第17話 夢の先へ
罪悪感と羞恥心が俺の胸を締め付ける。
フェネルは恥ずかしそうにしながらも笑顔を崩さずに言った。
「マスターは眠ってて、でも私……」
「う、うん?」
「マスターが眠ったあと、目を瞑ったら頭に映像が浮かんできたのです。その映像を見ていると、まるで本当にマスターに触れられている感覚があって——あの映像はマスターが私に見せていたのでしょうか?」
え、俺が見た夢をフェネルが共有したってことか?
普段の夢ならいいんだけど、昨日のは、ちょっとフェネルに見せられない。
もし見られた非常に恥ずかしい。俺の頬が、顔がさらに熱くなる。
「ちちちち、ちなみにどどどどどんな映像?」
「そ、その……抱き締められて……その……私の中に、マスターの身体の一部が入ってきて——」
「えっ」
間違いない。俺が見た、煩悩満点な夢だ。フェネルとベッドでずうっとイチャイチャする夢だ。
——終わった。
「すごかった……です」
「はっ——ははは」
乾いた声が俺の口から漏れる。
「でも、情報量が多くてあまり整理できてなくて」
俺が夢で見たフェネルのように、目の前の彼女も顔を赤くし、両手で顔を覆っている。
フェネルらしくない仕草だ。でもこんな一面を俺は夢で思い描いていた。
普段しない態度をフェネルに求めた俺の煩悩っていったい……恥ずかしさのあまり言葉が続かない。
「「〜〜〜〜!!」」
現実では指一本フェネルに触れてなかったことに安心をしつつも、俺の煩悩を見られたような気がして恥ずかしい。
夢とはいえ、とてつもなくリアルだった。
まるで、本当に触れているようなフェネルの肌の温もりがまだ身体に残っている。
フェネルはどう感じたのか分からないけど……どうなのだろう?
嫌な思いはしてないみたいだけど。
気まずい空気の中、お互い顔を真っ赤にして、うつむいてしまう。
「じゃ、じゃあ、出発しようか」
「は……はい、マスター」
☆☆☆☆☆☆
顔を赤くしたまま、俺たちは夜の間に洗濯が終わった衣服を受け取り着替え、ロビーに降りた。
俺たち二人の様子を見て、受付の人たちが何やらヒソヒソと話しているのが聞こえる。
「あんなめちゃくちゃ可愛い子と泊まるなんて……どう見ても事後だ……羨ましい」
「オイ、あまりジロジロ見るな。金払いがすごくいいお客さんだぞ」
「でもさあ、あんなに恥ずかしがって……かわいい。僕もあんな子と泊まりたい」
何を言っているんだ。俺はフェネルに(夢は別として)お前らが想像しているようなことはしてないぞ。
フェネルもそろそろ元に戻り……っておい、フェネル。どうして未だに顔を真っ赤にして恥ずかしそうに視線を床に落としているんだ。
俺は気にしないことにして話しかけた。
「チェックアウトします。二人乗れるほどの馬車はありますか?」
「はい、ありますが」
「では、それを二頭立てで買います」
「あっ、ありがとうございます!! かしこまりました」
宿代を払ってから馬車に乗り込み走り始める。
フェネルは手綱を握り前方を見つめている。
「フェネル?」
「はい、マスター」
いつもと同じ調子。これはフェネルの気遣いかもしれない。
でもこんなやりとりにほっとしてしまう。俺たち二人の空気感はこれなんだ。でも、よーく見るとほんの少し頬が赤らんでいるのは気のせいなのか?
そんな気持ちをしまいつつ、俺は指示を出す。
「エストラシア王国まで二週間かかる。馬の様子を見ながら走らせて欲しい」
「はい。マスター」
適度に休憩を馬にさせつつ、俺が寝ている時もフェネルは眠らずに馬車を走らせる。
幸い、あのような、フェネルに欲望を向けるような夢を見ることはなかった。馬車で隣で寝ることがなかったのが良かったのか。
しかし、後もう少しで国境を越えようという時になって、フェネルがぼそりと言った。
「マスター。あの夢ってもう見ないのですか?」
あの夢。それは一つしか無いだろう。
俺の煩悩が丸出しになった夢だ。
「ああ、あれは……もう見ない」
たぶん、と心の中で付け加える。だって、夢だよ?
滝で水に打たれるような修行をしたら見なくなるっていうのなら、そうするんだけど。
俺は続けて言った。
「フェネルも、あんな夢見させられたら困るだろう?」
「え……いえ、私は……その続きを見られるのなら……見てみたい、です」
歯切れ悪く、やや俺から視線を外すフェネル。らしくない態度だが……どうしてそんな姿にかわいいと思うのだろう。
不思議だ。
「そ、そうか」
っていうか、続きって何?
その答えを聞こうとした瞬間、フェネルが顔を上げて口を開く。
「マスター、もうすぐ国境です!」
旅を続けて二週間。俺たちはようやく帝国とエストラシア王国の国境までやって来たのだった。
★★★★★
魔巧人形、魂、そして魔巧少女。
フェネルの秘密や将来を知ることができる、エストラシア王国に俺はいよいよ、足を踏み入れる。
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