第11話 仕立て屋(2)
「おっ、お客様ァ!! 私の名前はミリーと申します! どうかお見知り置きを! お洋服をお求めでしたらっ! 私どもにお任せ下さい!」
かなり興奮しているようだ。
俺も大概だとは思うし、カレンもなかなかだった。しかし、このミリーという女の子には及ばない。
魔巧人形に対する情熱が振り切れている。
変な趣味に走っていなければ、情熱溢れるこの店は当たりかもしれない。
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「マスター、これ可愛いですか?」
試着室のカーテンが開き、両手を身体の前で重ねて祈るようなポーズをとったフェネルが俺に尋ねてくる。
「ふむ。ドレスというよりは気軽に着られるシンプルなワンピースだな。涼しげで可愛い」
「おおー。よいです」
「さすがです。ケイ様は分かっていらっしゃる。さすが、フェネルさまの管理者……いえ、マスターですね」
「そう。マスターはすごいのです」
「うう……なんという尊いご関係……」
大げさに涙を拭うような仕草をするミリー。
どこまでが本気で、どこまでが営業トークなのか分からない。たぶん本気で涙を流していると思う。
「ところで——」
ミリーはメガネをくいっとあげると、すっと俺の隣にやってきて耳元でささやく。
「あの……こちらのフェネル様ですが、肌の継ぎ目がまったく見当たらないのですが?」
その声音が真剣なものになっていた。
「ああ、そうだな。さすがに気付くか」
「ええ、そりゃあもう。しかも、温もりがあってしっとりとしていて——まさか私を騙しているわけではありませんよね? 本当は人間でしたーとか言いません?」
「何のことだ? 魔巧人形だと気付いたのはそっちだろ?」
「それはそうですが——。近づくほどに人間としか思えず、自信が無くなるのです」
そういって、ミリーはうっとりした瞳でフェネルを見つめた。
視線には妙な、熱いものが含まれている。
だ、大丈夫かなこの人。
とはいえ、彼女の言い分はもっともだ。俺はもはや、フェネルを魔巧人形として見れていない。
人間のように、魂や心がある存在だとそう思っている。
じゃあ、それは何か……魔巧少女?
「奇遇だな。俺もそうだ」
「そ、その……お二人は……恋人のような関係なのですか?」
その唐突な言葉に、フェネルが反応する。
「こいびと? マスターと私が?」
二人の反応に、俺は慌ててしまう。
「い、いや、そう言うのではなくて——」
俺が怯む姿を見て、フェネルは首をかしげ、ミリーは何かを察したのかニヤリとした。
「なるほど。分かりました」
「何がですか?」
「いえいえ、全て言わずとも分かっております。フェネル様、じゃあ、次はこちらにしましょーねー」
何か誤解があるようだけど、ミリーは意気揚々とフェネルを試着室に連れて入った。
ミリーがフェネルに色んな洋服を着せている。その上で、服に合わせたポーズを指示しているようだ。
着替えているとき、何か会話をしているのが聞こえる。詳しい内容までは聞き取れないけど、フェネルは熱心に聞いているのだと思う。
すぐにフェネルは嫌がると思ったのだけど、意外とノリノリで俺に聞いてくる。
「こ、これは似合っていますか? マスター」
今度は清楚なドレスだ。白を基調とした格式張ったもの。こういうのもあるのか。
「似合っている。綺麗で可憐だ」
フェネルは、はにかみ嬉しそうにしていた。
そして、なぜか水着や、メイド服、さらには学校の制服のようなものや、スーツなど。
ミリーの趣味なのだろうけどフェネルを様々な服に着替えさせ、俺に見せてきた。
俺はどれを見ても似合っていると思うので、参考になっているのだろうか……?
まあ、フェネルも心なしか楽しそうだしいいか。
「ああっ。どれもこれもお似合いになります! かわいい……」
ミリーは完全に趣味に走っていた。仕事しろ。
それでも、着替えるたびに鏡を見に行き手足を動かしてポーズを決めるフェネル。
今までにない、こういう時間を楽しんでいるように見える。
とても素敵なことだ。
俺はそんなフェネルを温かい目で見守ったのだった。
結局、数着の洋服を買うことになった。
オシャレにはお金かかる。
本来は同じ規格であるはずだけど、どれもサイズが少し異なるようで、直して貰うことになった。
「不思議ですね……どれも規格に合わず胸の辺りが少しキツく、腰の辺りは余裕がありますが」
首をかしげるミリーさんだが、今日の夜には修正ができるみたいだ。
「じゃあ、ミリーさんありがとう、また明日」
「どれもよい。また着てみたい」
「はい、その、お手数をおかけします! それとは別に、是非お二人に着て頂きたい衣装がありますので準備しますね。また明日の朝、お待ちしております!!」
……お二人?
一体何だろうと思いつつ俺たちは店を後にする。
何かの成分をしっかり吸収したミリーは、満面の笑顔で俺たちを見送ってくれたのだった。
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