が振り返った。


「なんじ、健やかなるときも、病めるときも……えーっと……これを愛し……んー……その命ある限り、尽くすことを……ちかいますか?」

お読みいただき、本当にありがとうございます!


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