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第2話 自覚

「ボクはこれでも帝都での剣闘士大会で優勝したことがあるんだ」


 兵士の一人が得意げに言い、俺の方に近づいてきた。その態度は少し子どもっぽく、無邪気な印象を与えた。そう言われると見覚えがある。

 男は、目の前までやってきて俺めがけて剣を振り下ろした。


「ふっ」


 それを僅かに身体を反らし避ける。

 しかし、意図せず右腕に持つ短剣の柄が、兵士の顔面にヒットした。

 偶然とはいえこの男は運が悪い。たまたま手を伸ばしたところに顔を移動させたのが悪い。


「いでぇえええ! いてえっ! ど、どうしてボクが……?」


 鼻血を流しながら、涙目で言う男。

 大会で優勝してるって?

 その割に動きが遅い。判断が鈍い。だから避けられるし、逆にカウンターを入れることもできそうだ。


「ぶつけるつもりはなかったのだけどな」

「ひいっ! 凄腕じゃないか」

「凄腕? 俺は強くない。本当の凄腕は俺のツレだ」

「はあ?」


 そいつは再び立ち向かってくるけど、やはり遅い。

 俺は普段からフェネルの動きを目で追っていて、その神速とも言えるスピードに接している。

 その上、俺は戦いの展開を先読みして指示をしないといけない。

 もしかして、フェネルの速度に慣れてきた成果がこれか?


 今までの戦場に比べたら、こいつの動きは子供と遊ぶようなものだ。


「なっ、なんで攻撃が当たらないんだ?」

「攻撃ね。じゃあ、こっちも仕掛けるぞ?」


 俺は短剣で肩口を切りつけ、その無防備な腹を蹴った。

 大会で上位になれる実力者に攻撃が当たった。たいした戦闘力は俺にはないのにどうしてか?

 実はハッタリだった?


「ぐあっ……お前……ば、化け物か」

「はあ? フェネルに比べると俺なんか毛虫のようなものだよ」


 そう言って笑いかけてやると、その男は腰を抜かしたのか倒れ、怯えたように後ずさりする。

 この程度の傷で戦意喪失とは本当に軍人なのか?


 さて、次はもう一人の男だ。そいつは身動きの取れない女の子二人に向かって駆け寄ろうとしている。

 どうせ人質に取るつもりなのだろう。


「卑怯者が」


 もちろんさせるつもりはない。

 俺はその男にあっという間に駆け寄り、前に立ち塞がった。

 そして、声をかける。


「さあ、正々堂々とやろうか。第二ラウンドだな」

「……う、うるさい! 何だそのスピードは?」

「はぁ?」


 男は顔を青ざめさせている。スピードなんぞ俺にはない。

 やはり緩慢な動きを見せる男。勝負はあっという間につく。

 俺はすれ違いざまに足を引っ掛け、男を転倒させた。そしてそのまま背中に足を置く。


「ぎゃぁあああああ!!」


 男が悲鳴を上げる。


「人質を取るなんてやめなよ。みっともない」


 俺はそう言って二人を拘束する。何だこいつら……?


 弱い。弱すぎる。きっと、軍隊の訓練をサボっていたのだろう。

 俺はフェネルの方に視線を向けた。


 当然のように決着は付いている。

 魔巧人形グリーングラスは胴体が大きく損傷していた。機能を停止し、その場に崩れ落ちていた。


「マスター、すごいです」


 唐突にフェネルが駆け寄ってきてキラキラした目をして言う。


「うん? 何が?」

「さっき、凄いスピードで……。私を超えそうなくらい」

「え?」


 いやいや、そんなハズはない。アイツらが遅かっただけだよ。

 フェネルはいつの間にお世辞が言えるようになったのか? 

 まあ、最近の変化を見ると何が起きても不思議じゃない。


「さすが、マスタ——」


 その時、何か視界の端に動く物があった。

 視線を向けると、倒したはずのグリーングラスがゆっくりと立ち上がるのが見えた。胸部が破壊されていたはずなのに、今は元に戻っている。

 その光景に、俺は不安と驚きを感じながらも、フェネルと共に立ち向かう覚悟を決めた。


 胴体を破壊すればだいたい止まるのだからフェネルの対処は正しい。だが、コイツは——。


「コイツ……再生しているのか? フェネル、今度はバラバラにしてやれ!」

「はい、マスター!」


 神速で駆け出すフェネル。細身ながら背の高いコイツをバラバラにするのは苦労しそうだ。

 すると背後で、俺が拘束した男がフッと鼻で笑った。そいつは耳にイヤリングのようなものを付けている。


 その瞬間……グリーングラスの纏う防具にひびが入り飛び散った。そして、グリーングラスの身体が変化していく。

 背丈が伸び高くなり、ひょろひょろながら、その大きな緑色の肉体が姿を現した。

 それは、俺たちが南部戦線で時々見かけた魔物——。


「トロール!? いや、トロールロードか」


 緑の巨人。背が高く細身だが、強烈な自己再生能力を持っている。


「バーカ。魔巧人形なら倒せるかもしれないが、コイツはどうかなぁ?」


 ニヤリとして男が言った。


 しかし、俺は「勝ったな」と思う。

 今まで俺がこう思うときはだいたいフラグだったけど、今回は大丈夫だろう。


「オンナ——オンナ!」


 覚醒しつつあるトロールは接近するフェネルを見た。

 この魔物はオーガなどの巨人族と同じく男しかしない。繁殖は人間の女性を利用して行う。

 従って当然、フェネルをターゲットにする。だけど、


「ウグゥッ!?」


 突然、うめき声を上げるトロール。見れば、その腹部から大きな刀身、ヴォーパルウエポンの切っ先が突き出していた。

 どうやっても、フェネルが負ける理由がみつからない。

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