第10話 じじいとの模擬戦・スキル【嫉妬の炎】(2)
腰に下げた剣の柄に手をかけるアンベールさん。それを見たフェネルは俺が背負っていたヴォーパルウエポンを抜いた。
あ〜もう! 俺はせっかく挑発に我慢しているのに……なんでこうなるんだ!?
「ちょっと、二人とも、止めませんか? ほら、真っ暗ですしやるにしても昼間の方が」
「マスター、私は夜目が利くので問題ありません」
「フン、敵はいつ攻めてくるかわからんのだ。夜だからとて戦闘を避ける理由はあるまい?」
だめだこりゃ。
アンベールさん。あんたもどうしてそんなノリノリなんだ?
だれか止めて。特にアンベールさんを。フェネルは俺がなんとかすればいい。
そうだ、カレンなら説得できると思って馬車を覗くと、窓に顔を押しつけるようにして二人の対決に釘付けになっているカレンとアヴェリア。
どちらが勝つのか興味津々のようだ。
おい。おい。
といいつつも、俺自身もこの勝負の行方に興味がある。
フェネルが対人戦にどれだけ対応できるのか?
俺はフェネルに目配せする。
勝て、と。
「フン、行くぞ!」
掛け声とともに剣を鞘から抜くと同時に斬りかかるアンベールさん。
速いっ!!
そして、フェネルはそれを受け止めようとするのだが。
ガギィィィィンン!!!
金属同士がぶつかる音が周囲に響き、花開くように火花が飛び散った。
「ほう、儂の剣を正面から受け止めるか」
「くっ」
ミシ、ミシとフェネルの剣が音を立てている。
というか、アンベールさんの剣って魔剣じゃないのか? ほのかに白く光っている。
一方のフェネルの剣、ヴォーパルウェポンはノーマルだ。俺の給料で魔剣はムリだった。
それだけでハンデなのに、なんだあれ?
アンベールさんの人ならざるスピードとパワーに驚く。
俺は南部戦線しか知らないものの、あれほどの軍人は見たことがない。
「フェネル。相手は魔剣持ちだ。一撃も食らうな!」
「了解、マスター!」
戦闘はフェネルに任せ、俺は近くに騎士らしき人物がいたので声をかけた。
彼もこの戦闘に見入っていた。
「あの、アンベールさんってどんな人ですか?」
「ああ、我が国の正規軍で元帥まで上り詰めた方だ。十年前帝国軍の攻撃があった時に、一個大隊を単独で壊滅させたことがあるんだよ」
「……はぁ!? 単独、つまり一人で?」
そんな人が何でこんなところにいるわけ??
帝国軍では過去の話、特に負けた話が広がることはあまりなかった。とはいえ、噂程度にそんな戦があったことを聞いていた。
いや嘘でしょ、魔物でもないのにそんなことできるわけがないと思っていた。伝説が本当にいたとは。
フェネルにとっては人間サイズでここまでの力を持つ相手と戦うのは初めてだ。
それなのに、一歩も引けを取らない。
いや……それどころか、いつもならもっと力業で行くはずだけどセーブしているように見える。
「はっ!」
雄叫びをあげながら渾身の一撃を放つフェネル。それをアンベールさんは険しい顔をして受け止める。
「ふんッ」
そのまま力任せに振り払い、返す刀でフェネルの首を狙う。間一髪で避けるフェネル。そのまま次の突きを繰り出す。
これ模擬戦だよな? と思いつつ白熱する戦いにドキドキしてくる。
じっと見守る俺をフェネルが一瞬見た。そして、心配するなと言うようににこりと笑顔を作る。
今の表情……初めて見るな。
フェネルの表情に当てられた隣の騎士が感嘆の声を漏らす。
「なあ、今の顔……かわいすぎん? しかも互角、それどころかあのアンベールさんを押している。君の魔巧人形にファンになりそうだよ」
まあ、その気持ちは分からないでもない。さすが俺のフェネルだ。これは勝ったな。
「フェネル、来るぞ! よく観察しろ」
俺はアンベールさんが何か仕掛けようとしているのを感じた。
「はい、マスター!」
「フン、笑う余裕まであるのか」
そう言ってアンベールさんはニヤリとして……突然俺の方めがけて持っていた魔剣をぶん投げた。
「えっ?」
俺はびっくりしたものの、大丈夫。避けられそうだ。
しかし——。
「マスターっ!!」
血相を抱えたフェネルが投げられた剣を追いかけるように駆け始めた。
「フン、バカめ!」
アンベールさんが無防備なフェネルの背中を追いかける。
まずい。丸腰とはいえ、あの体格差で押さえ込まれたら終わりだ。そうなのだ、対人戦はこういう手を使われることがある。
俺にできることはただ一つ。フェネルの力を増すために、迷わず【魔力注入】を起動した。
フェネルの瞳が煌めく。
同時に、俺の頭に女性の声が響いた。
『識別名:フェネルへの魔力注入により、スキルの起動条件を満たしました。スキル【嫉妬の炎】を起動します』
なんだ? 【嫉妬の炎】だと?
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