第11話 じじいとの模擬戦・スキル【嫉妬の炎】(3)
『スキル【嫉妬の炎バーニングハート】を起動します』
その瞬間、ギュン、とフェネルが加速。投げられた剣に追いつきアンベールさんへ軽々と投げ返す。
なんだ? 【嫉妬の炎】だと?
何だこのスキルは?
凄まじくフェネルの脚力が向上している。恐らく他の部位も同様だろう。いつのまに新しいスキルを獲得していたのか、後でフェネルに聞いてみなければ!
「なにっ!?」
勝てると思っていたのだろう。アンベールさんは呆然としつつも反射的に剣を受け止め構える。
「フン、儂は目測を誤っていたようだ。悪かった、本気を出そう——」
そこに折り返しやってきたフェネルがやってきて、ヴォーパルウエポンでなぎ払う。
ガギィィィィンン!!!
金属同士がぶつかる音が周囲に響くと同時に、爆発を思わせる激しい火花が散った。
その中からアンベールさんの魔剣が飛び出して宙を舞い……地面に突き刺さる。
「フン、ちと遅かったか……まいった」
さらに距離を詰め、目前の首元に剣を突きつけるフェネル。
勝負あったな。
アンベールさんは両手を挙げた。決着がついたのだった。
「よし、剣を収めろ、フェネル」
「了解」
わあっ。
馬車の中のカレンやヴァレリア、そしてもう一人の騎士から歓声が聞こえた。
いや、負けたのあんたたちの国の実力者なんだけど、どっちの味方なんだ?
興奮したような俺の隣の騎士が感嘆の声を漏らす。
「いや、凄いな……本当に人形なのか彼女は? 臨機応変に戦い、ミスもしつつそれを取り返した。しかも、あのアンベールさんに勝つとは……信じられない」
「そんなに凄いのか?」
「未だに、アンベールさんは王国内で最上位の実力がある。それをたった一人で打ち負かすのは凄いことだ。つくづく、彼女が敵でなくてよかった。ようこそ、エストラシア王国へ!」
「ありがとうございます」
フェネルの動きに気になるところがあったけど、悪くない戦いだった。終わり良ければすべてよし、だ。
きっと、アンベールさんもフェネルのことを認めてくれるだろう。
勝ち誇るようにフェネルはアンベールさんに勝利宣言をする。
「どうだ。私の方が強い」
「フン、まだ本気を出していないワシに勝ったところでどうだというのだ?」
「意味不明。勝ちは勝ち。マスターを認めて、じじい」
フェネルはすました顔でアンベールさんに人差し指を向ける。
「フン、だいたい最後隙を見せたアレは何だ? 戦場ではすぐ死ぬぞ?」
「関係ない。勝ったのは私。私のマスターはケイ。だからマスターを認めて、じじい」
「フン、模擬戦だから無事に済んだのだ——」
ギャアギャアと二人は言い合っている。二人の会話は平行線を辿っていた。
フンと鼻息荒いアンベールさんは、やっぱりフェネルのことを認めてくれないようだ。
でも……妙にアンベールさんが嬉しそうに見える。
すると彼は何か思いだしたのか俺の方に歩いてきて、顎の髭を触りながら言った。
「フン、ケイ殿。先ほど、この者に何かしたか?」
あ。
もしかして、戦いの途中で俺が魔力注入して加勢したのがバレてる?
でも、それがどうした? と思うのだが。
フェネルが言うとおり、勝ちは勝ちだ。俺なんかやっちゃいましたか? と、しれっとしておくべきか?
アンベールさんの眼光は鋭い。
いやまあ、確かに俺は魔力注入をして加勢したよ?
でも、俺とフェネルは一心同体だ——いや、フェネルがどう思っているかは分からないけど、それに近いものだ。
それにアンベールさんだって、きっとフェネルが俺を助けようとすることに賭けて剣を投げたのだ。
だったら、俺も戦闘に参加していたと考えてくれないのか?
まあ本音を言うとサシでの勝負だったわけだけど、フェネルが負けるのは見たくなかった。
「はい。確かに魔力注入を行いましたが、何か?」
「注入? つまり、ケイ殿が魔力をあれに注いだと言うことか?」
何当たり前のことを聞いてくるんだろう?
俺はくびをかしげながらも、素直に答えることにした。
「はい。俺の魔力を分け与えました。それが?」
「フン、そうか。それがあの加速の正体か。その前までは本気を出していなかったと——」
急にアンベールさんの口角が上がる。
「ハッ。まだ本気を出す前に押されていた? 儂が? ……そうかそうか」
そう言って何やら溜めたと思ったら、
「ハーッはっはっはっは! 帝国軍に負けなしだと? 試そうと思って仕掛けたが、返り討ちにあった? これは傑作だ! 儂はとんだ自惚れ屋ということか! ハハハハハハっ!」
アンベールさんは空を見上げ盛大に笑い出した。
だ、大丈夫かなこの人……隣にいた騎士もその姿を見て驚いている。
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