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異形頭さんと僕。  作者: 和餅
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出会い。始まり。

静寂を保っている住宅街は、悲惨な状態だった。

窓ガラスは粉々に砕け散って道や部屋の中に散乱して、壁や道路にはヒビが入り、マンホールは歪んでいて。


「…え?」


「あ!やっとオきた?」


そんな世界の道の真ん中で目を覚ました僕は、呆然とするしか無かった。

辺りを見渡しても人の気配は無く、好き勝手に伸びた髪の毛を耳の後ろに掛けて、視界を晴らした。

まぁ、そんなことをしても、この現状が変わるわけもないし。

幸い衣服は着ているし、靴も履いている。

盛り上がってヒビの入っている頼りない道を進んで、人に話を聞くしかないだろう。


「あれ〜?オレのコエキこえてない?」


ちなみに、恐らくだけど僕の隣にいてさっきから話しかけてきてる奴は人ではない。絶対に。

反応しちゃダメなやつだ。幽霊とか、そういった類の。


「え!ねぇねぇマってよ〜。キミのアタマ、マネキン〜?あ!オレね、スイハンキ〜。って、あれ?ねぇ〜、」


歩き始めた僕の後ろをぴょこぴょこと跳ねながら付いてきている、一見すれば普通の男の子に見えるこの子の、頭は、この子の言葉通り、見た事のある、家庭用炊飯器そのもので。

どこに口があるのかも耳があるのかも目があるのかも分からないけど、僕に話しかけてくる。

本当に待って欲しい。なんで炊飯器に首が生えて人間の体が付いているのか、不思議で仕方が無いから。

というかなんだって?僕の頭が、マネキン?

何を言っているんだろうか。


「ねぇ、ムシしないでよ〜…」


きゅっと、服の裾を掴まれる。

掴まれた、ということは、この子は幽霊じゃない。実体を持ってる、そこに存在してるということで。

ヒュっと喉が鳴った。僕は、いま、ナニに話しかけられてるんだ?服を掴まれているんだ?

怖い、この存在が何なのか知らないから、余計に。

ただ、でも、さっきまで元気だった子の声がどうしようも無く悲しそうで、罪悪感というものが、痛んだ。


「ご、ごめん、なさい。」


恐る恐る、振り向いて声をかける。

怖い、凄く、怖い。

どうしよう、その頭、開くのかな…?食べられたりとか、しないよね?

下げていた顔を上げると、心做しか嬉しそうな炊飯器の男の子。


「! シャベった!!オレっ、オレね!スイハンキR-14だよ!」


「炊飯器?……ほんとに、え…いみがわからない……」


「キミはマネキンさん?シュベツバンゴウは?」


「え?僕は、僕、だけど…」


そもそもマネキンじゃないしね。

炊飯器R-14?種別番号?言ってる意味が分からない。

僕をマネキンとして認識してることもそうだし、当たり前のように種別番号?というものがあるこの世界が、怖い。

きっと僕の知ってる世界じゃない。日本じゃ、ない。


「ボク、っていうアタマなの?キいたことないけど、オリジナルかな?たまにいるよね〜!いいなぁ。」


オリジナル?僕っていう頭??

