第6話 最初に貰ったもの(2)
俺たちは、リアラとロゼッタを馬車に乗せルズベリーの街に着いた。
街は周囲をごつい城壁に囲まれていて、要塞のような印象を受ける。
城壁の高さは五階建ての建物くらいありそうだ。
昔からあるわけじゃなく、壁自体は新しく見える。
入り口の門も大きい。馬車が数台並んで入れるくらいの巨大なものだ。
城壁も分厚い。単なる壁というよりは、建物のように中に部屋がありそうだ。
実際、所々窓のようなくぼみがある。
「——はい、話は聞いております。ケイ殿と、フェネル殿ですね。あとは、リアラとロゼッタ」
アンベールさんが話をしてくれたようで、難なく街に入れそうだ。
しかし……視線がなんか痛い。
「隣の子、小柄だけど可愛いな」
「後ろの子、武器屋の受付孃じゃないか? 彼女もなかなか」
「っていうか、どうして男一人混じってんだよ。ハーレムか? ……羨ましい」
そんなのじゃないのだが。
城門をくぐると、そこはとても賑やかな街があった。多くの店が立ち並び多くの人で賑わっている。
しばらく馬車を走らす。リアラの案内で、俺たちは市場を抜け彼女が受付をやっているという武器屋に着いた。
何人か受付がいるほどの大きな店のようだ。
「ロゼッタもここなのか?」
「うん! リアラと一緒に住んでるの」
なにか色々事情がありそうだけど、深く詮索しないようにした。
「じゃあ、ケイさん、早速武器を選びます?」
「そうだな。下取りもしてるんだよな?」
「はい、もちろん。帝国産の武器は品質が安定しているので、高く買い取れますよ」
俺は頷いて、フェネルに剣を抜かせた。鞘から抜き刀身が現れる。
ヴォーパルウエポン。アンベールさんとの戦いでちょっと刃こぼれしている。
「じゃあ、これを売って……できれば魔剣が買えるといいが。フェネル、その剣を渡してくれ」
「…………は……い。マスター」
うん? 歯切れが悪いな。フェネルはいつもと違い俺から視線を逸らして答えている。
「フェネル、どうした?」
見ると、フェネルはヴォーパルウエポンを大事そうにぎゅっと抱えていた。
「はい……マスター」
すごくゆっくり、俺にヴォーパルウエポンを渡そうとするフェネル。
そうか。その様子を見てピンと来た。
きっと、この剣を俺に渡すのがイヤなんだな。
別に命令しているつもりはない。でも、フェネルは俺の言葉に従おうとする。
何かの理由があり、従いたくないようだ。
フェネルの葛藤が行動に表れている。
「ごめんなフェネル。その剣を手放したくないんだよな?」
そう言うと、フェネルの口元が緩んだように見えた。
俺の言うことに従い、イヤだと決して言わなかったフェネル。
これから先は、二人でどうすればいいか考えていこう。
「は……い」
俺のことを慮ってくれるのは嬉しい。でも、フェネルの気持ちをないがしろにまでして、俺に従う必要は無い。
「そうか。これの代わりに、もっと強い剣が手に入るとしても、これがいいのか?」
「はい……マスター」
リアラが協力してくれるのなら、もっといい剣に替えることができる。
でも、フェネルはこれが良いという。
「理由を教えてくれるか?」
「これは、マスターが最初に与えて下さったもので、世界に一つしかないものです。私の……私だけのもの」
単なる武器なのに、フェネルはそれほどの愛着を感じていたんだな。
「この武器も、この洋服も——この魂も。全てマスターから頂いた、私だけのもの……です」
俺は口元が緩む。どうしてか嬉しい気持ちが込み上げてくる。
フェネルの気持ちを拒否する理由など、もうどこにもない。
「わかった。じゃあ売るのをやめよう。その剣はフェネルのものだ。ずっとこれからもだ。代わりに、強くなるように鍛えて貰おうか?」
そう言うと、顔を上げ嬉しそうに微笑むフェネル。
なかなか、ぐっとくる表情を見せてくれた。
「マスター……はいっ!」
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