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第5話 最初に貰ったもの(1)

 再びじじいと呼ばれたアンベールさんは、目を細めてフェネルを見つめた。


「フン、元気そうじゃないか小娘」

「じじいよりは元気」

「ハッハッハ、それはそうだ。だが、あの後動けなくなったのではないか?」

「うっ」


 珍しくフェネルが押されている。

 あの後とは模擬戦の後のことを言っているのだろう。少し俯きかけたフェネルにアンベールさんは優しい口調で言った。


「フッ、儂と戦ったのだからな。だが、あまり無理をするな。いざというときは儂みたいな老いぼれに任せろ」

「ん、そう言うなら」


 素直に従うフェネル。よかったよかった、二人は和解してくれたようだ。これから仲良くしてくれるだろ——。


「——でも、私の方が強い」

「フン、ではもう一度勝負するか?」

「望むところだ」


 前言撤回。やっぱり仲悪いのかも?


「ちょっと待ったー! アンベールさん、お久しぶりです。もしかしてルズベリーに駐屯しているのですか?」

「フン、ケイ殿、もう少し小娘の態度をだなぁ。ま、いいか。その通りだ」

「いつからなのでしょうか?」


 その言葉に、アンベールさんはふむ、と顎に手をやった。

 そこにもう一人の騎士が割り込んでくる。この人もあの模擬戦の時にいたな。


「久しぶりっ! フェネルちゃんにケイ殿。アンベールさんは二ヶ月前からここに——」


 ゴンと鈍い音が響く。

 みると、アンベールさんが話をしかけた騎士の脳天に鉄拳を食らわせていた。


「痛った! 痛いです!」

「フン。余計なことを……せっかく副団長に昇進したのだろう?」

「うぅ、ひどいよアンベールさ〜ん」


 軽い副団長だな。彼とアンベールさんの間には信頼関係が築かれているようだ。


 だけど気になる。アンベールさんが国境に近いこの街に着任したことがほんの二ヶ月前。

 実力者を王都ではなく、辺境である国境沿いに置く意味。そして、国境を越えて帝国軍の斥候部隊が入り込む意味。

 嫌な予感しかしない。


「フン、ケイ殿。そういうわけで、そこの二人は引き取っても良いな?」

「はい、お任せします。後で聞き出したことを教えて貰えれば」

「フン。確かに王国民を救って頂いたわけだし、多少の情報提供はできるだろう」

「じじい、けちくさい」


 ちょっ。

 その言葉に、俺は慌ててフェネルの口を塞いだ。せっかくいい感じなのだから、怒らせないようにしないと。

 下手すれば俺たちも帝国のスパイだと疑われても仕方ない状況だ。

 もっとも、カレンには全部話してあるし、彼女と顔見知りのアンベールさんなら大丈夫だろうけど。


「ハッハッハ。そうだな、ケチクサいのは良くない事だ。どうだ? ケイ殿。色々察しているようだが、王国軍にこの小娘と共に入る気はないか? そうしてくれれば、情報も提供しやすい」


 またスカウトされてしまった。

 でも微妙なところだ。軍隊に入ってしまうと行動も制限されるし魔巧少女やフェネルのことを調べる時間が失われるかもしれない。


「か、考えておきます」

「そうか。もし軍に入れば、恐らくはカレン陛下直属の親衛隊に——」

「えっ?」

「いや、なんでもない。まあ、考えておいてくれ」

「はい、ありがとうございます」


 アンベールさんはそう言って、帝国軍の兵士を連れ去って行った。

 去り際にあの軽い副隊長が「今度会ったらフェネルちゃんのサインをくれ」と言っていた。


 サインか。もしかしたら、今後こういうことが増えるのなら考えておいた方がいいのか?


 それはともかく、去って行く騎士団を見て俺は不安になる。


「マスター?」


 フェネルが首をかしげて俺を見ていた。


「フェネルはさ、これからどうしたい?」

「私は、マスターの側にいられたら、何でもよいです」

「何かやりたいことはないのか?」

「マスターと一緒なら、何でも」

「じゃあ、また戦う日々を過ごしてもいいのか?」

「はい、もちろん」


 フェネルは一切の迷い無く答えた。それはそれで悩むところだ。

 フェネルにはいろいろな可能性があると思うんだけどな。


 それを見つけてあげるのも俺の役目なのだろう。 

 俺はフェネルの頭に手を置き、撫でる。するとフェネルは目を細め、微笑んだ。

 可愛らしい仕草に俺は目を奪われる。


 フェネルの可能性、か。いつか俺から巣立つときが来るのだろうか。

 とはいえ今しばらくは——。


「じゃあ、一緒にいるか」

「はい、マスター!」


 フェネルの声は弾み、満面の笑みを浮かべていた。

 彼女の瞳が輝き、期待に満ちているのが分かる。

 俺も心の底から、フェネルと一緒にいることを楽しみにしていた。


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