世界観がよく分からない…頭が混乱する、


「オリジナルってことは〜ツクった人がいるんでしょ〜?ボク。」


「え?作った?なに言ってるの?」


「…あれ〜?キオクソウシツ?ビョウイン行く?」


記憶喪失、病院。聞いたことのある単語が羅列されて、少し安心した。

そっか、そういうのは存在してるんだ。

……でも、人間は?いるのかな…いなかったら、僕、1人なんだ。


「ど、どうしよ〜…キオクソウシツならタイヘンだよねぇ…」


あわあわと僕の目の前で焦っている様子の炊飯器R-14君…は、きょろきょろと辺りを見渡して、誰もいないと知ると僕の手をとって、多分笑ったんだと思う。

俺の家来たらお医者さんいるから、と手を引っ張ってくるので、ならば色んなことが聞けるかもしれないと思い、ついて行くことにした。

進む道は、ヒビのはいっていたものから綺麗に舗装されたものに変わっていく。

ボロボロの民家も、よくみる綺麗な家が綺麗に並んでいて。

さっきの場所はなんだったんだろう…なんで、あんなにボロボロだったんだろう、僕は、なんであの場所にいたんだろう。

確か、だって、家のベッドで寝てたはずなのに。


「ついたよ!ここね、オレのイエ!」


ただいまと、大きく声を上げて玄関を開けた先、お帰りと扉の向こうから顔を出した人の頭を見て、僕は固まった。

だってそれは、宙に浮かぶ聴診器で。

首なんてものもないのに、まるでそこに顔があるような感じで、浮いている、それ。

体はある、頭が聴診器で、でも首はない。

なのに、なのに、


「おや?R君またお友達を連れてきたんですか?」


僕の方を向いて、僕を見ている。

確かにそう感じた。

視線が痛い、なんて、この人に目はないのに。


「うん!ボク、キオクソウシツなんだって!」


「僕?それがこの子の名前ですか?」


「ナマエキいたらボクってイってたの。キいたことないからオリジナルかなってオモったんだけど、ツクりヌシがワからないみたいで。」


上がってくださいと案内されて、リビングに通されて、ソファに座って落ち着かないと度々腰を浮かしていれば、目の前にコップが置かれる。

思わず見上げれば、聴診器の人と目が合ったような気がして、気不味くて顔を逸らし、気持ちを落ち着かせるためにコップにはいっていた麦茶を飲み干した。

正面に座った聴診器さんと、隣に座ってる炊飯器君…さっき聴診器さんにR君と呼ばれていたからそれが名前なのかもしれない。

聴診器さんとR君が会話をしていて、僕は蚊帳の外。

どうやらこの世界には作り主、という人がいるらしい。

その人がオリジナル、と呼ばれる個体を作り出している、と。


「もしかして、君、古代人では?」


「古代人?」


「えっ?そうなの?オレ、コダイジンハジめてミた!」


そうなると……、一体どこから……、なんてブツブツと呟き始めて、部屋の隅に設置されている本棚に向かってしまった聴診器さんは、僕の事を古代人と呼んだ。

キラキラと目を輝かせているR君の様子からして、その古代人という人は余っ程珍しい存在らしい。

もしかして、もしかしてだけど、

嫌な予感が頭を過る。


ここが、未来の世界で、古代人というのが、人間の事だったら、


いや、でもだって、そんなことはありえない。

だって、ここが本当に未来の世界なら、なんで僕がここにいるの?

なんで、生きてるの…?


「コダイジンってセイブツメイショウテキにはニンゲンっていうんでしょ?ボクはニンゲンなの?」


「え、う、うん…人間だよ。」


「説明した方が早いですね……西暦で言えば3078年に第三次世界大戦が起こりまして、その際に使用された化学兵器が私達異形頭なのです。ほら、R君なんかは家電に擬態出来るでしょう?」


「あ、確かに…」


「私達異形頭は呼吸器が存在しませんし、身体も合成皮膚などで作られたものなのです。なので、放射能の影響を受けなかったんですよ。まぁ、人間達は確り人間なので放射能の影響を受けますが。」


放射能、という単語に、すぐにピンと来てしまった。

分かってしまった、なんで僕がいた場所が荒廃していたのか、なんで人間がいないのか、なんでこの人達が存在しているのか、その、全てを。

でもまだ1つだけ分からないことがあって。


「あの、、なんで、僕はこの時代に、」


「…稀にです。放射能の影響でしょうか、それとも化学兵器のせいでしょうか、稀に時空が歪んでしまうのです。時に、無差別に人を攫ってしまうような、歪みが。」


……人間って馬鹿なのかな…化学兵器なんて作って、学びもせずに原爆使って、街を壊して、同じ人類なのに殺し合いして、

そのせいで、僕はこの時代に来てしまった。

夢だって思いたい。

だって、僕、まだお母さんとお父さんと、全然、過ごせてないのに…

酷いよ、なんで、僕ばっかり、1人、で……


「ねーねーセンセイ、ボクもイッショにスんでいいよね〜?」


「そうですね。住む家もないでしょうし、我々で保護した方がいいでしょう。」


「え?」


勢い良く頭を上げた。

優しく微笑んでいるような聴診器さんと、僕の手を掴んでよかったね、と大きく振るR君。

僕、1人じゃないの?

手を引っ張られ、部屋を案内される。


「これからよろしくねっ!」


そう言ったR君の顔が人間のように見えて、少し、安心した。












「僕」がいないリビング、本来は明るく照らしてくれているはずの空間は、ライトがあるにもかかわらず何処か薄暗い雰囲気を出していた。

食卓の椅子に腰掛けていた聴診器は、珈琲のはいったカップを手に取り、傾ける。

中の珈琲は無い空間にあてがわれ、溢れるはずの珈琲は、そこに口があるかのように吸い込まれてなくなった。

ふと顔を上げた聴診器は、リビングダイニングの出入りに向かって声をかける。


「R、おいで。」


「はぁいセンセイ。どうしたの?」


ずっと前からそこにいたであろうRが、少し焦ったような足取りで聴診器の元に駆け寄った。


「絶対に外で、僕の事を話しちゃいけませんよ。」


「…ボクが、ニンゲンだから?」


「……そうです。」


「…うん、わかった。ゼッタイ、ダレにもイわないよ。」


本来ならば口があるであろう場所に人差し指を持っていき、シー…と小さく声に出した聴診器に、炊飯器は首を傾げて息を潜め、「僕」に聞かれないように辺りを見渡す。

そこには、誰もいない。

聴診器の「そうです。」に含まれた、様々な感情を知ってしまっている炊飯器は、微笑みでそれらを受け止め、隠し、おやすみなさいと、暗い廊下に溶け込んでいった。

改めまして、初めまして、和餅(なごみもち)と言います。

この世界では初投稿となるので少し緊張しておりますが、何とか和めるように、頑張ります。


元々人外が好きで、次に異形頭さんにハマりました。

その結果がこの小説です。

明るい炊飯器君や、大人な聴診器さん、他にも沢山の異形頭さん達を出したいなと、今から展開を考えてはにやにやと笑って家内に気持ち悪いと怒られてしまったりしています。

そんなに言います????


何はともあれ、異形頭さんと僕。頑張って書き進めていきたいと思っていますので宜しくお願い致します。

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