第10話 仕立て屋(1)
俺たちは宿屋をとりのんびりする。
風呂は2回目だと一緒に入る意味はあまりない。でも、フェネルが楽しそうなので、また一緒に入ることにした。
もっとも、相変わらず俺は目のやりどころに困ったけど。
そして就寝して……次の日。
俺たちは市場に出かける。フェネルの服、普段着とか寝るときのパジャマとか揃えたい。
「……ん」
フェネルが鏡を見ながら、ロゼッタからもらった一輪の花を前髪の横につけようとしていた。
しかし昨日と比べて少ししなっとなっていたので、やりづらいようだ。俺はその花を受け取り前髪に飾ってやる。
「マスター、この花、昨日と違います」
「そうだな。もって今日いっぱいかなあ? 明日には萎れてしまいそう」
「命——マスターも、そうなるのですか?」
俺が萎れるのはまだ先だと思うけど。
命と口にしたフェネルの瞳が揺れているように見える。
戦場で人の死に接することは珍しいことではなかった。そのことを思い出しているのだろうか?
「ははは、フェネル、花の命は短いかもしれないけど、俺は当分死ぬつもりはないぞ。フェネルと一緒だ」
「そうですよね、はい、マスター」
フェネルの表情が少し緩んだように見えた。
「ところで、フェネルはこの花をくれたロゼッタのことは結構気に入っているのか?」
「あの人間は、小さいので私と同じです」
そうはいっても、フェネルの身長はロゼッタよりかなり大きいのだけど。
親近感ってやつ?
「時々遊ぶのもいいのかもな。とはいえ、剣の整備が終わればこの街を出ようと思っている」
「もう会えない?」
「いや、同じ国内にいるんだ。いつでも会えるさ」
★★★★★
俺たちは他愛もない会話をしながら街に出た。
目的地は服の仕立て屋だ。ただ、俺はそれほど期待していなかったのだが……。
「おおおおおお。魔巧人形の服飾専門店があるのかっ!?」
「マスター、興奮しているのですか?」
確かに、市場は人も多かったけど魔巧人形の数も多かった。
どの魔巧人形も、綺麗な服を纏っていて可愛らしかったしカッコいい。ビシッとスーツを着こなして格好いい魔巧人形もいた。
帝国とは大違いだ。
「いらっしゃいませ。きょうは おにくが やすいですよー」
「きょうは どのようなものを おさがしですか?」
話し方も帝国の魔巧人形たちと比べても流暢だ。
なにより魔巧人形の洋服の専門店があるとは——俺は興奮を抑えられない。
「フェネル、入るぞ!」
「は、はい……? マスター。了解しました」
若干、俺の顔を見てフェネルが引いているような気がしたけど、気のせいだろう。
★★★★★
「いらっしゃいませ」
出迎えてくれた魔巧人形も、綺麗で上等な布を用いた洋服を着ている。
店内は、たくさんの洋服が所狭しと並んでいた。
人間と違い、魔巧人形には規格があり体型の組み合わせは限られているので、既製品を用意できる。
もっとも帝国には小さな店しかなく、だいたいどの魔巧人形も同じような服を着ていた。
しかし……この品揃えは……素晴らしい。新製品と書かれたものもあり、どんどん移り変わのなら、皆が同じような服を着ることもないのかもしれない。
「こんにちは。この子に合う服を見たいのだけどいいかな?」
俺がそう言うと、店の主人らしき人がぱたぱたとやってきた。
歳は俺より少し歳上だろうか。メガネをかけた女性だ。
「あっ、申し訳ありませんお客様。弊社は魔巧人形の洋服専門店で、人の洋服は取り扱っておりま……」
そこで、言葉が詰まる店主さん。
メガネの縁が一瞬キラッと光ったように見えた。
「お客様、もしかしてこちらは……信じられません……魔巧人形なのでしょうか?」
最近、俺はフェネルを魔巧人形だとひとくくりにするのに少し抵抗を感じている。とはいえ、そう言った方が話が早いのが確かだ。
「ああ。人ではない。だけど、魔巧人形ともちょっと違う」
「私はフェネル。偉大なるマスターによって生み出された。一番の魂を持つ魔巧人形」
フェネルの人間と変わらぬ声を聞き、店主さんは目を見開き、鼻の穴が広がっていく。
興奮しているようだ。
「…………フェネルさま……ですか……これは……ヤバい……こんなお客さまをお迎えできるとはっ!!」
またメガネの縁が光った。それに、なんだかブツブツ言い始めたぞこの人。
店の選択を間違ったか?
「マスター、この人間——メガネ女、変です」
あ、うん。俺もさっきこんな感じだったかもしれない。
俺は冷静になった。
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