第1話 意識を共有して
帝都で出会った人形技師、カレンのいる国、エストラシア王国に入った。
途中、軍の部隊を見かけたけど俺を探している様子はない。
エストラシア王国のことはカレンに話を聞いていた。
まずは、国境を越えて最初の街、ルズベリーに向かう。その街に駐屯する数名の騎士と合流し、共に王都まで向かう予定だ。
「マスター、見えました。あれがルズベリーでしょうか?」
馬車を走らせてすぐ、街、というには小さい集落のような家の集まりが見えた。周囲は荒れ地が広がっている。
近づくにつれて、違うのでは? という思いが募る。
予想は正しく、そこは廃墟だった。住居は朽ち果てていて今にも崩れそうだ。
ここには何も無い。そう思って、出ようと思ったところ……。
人の気配を僅かに感じた。
「キャアアッ!」
女性の声が近くから聞こえる。
俺は馬車を降り、その声の方向に走る。それに連なるようにフェネルがやってくる。
「マスター」
「ああ、急ごう」
集落の中心部に着いた。これは精霊神を信仰する教会……なのか?
堅牢な作りのようで、周囲の建物と違い朽ちていない。
俺は周りを見渡す。悲鳴の主が——いた。
教会の横で腰を抜かしたように地面に座り込んでいる女性。俺と同じ歳くらいだ。彼女は、小さな女の子を抱えている。
恐怖に満ちた目で見つめる先には帝国軍兵士が二人いる。
ここはエストラシア王国だ。帝国の兵士がどうしてここに?
さらに細身の魔巧人形が一体。アレは……偵察専門の魔巧人形、グリーングラスか。
戦闘力はさほどないものの、背が高い割にスピードと観察眼が優れている。
「何をしている!?」
俺が思わず声をかけた。
見ると、女性の方はわずかに服が乱れている。兵士の一人が女性の服を剥ごうとしていたようだ。
まだ酷いことはされていないようだが、俺は怒りを抑えながら問いただす。
「どう見てもその子たちは非戦闘員だろう。何をしている?」
「ああん? 何だお前は。ほう、この国は美人が多いと聞くが、また『当たり』とは。今日は運が良い」
兵士はフェネルを見てニヤついた。その端正な顔を見て、舌なめずりをする男。
「小柄だが……まあいい。買い手はいくらでもいる。その前に味見をしなければな」
まったく話が通じない。この兵士たちの態度は異常だ。明らかにおかしい。
帝国兵は軍規に忠実なはずだ。少なくとも俺たちがいた南部戦線ではそうだった。
「何を言っている?」
「うるせえなぁ。グリーングラス、あの女を拘束して連れてこい。邪魔者は排除しろ」
「リョウカイ」
ダメだ、こいつら。本当に軍人なのか?
俺はフェネルを見た。
「行きます」
「ああ、そっちはまかせた」
フェネルは頷くと地面を蹴った。そして一気に間合いを詰める。
しょせん戦闘用でもないグリーングラスなど大した敵ではない。俺はそう思うものの油断せず精神を集中して戦局を見守る。
あの魔巧人形、よく見ると見慣れない首輪をしている。この前フェネルがしていたものとも違うものの、デザインが似ていた。
どんな能力なのだろうか?
この魔巧人形グリーングラスは標準機と何か違うようだ。
『最初は様子見だ』
俺は声を上げてフェネルに伝えようとした。
その瞬間……!
『は……い……マ……スター』
頭の中にフェネルの声が断片的に響く。
これは……俺の考えていることがフェネルに通じている? そして俺も、フェネルの思いを受信しているのか?
「おっと、よそ見は禁物だぜ。お前はオレたちが殺してやる」
先ほどの兵士が一人、こっちに向かって剣を構えて近づいてくる。
俺は男たちの緩慢な動きに溜息をつき、懐の短剣を抜き構えた。
『マスター?』
『大丈夫だ。フェネルは目の前の魔巧人形に集中しろ』
俺はさほど強くない。
軍で身体は鍛えていたものの、戦闘職には及ばない。
目の前の男は偵察部隊だろう。恐らく、多少の戦闘をこなすだろうし、訓練も受けている。
俺にとっては強敵のハズだが……しかし1対1でも負ける気がしなかった。
とてつもなく男の動きがゆっくりに見える。次に何しようとしているのかが見える。
こんなことは初めてだ。フェネルと繋がっていることに関係があるのか?
俺の思考が加速するように感じる。まるで、脳の働きをフェネルが肩代わりしているような……?
対峙する男は俺の「やる気」を見て口元を歪める。
「連れの女を置いていけば許してやろうと思ったが……へえ、僕と戦うつもりか?」
「だったら?」
心配そうに俺の方を見るフェネルに気付く。
大丈夫、心配はいらない。
俺はフェネルに思念を送る。
『俺のことなど気にせず、好きに戦え。問題ない』
『マスター……はいっ! 了……解!!』
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