第12話 仲良し
元気な仕立て屋を出て市場で食材を買い足したり、日用品を買ったりした。
さて、と一息ついたとき、足早に歩いている見覚えのある女の子を見つけた。
「ロゼッタ、どうしたんだ?」
「あっ、フェネルちゃんにケイさんだ!」
パタパタと駆け寄ってくるロゼッタ。
「今日はね、お使いなの。その帰りなの」
もう働いているんだな。偉いな。俺は思わず感心し、頭撫でてあげる。
すると俺たちの様子を見て、ロゼッタは「あーっ!」と声を上げる。
「フェネルちゃんとケイさん仲良し!」
そうなのだ。フェネルは今、俺と腕を組んでいる。
あのミリーという店員がフェネルに入れ知恵したらしい。
「こうすると、あのメガネ女——ミリーが、マスターが喜ぶと言ってました」
うん、多分それは黙っておくべきだろうけど。だいたい察しは付いてた。
少し歩けば満足するだろうと思ったのだが、フェネルが離してくれない。
帝国だと、魔巧人形と歩いているとバカにされただろう。
しかし、この国ではちがう。
とはいえ、フェネルが人間ではないと気付く人はほとんどいない。
気付いたとしても嫌なことを言う人はいなかった。
腕を組んで歩くのは照れるけど、でもこの国に来て良かったと思う。
フェネルが幸せになれる、そう感じたのだ。
「そう、マスターと私は仲良し」
フェネルは得意げに言った。相当腕を組むのがお気に入りのようだ。その顔を見て、ロゼッタが聞く。
「じゃあ、フェネルちゃんはケイさんとケッコンするの?」
「私とマスターが結婚?」
目を瞑り、一瞬考えるフェネル。
そして、導き出した答えは——。
俺もフェネルが放つ言葉に注目する。
「私はマスターと結婚できない」
「がーん!」
俺は思わずショックを受け、それが口から飛び出した。
あれっ? 今なんかフェネルに振られたような気分になったぞ? おかしいな。
とはいえ、フェネルの言っているのは感情の話ではないのだろう。
人と魔巧人形の結婚を認めている国はない。排斥しようとする国もあるくらいだ。
「ええ〜!」
期待する答えが貰えなかったからか、露骨にがっかりするロゼッタ。
「結婚の相手を人間限定にしている国は多く、その規定に従うと私はマスターと結婚できない」
「……? そうなの?」
「決まりだから仕方がない」
ロゼッタは、フェネルの説明を完全に理解はしていないようだ。
「男女の仲は色々あるのよね」
分かったような口を利くロゼッタだったが、やはり残念のようで、溜息をついて肩を落とした。
が、すぐにロゼッタは俺の顔を見ると、ちょいちょいと「しゃがんで」と指示をした。
「ん? 何かな? ロゼッタ」
俺は素直にしゃがむと、頭を撫でられる。
「ケイさん……振られたんだね……よしよし……ロゼッタが慰めてあげる」
「お、おう。ありがとう」
「でもね、何度も告白したらフェネルちゃんが、しょうがないって言ってケッコンしてくれるかもしれないよ? だから諦めないでね。でもどうしてもダメだったら、私がケッコンしてあげる!」
酷いことを言われているのか、慰めてくれているのかよく分からんな。
一方のフェネルは、首をかしげて口を尖らせている。
「むうー。ロゼッタはマスターと結婚できる。私はできない。納得いかない」
俺と結婚できないと言ったのはフェネルだろう? そう、これが矛盾というものだ。
今日は学びが多いな。
「結婚出来ないと決まったわけじゃないぞ。二人の気持ちがあれば、式を挙げて問題無いって言う人もいるし、制度が変わるかもしれない。変えていくこともできるだろう」
「マスター……そうですね。国のトップを脅して変えさせましょう」
そう言ってフェネルはニヤリとした。
冗談だよな?
でもフェネルは冗談を言わない。言わないはずだが、今のフェネルは言ってもおかしくない。
冗談であることを祈ろう。
そのやりとりを見たロゼッタは俺とフェネルを交互に見た。
「フェネルちゃんとケイさん、やっぱり仲良し! 」
そう言って、ロゼッタは満面の笑顔を見せるのだった——。
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