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第3話 スカウトされました


 俺たちはゴロツキたちから逃げた後、治安の良い安全な通りまでやってきた。

 追ってくる様子はない。


『できれば、おれいをさせてください』


 魔巧人形アヴェリアの管理者は、この近くの高級宿に宿泊しているという。

 断ろうと思ったのだけど一人で歩かせるのは不安なので、その宿まで一緒に歩いて行くことにする。


「そういえば、まだ手を繋ぎっぱなしだったな。もういいだろう?」

『え……え』


 俺が手を離そうとしたが、彼女はそのまま俺の手を握り続けていた。

 不思議な動作だ。もう手を繋ぐ必要は無いはずなのに。


「問題があるなら、このまま行こうか」

『……はい』


 ややうつむくアヴェリア。

 感情表現に近い動作をするあたり、高性能の魔巧人形だ。

 白い肌にメイド服特有の白と黒のコントラストが映える。朱を差すように頬を赤らめたように見えたが、流石に気のせいだろう。

 改めて見ると、アヴェリアの肌は白いままだった。

 俺たちは、連れ添い足早に歩き始める。




「まあ、アヴェリア……よかった」


 高級宿に着くと俺たちに駆け寄ってくる少女がいた。

 彼女は背中まで伸びる銀色の髪の毛をカチューシャで留めている。

 顔立ちも整っていて、くりっとした大きな目が特長な、美少女と言っていいと思う。


『はい……おそくなり、もうしわけありません』

「もう、心配してたのよ? でも、無事で何よりです。ところで、この方は?」


 少女は俺の顔を見た。どこぞの大貴族の令嬢だろうか?

 しかし、そんな女性が一人で宿に? どういうことだ?


「私はケイ・イズルハと申します。こちらの魔巧人形が、ゴロツキどもに襲われていたのでこちらまでお連れしました」

「えっ、アヴェリア、本当なの?」

『はい。このかたが、たすけてくださいました』


 びっくりした様子で、俺を見るアヴェリアの管理者の少女。

 彼女はすぐに俺の方に向き直り、頭を下げる。


「そ、それはお世話になりました。私はカレンと申します。大切なこの子を助けて頂いたなんて。お時間がありましたら、今からでも……是非お話を聞かせていただけると嬉しいのですが?」

「そうですね。こちらとしても是非、そちらの魔巧人形、アヴェリアについてお聞きしたく思います」

「よかった。では、こちらに。私の部屋で話しましょう」

「へ?」


 俺はてっきり、ロビーで話をすると思ったのだが、カレンが宿泊している部屋で話をすることになってしまった。

 どうやら、あまり人前にいたくないらしい。


 うーむ。いいのだろうかと思いつつ、誘われるまま部屋に案内される。


「どうぞ、おかけください」

 

 促されて椅子に腰掛けると、カレンも向かい側に座る。

 広い部屋だ。どうやら最上階のスイートルームらしい。内装もかなり豪華だった。


 気品がある振る舞いを見ても、相当な貴族か、ひょっとしたら王族である可能性がある。

 それにしては気さくに話してくれる。俺は緊張しながらも、ざっと経緯を説明した。

 襲われていたアヴェリアと、助けてくれた魔巧人形のことを。


「なるほど、魔巧人形たちがケイさんをマスターと呼び、願いを叶えてくれたと」

「はい。不思議ですよね? 軍にいたときも、勝手に魔巧人形が動くことはあったのですが」

「それは……ケイさんのスキル、魔力注入の結果ではないですか?」

「えっ?」

「魔力を与えてくれた主人(あるじ)に恩を返した、そう考えることができます」

「魔巧人形が恩を返す? あり得るのですか?」

「はい。その様子ですと、無自覚に魔力を与えて恩を受けていたこともあったのでは? 素晴らしいスキルです。私の国では、そのスキルを持つ者を【人形使い(ドールマスター)】と呼んでいます」


 このカレンという女の子は、魔巧人形のことにかなり詳しいようだ。

 関連するスキルにも、俺すら気付かなかったことですら言い当てる。

 確かに俺の持つスキル「ソウルメーカー」はフェネルに魂を与えることができた。

 魔力注入のスキルにも、その欠片が備わっていたのかもしれない。


 じゃあ、南部戦線で俺たちが手柄を立てることができたのは、偶然じゃなくて、俺のスキルによるもの?

 いや、さすがにそれは考えすぎだろう。


 俺はカレンの顔を見た。

 可愛らしいと思った。

 目が合うと、楽しそうに目を細めてカレンは口を開いた。


「それにしても、手を繋いで一緒にいらっしゃるなんて」

「はい。どうにも離してくれなくて……彼女はアヴェリアでしたか? あまりに精巧な作りなので人間と比べても違和感を抱かないほどでした。素晴らしい魔巧人形です」


 ——フェネルには叶わないけどね。

 心の中で付け加える。

 俺の発言に、カレンは目を輝かせ前のめりになって顔を近づけてきた。


「そうなのです! この子は私が作った魔巧人形の中でも最高傑作なのです!」


 フンスと鼻の穴を膨らませるカレン。つまり彼女は人形技師のスキルを持っていることになる。

 これほどの精密さなら、フェネルのように魂が生まれる可能性がある。

 

 俺はメイド魔巧人形、アヴェリアに近づき、その造形を見つめる。


「素晴らしいと思います。全身が精巧に作られている。手や足の繋ぎ目が丁寧に処理してある。指もしなやかで細い。服は上等な布を使ったものだ」

「……ケイさんは、魔巧人形が好きなんですね」

「いや好きというか、ずっと仕事で扱っていたので、親しみもありますし、どういうわけか放っておけないです。この国では変人扱いでしたが」


 クビになり、職を失ったことを話すと、カレンはふむふむと頷いてくれた。


「俺は仕事柄、素晴らしい魔巧人形を見るとどうしても気になってしまって」

「そうでしょう? メイドのアヴェリアは世界一だと思っています」


 カレンは鼻息も荒く胸を張った。そのおかげで大きな胸がぷるんと揺れる。


 俺は、その言葉を聞いた瞬間、ピキッと額に青筋が立ったように感じた。

 世界で一番?

 おいおいおいおいおいおい。

 そんなことは俺の最高傑作フェネルを見てから言って欲しいものだ。


「世界は広い。もっと素晴らしい魔巧人形がいる。俺のフェネルが世界一だ」

「いいえ。アヴェリアこそ、世界最高なのです!」


 そう言って、ムキになっているカレンを見て、俺はぷっと吹き出してしまった。

 どこぞの良いお嬢さんなのだろうに、魔巧人形のことでこれほど真剣に言い張る人を見たことが無い。


「な、なんですか?」

「いや、相当お好きなんですね。軍では……いや、この国では魔巧人形を大切にしない人が多いので、珍しいなと思って。あなたは人形技師なのでしょうか?」

「はい。子供の頃から人形がずっと好きで。可愛いこの子が大好きなんです」


 互いに魔巧人形に思い入れがあり、会話に花が咲く。

 その途中でカレンは急に笑顔を引っ込め、真剣な眼差しで俺を見つめてきた。


「あの、ケイさん。我が国は、あなたのような方を「人形遣い(ドールマスター)」と呼びます。そして……魂を持つように精巧な魔巧人形を魔巧少女(マジカドール)と呼ぶのです」

「それは初耳ですね」

「そうですね。多分珍しいと思います。お願いがあります。ケイさん、我が国に是非いらしてくれませんか?」

「えっ?」


 カレンは真剣で、熱のこもった目で俺を見つめる。


「ケイさんをスカウトします。我が国は——いえ、私は、あなたを求めているのです」



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